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英雄カメラマンのホロサイト  作者: 霜月美由梨
六章:動き出す歯車
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6-7

 そして、たまり場に化しているスパールームに顔を出すと、ほぼ全員が集まってじゃれていた。

「なんだ? 今度は」

「任務もぎ取ってきた。派手に暴れられるぞ」

 その声に、騒ぎ出す面々。

「その前に、人の出入り、張り込み作業があるがな」

 素直に声のトーンが落ちる。その浮き沈みを見ながら勇介は口元に笑みを浮かべた。

「後方支援は五班、八班。重装備は一、二、三。狙撃は六班。証拠隠滅の建物の爆破は四班、七班。九十は俺と一緒に行動。なお、後方支援にユイがつく。指示を聞くように」

「了解」

 見事にまとまっている面々にユイが驚いた顔をする。テキパキとした勇介の指示に、全員が驚いているが、合理的と判断してくれたようだった。誰も口答えすることなく動き始める。

「すげえな」

「一応、最初からこういう破壊活動向けに人員を配置していたんですよ、五島さん。まともに動かせるかどうかは、俺がなめられるかどうか。なめられなかったらこうやって動いてくれる」

 それだけ、

実力主義ということだろう。現役大佐の執務室に直接出向いて帰ったことがそれだけのことなのだろう。

 追い立てられるように準備を始めて出撃の用意を始める。

「新人、五島から」

「どうもな」

 タブレット端末を受け取ってなぞっていく。慣れた手つきで操作して写真を出す。

「こいつこいつ。これ、居たらビンゴでゴーだ。わかったな」

 端末を回して、確認させる。

「あと、片っ端からHDとか、PCを破壊するように。一台残しといてくれ。適当にトロイの木馬でもぶち込んで内部から破壊する」

「んじゃ、そのプログラミング、を八班のジョーと頼む」

「了解。そっち関係か?」

「ああ。確かそうだったはずだ」

 完璧に頭に入っているらしい勇介にユイが末恐ろしい奴とつぶやいて、八班の車に入っていく。勇介は十班の班長だ。

「新人、全員揃った」

「ありがとう。じゃあ、行くぞ。これからのレジスタンスの動きがお前たちの腕にかかってる、気ぃ引き締めていくぞ!」

 車庫に響く声でがなるとおおという声が上がる。

「出撃!」

 鋭い掛け声とともに、全員がそろった動きで車に乗りこんで走り出す。

「みんな、体のなまりとったみたいだね」

 軍隊の動きをしている全員を見てそういうと、一人が肩をすくめた。

「ガキが一匹いっぱしに働いてんの見て、俺たちだけサボってるわけいかねえだろ」

「素直になれよ、ガキの力になりたかったんだろ?」

「うるせーな」

 どうやら、自分が幼く見られているのかもしれない、と思いつつ、勇介は笑った。

「ありがとな」

 人を従わせるには、まず、心をつかまなければならない。小さなことでも、礼を言っておけばどうにかなるだろう。

「んで、いきなり出撃ってどういうことよ? お前が持ってきたブツ、そんなに動かすものだったのか?」

「たぶん、早いうちに手を打っておきたいっていう五島さんの判断。まあ、確かにやばい感じだったけど」

「どんな感じ?」

「イサムが、ここに来るに至った経緯、知ってるか?」

「そこにつながるのか?」

「大いにな」

 しばらくして、一人、沈黙を守っていた男が口を開いた。

「軍に失望したといっていた」

「父に失望したんだよ。彼は」

 低い声にかぶせるように言うと、それ以上の事情は知らなかったらしい。首を傾げる彼らに勇介はそっとため息を吐く。

「軍を抜け出す前日に、妹を亡くした。その妹は、父のとった指揮によって、采配によって死んだとされている」

「……?」

「ヴィアとの争点になっている、爆破制圧。アレ、長澤大佐が指揮を執ったものとして公表された。イサムはそれに失望したんだろう」

「……子供を殺す父にか?」

「守るべきものを守れない人に、とね」

 おそらくそうだろう。自分もそれを知ったとき、父を軽蔑した。

「だが、ふたを開けてみれば、爆破制圧ではなく、証拠隠滅のための建物倒壊で、俺たちや一般市民はそれに巻き込まれた形で犠牲者が出た。それに、その指揮を執っていたのは准将。たぶん、父に擦り付けたんだろうな」

「……その失敗を?」

「思いのほか、一般市民の犠牲者が多かった。だからだと思う」

「じゃあ、俺たちの犠牲が多かったら?」

「大々的にだろうな。そして、隠滅したかった証拠が、人体実験。表に漏れれば、国内からも、そして、国際的にも非難される代物だ」

 皮肉気な勇介に、冷静な表情をした男が勇介を見るように目線を上げる。

「すっぱぬくか?」

「それ以前になかったことにしてくれというのが五島さんのオーダーだ。だから、ああやってユイが出てきたんだろう? 当時を知るものとして」

「……」

 黙り込んだ隊員に勇介はそれ以上言うことはないと意思表示をする。そして、車は問題の場所まで着き、所定の位置での張り込みになった。

「総員に告ぐ。危なかったら退避しろよ。交代で夜明けまで。夜明けが来たら、研究員が動き出す。夜の任務だ」

 秘匿性が高くなるのは仕方あるまい。機密など、隠したいものが置いてある場所は普段から警備が厳重だ。

『ユウ、一応、ここらの無線をジャミングする。見つけたら、八班に連絡を』

「了解。ジャミングはどれぐらい?」

『明け方まで大丈夫。五班は初めから外して、橋の確保を』

「ありがとう。全九班で見るぞ。見落としのないように暗視ゴーグル着用」

『りょーかい』

 そして、交代交代、出入りする研究員警備員をチェックしていく。

『ハッキング担当八班から報告、防犯カメラの映像にたどり着いた。顔認識で見てみる』

「頼む。そっちの方が早いな」

『ああ』

 ふうと息をつくと、全員が勇介を見ていた。それに、何かやったっけと首を傾げた。

「なんだ?」

「いや、お前、飯とか食ったのか?」

 きょとんとするとおなかが答えた。食べてないな、と思っていると、気を利かせて携帯食料を持ってきてくれたらしい。真空パックに入った食料を急いで食べて、プロテインで流し込む。

「朝飯は食堂で食いてえな」

「まったくだ」

 残りのプロテインを腹に流し込んで立ち上がる。

『照合完了。ビンゴ!』

「そうか。中の様子は?」

『晩飯休み中らしい。のんきにカップ麺食ってら』

「……そうか。やり時だな。総員降りて突撃準備!」

 勇介の声にしたがって車から降りて陣形を整えていく。軍人らしいスキのない身のこなしだった。

「さすがだな」

 呟いて、口元に笑みを浮かべる。ヘルメットをかぶって近くを警備している二人組の兵士を狙撃によって無力化したのを合図に潜入に動き出し始めた。

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