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英雄カメラマンのホロサイト  作者: 霜月美由梨
六章:動き出す歯車
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6-14

 処置のためか、生足出したユイは座ってうつむいている。もう意識が回復したらしい。

「ユイさん、大丈夫ですか?」

「……すまんな」

 正気に戻っている暗い声に、ほっとしながら勇介は五島を見る。五島はうなずいて立ち上がる。

「とりあえず、点滴を取りに行ってきます」

「はい」

 ここにいてください、と目で言う五島にうなずいて勇介は五島が座っていたところに座る。

「とりあえず、足、大丈夫ですか?」

「ああ。これぐらいすぐに治る。ちゃんと刃も手入れしてあるんだろ?」

「ええ。錆び一つないですよ」

 笑った勇介にため息を吐くユイは勇介を見ずに目を落とした。

「くそ、自分では大丈夫だとは思ったんだがな」

「……あの人ですか?」

「……五島の助手で、俺の直属の上司を殺した、いや、俺があいつを殺す原因になった……。……いや、俺が、なにも疑わずに、あいつの言葉を信じたから、あいつを殺すことになった」

 支離滅裂な、整理のついていない言葉に勇介は首を傾げる。暗い目をしたユイを静かに見守って聞く姿勢を取る。

「すまん。もう、二十年近く前の話なんだがな」

「……いえ、気にしないでください。とりあえず、落ち着いてくださいね」

「……ああ。すまん」

「ユウ、ちょっとユイと話をさせてくださいね」

「了解です」

 立ち上がって点滴を入れた銀のトレーを手にした五島に席を渡し、外に出る。廊下には心配そうなミヤビがいた。ユイが錯乱しているという話を聞きつけてきたようだ。

「ミヤビさん?」

「どう? ユイは?」

「……相当まいってるみたいですね」

 声を潜めて率直な感想を言う。とりあえず、中に聞かれないようにミヤビとレストルームに向かう。

「何飲みます?」

「ココア」

「はーい」

 カフェマシンでココアとコーヒーをつくって勇介は先に席についていたミヤビにココアを差し出して向かいに座る。

「ユイがあの状態じゃ、使えないなあ……」

「五島さんに丸投げするわけにもいかないですからね。ユイさんの直属で使えそうな人いないんですか?」

「ユイほど潜入に適した人間がいないからねえ。上の方に寝返りを促す話術を兼ねそろえた人間」

「……交渉人と潜入工作員を兼ねそろえるのは難しいですね。どうしようか」

 ココアを飲みながらため息をついたミヤビは様になっている。なんとなく見とれつつ、背筋が伸ばしコーヒーをすする。格好つけてみたが、コーヒーは少し苦手なのだ。

「ユウ、そういえば、五島の所に保護されたあの子は?」

「ああ、栄ちゃんですか? 徳永栄吉少佐、職歴は略しますけど、俺と同い年で、二十歳。頑固、愚直、そんな言葉が似合う人ですね」

「二十歳で少佐か」

「ええ。まあ、昔より昇格の基準が低くなっているとはいえども異例の抜擢ですね。……連隊長は長澤大佐、俺の親父です」

「うーん……」

「使えませんよ? あいつ頭本当に固いですからね。あと、……美緒は」

「美緒?」

「ああ、栄ちゃんの彼女的な存在になった子です。それも俺の幼馴染なんですけど、警官でね。……軍部より緩いかもしれない」

「警官、か、それも使えるね」

「美緒に声かけてみます。どうせ、栄ちゃんと美緒、つながなきゃならないでしょうからね」

 勇介はうなずいてコーヒーをすする。

「ごめんね。最近ずっと負担かけっぱなしだ……」

「べつにいいです。大丈夫ですよ」

 うつむいたミヤビに勇介は笑う。

「もう、病み上がりじゃないですし。まだ仕事を覚えていない新人が、新しい仕事をやるのは一番効率のいいことですしね。まあ、カメラマンよりずっと暇です」

「大丈夫なの?」

「ええ。全然大丈夫です」

「本当?」

「大丈夫」

 不安げなミヤビに勇介は笑って頷く。近くにあるお菓子を取って出して一つ食べ始める。

「それより、ミヤビさん、自分の体、治してください」

「わかってるわよ」

「もう東支部も大丈夫です。だから、ちゃんと体休めて、その顔色どうにかしてくださいね」

「五島みたいなこと言わないでよー」

「五島さんも同じこと言ったんですか?」

「もう。……キチガイがない五島みたいってみんな言ってるわ」

 今度は五島か、とうんざりしながら勇介は空になったお菓子の袋で遊び始めた。

「ユイに似てるとも言われますけど?」

「戦闘スタイルはユイで私生活は五島……。たちわるっ」

「だから、んなこと俺に言われても困りますよ」

「まず、敬語やめなさい。それで大分薄れると思う……」

「そしたら、今度イサムそっくり言われるけど?」

「……うぅ」

 額を押さえるミヤビに勇介は笑っていた。どこに行っても自分は二番煎じだと思いながら肩をすくめた。

「まあ、しゃあないかもしれないですけどね。ま、なにも変わらないってことで。ミヤビさん、一人で何もかもやろうとしないでくださいね? 一応、俺がサポート役になるって言った以上、何か仕事もらえないとサボり言われますから」

「大丈夫よ。仕事はたんまりあるわ」

「……」

 にやっと笑うミヤビに勇介はむっと黙り込んでミヤビを見る。

「さあ、なにからやってもらおうかなー。会計とか無理でしょうから、あの時みたいに、各班の近況とか、聞いて。あたしの名前出せば、普通にどんな様子かとか教えてくれるわ。それをまとめて報告。たぶん必要な、欲しいものとかあったら言うからメモも」

「了解です。御用聞きってことですね」

「そゆこと」

 さっそく渡してきたな、と思いつつ勇介は笑って頷く。最後にコーヒーを飲み終えて、ミヤビと世間話をして、ミヤビのカップが開いたぐらいの頃に席を立ち、言われた仕事をこなした。

あけましておめでとうございます。今年もなにとぞよろしくお願いしますm(__)m


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