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英雄カメラマンのホロサイト  作者: 霜月美由梨
六章:動き出す歯車
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6-5

「んで、この書類袋は何です?」

 五島が駐在しているモニタリングルームで、五島と一緒に書類袋を開けていた。

「父が、直接渡してきました」

 もちろん、部屋で鉢合わせしたということも報告済みである。書類袋を開いて、出てきたのは分厚い報告書だった。

「……重要機密の、廃棄令が出たやつを集めたものですね。長澤君もそういうことする人なんですねえ」

 意外に日に焼けていなくいい保存状態の書類に五島が呆れたように笑っている。

「どういうことで?」

「これ、かなり重要なピースになります。私が解きたいところですが、めんどくさいので、特務通信班だった人間にこれをもっていってやってください。東にいたはずです」

 この人の頭には一体何人のデータが入っているのだろうかとも思いながら遠い糸を手繰ってうなずく。

「……ああ、確か、三名ほど。その三人に渡します」

「それでいいでしょう。任務がほしいぐらいに暇なら時間をつぶして差し上げましょう。まあ、表題からして、とくに、秘匿性の強い任務の手どころと報告書をまとめたもの、そう考えられます」

「……」

 分厚いそれを見やりため息をつくと勇介はそれをもっておそらく全員がたまっているだろうスパールームに入る。

「もう終わったのか?」

「ああ。これから、ちょっと面倒なものの鑑定をしたい。特務通信班だったやつ、手応えのある暗号文がここにある。全部翻訳してくれ」

「ええ? その判てあれじゃないですか、最重要機密破棄令のヤツっすよね?」

「俺は若造だから知らん。とにかく、やってくれ」

 ひょこと顔を出した男に渡して、見てもらう。顔をしかめている彼に勇介はわざとらしく首を傾げた。

「なんだ?」

「これ、暗号文をロシア語に置換しなきゃならんです」

「じゃあ、やってくれ。ロシアならなんとなく読める」

 特務訓練生時代に英露中は一通りマスターさせられたなと思いながら、苦い学生時代を思い出して顔をしかめる。

「本当ですかい?」

「ああ。潜入暗殺の訓練だったから、外国語はまあまあ。ロシア語に翻訳した後英訳しておいてくれ」

「殺生なこと言わないでくださいよ」

「いいだろ、英訳ぐらいお前じゃなくてもできんだろ」

「あ、そうか」

 んじゃあ、これはこっちでやっときやすっという元気のいい声に任せて勇介はやっと自室に戻った。

「ずいぶん素直に聞くようになったな」

「そうですねえ」

 その会話をちょうど寝てたユイに話すと驚いた顔をしていた。

「まあ、長澤大佐の所に潜入して帰ってきたんだそれなりに実力があるって認められてもおかしくないな」

「そんなにめんどくさいんですか?」

「そりゃ、いやに決まってるし、ばれたら普通に殺されるんだぜ? 自分から屠殺場に入るのと同じぐらいなんだからな?」

「……まあ、そりゃそうか」

 なんとなく納得して勇介はベッドに座り込んだ。

「いいかんじじゃねえか? そっちは」

「……そうですね。ちょっとでも認めてくれれば任務をよこすこともできますし、そしたらあいつらも気分転換にはなるでしょう」

「で、お前はもっと忙しくなると」

「嫌なこと言わないでくださいよ」

 顔をしかめるとユイは楽しそうに笑って体を起こした。

「具合でも悪いんですか?」

 よく見てみると顔色が少し悪いユイに言うと、彼はただ疲れがたまってるだけだと笑った。

「二週間近く微熱が続いてて、取り合えず点滴治療だ。あと、寝てろとか言われたけど、俺はそんなに眠くないからな」

「とりあえず、部屋に待機って感じですか?」

「そうだな。待機もくそも引きこもりだけど」

 肩をすくめるとユイは暇といいながらベッドに倒れこんだ。

「暇なのが一番ですよ」

「まあな」

 寝てられる時間が持てるだけましだと呟いて勇介は目を閉じた。

「ま、ご苦労様」

 うなずいて、勇介もベッドに横倒しになって眠る。暇さえあれば寝たいのだ。これから過眠すら取れなくなるだろうなと、半ば予感を感じながらも、昼寝に意識を落としていった。

 そして、数時間後、ノックの音で目を覚まして扉を開けると、ロシア語翻訳が終わったと紙の束が渡されてきた。

「……こんなに、一人でか?」

「二、三人同僚がいたんで……」

「そうか、恩に着る」

 そういって勇介は紙をめくりながら扉を閉めて机に向かった。

「……重要機密、破棄。それと、……これは」

 どうやら任務の命令書を手書きで父が映してとっておいたものらしい。これを読むのは大変だ、と思いながら、あの日の命令書を見つけるために手繰っていく。

「……十月二十七……。あった、これか」

 上を見ると、題名には、レジスタンスのどうの、とは書いてはなく――。

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