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英雄カメラマンのホロサイト  作者: 霜月美由梨
六章:動き出す歯車
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6-2

「……今でははいとうなずけますね」

 長澤部隊は、軍部一隊員同士のつながりが強いとよく言われている。だからこそ、政治犯認定される脱走兵も最小で、出たとしても処理率はほぼ百パーセント。そして、任務完遂率も異様に高い数値をたたき出している。

 小さく笑ってあじの骨を取っていく。その様子をじっとアタエが観察しているのを感じながら、できたほぐし身を口に運ぶ。

「それは何で今更?」

 深い表情になったアタエに勇介は片眉を器用にあげて首を傾げて、ああと表情を緩ませてから目線を下げた。

「そりゃ、一隊持ったからでしょ? 俺の状態よりはましな状態から始まったんだろうけど、でも、赤の他人状態からあそこまで信用と信頼、絆のようなものを作り出せる、すごいことだと思います。兄は、人を引き付ける才能がありますから、苦労はしないんだろうけど、俺にはとても……」

「……人を惹きつけるか。たしかにそうだったな」

「だから、東支部の連中もあそこまで引きずって、ミヤビさんを傷つけて。たった一年で、そこまでの関係になった。……俺には」

「お前も十分そうだぞ? 勇介」

 アタエが身を乗り出して勇介の頭をガシガシと撫でた。周りはまた何かやってるよと呆れた目を向けているが、素直に勇介は頭を出していた。

「お前はまだ、半年ぐらいしか、ここにいない。でも、もう五島に信頼されて一隊任されてる。イサムじゃ、いや、このレジスタンスにいる連中全員でもありえないことだ。それに、勝手に言いだした潜入も認めてもらってるじゃねえか? 俺が言い出したら怒られるどころじゃねえぞ?」

 底抜けに明るく笑ってアタエは周りを見回す。現に何人かやめねえかと割って入るタイミングを計っている。

「本部の連中も南の連中もお前のことを気に入ってる。控えめすぎる。もっと自分に自信持て。もう、ここは軍じゃない。完全に実力、自分の力で人を認めさせる世界だ。認めさせるにゃ、自信を持っていないといつかは人は去るぞ? 親父さん、自信なさげにしてたことあったか?」

「……いえ……?」

 脳裏に父を思い浮かべる。家庭でもどこでもそんな顔をしていなかった。そんな行動も表情も出してなかった。

「んじゃ、そこ真似しろ。見取り稽古だ。見取り稽古」

「……?」

 首を傾げた勇介にアタエは頭を掻きまわしながら笑う。

「お前はお前にできる最大限のことをこの『クロートー』にささげろ。さすれば、人も、何もかも、お前が望む未来が手に入れられる。……俺も、ガキの頃、結構内気でよ、この図体でだ」

 笑えるだろ、と続けてアタエは席に戻って戸惑う勇介の目をまっすぐ見る。

「そんな時に、時のチーフがんなこと言ってくれたんだよ。忘れらんねえ言葉だよ。人にできることは違うから、自分ができることをやれば、これだけの人がいるんだ。絶対に組織が回って、いつしか、クロートーの糸の先が見えるって」

「運命の女神の、糸の先が?」

 おうむ返しの言葉にうなずいて、アタエはにっと力強い笑みを浮かべた。

「ああ。だから、もう迷うな。悩むな。お前が思ったことをやってみろ。責任は俺が持つから。いや、俺だけじゃない、ユイだってもってくれんだろ? やらかしたら、まず、ユイな。んで、俺を動かせばいい」

「……でも」

「いんだよ。おいぼれを顎で使うぐらいの若者になれ。何のために老いぼれになるんだよ。経験の浅い若者のフォローになる為だろ? ユイなんていろんな経験があるからな。潜入から女装までって言ってたっけ」

「女装?」

「ああ。ちょうどお前ぐらいかな、美人局するべって軍人ハメたわ」

 きょとんとしながら、その過去を聞いていると、そういや懐かしいなと、だれかが呟いた。誰もがアタエの説教を聞いていたらしい。小っ恥ずかしいなとつぶやきながら苦笑したアタエはちらりと色白メガネでユイと同じ世代ぐらいの男に目を向ける。

「そういや、こんな感じで殺伐としてた時だったな?」

「ああ。まあ、その美人局と、なんだっけ、ああ、あれだ、バカ、カズの野郎の射精のおかげで……」

 ぶっと吐き出す音と共に、むせる音。そして、上がったのは女の声だった。

「下ネタかますなバカ!」

「だって、奴が言ってたんだもん。一人で一つの筒からあの量の爆弾飛ばしたら……って」

「ユイと言ってろ!」

「最期の無線がそれだったんだぜ? かっこよく散るのかと思ったら、最後の最期まで下ネタで終わる人生ってどうよ?」

 と、脱線していく話をきょときょとと聞きながら勇介はとりあえず、ご飯を食べていた。

「まあ、これぐらいのヤマなんて古株からしたらまたかって感じなんだぜ? 大丈夫だ。またまとまるから。な、ミヤビ?」

 アタエが振り返った先にはやつれたミヤビがいた。バカ話に笑いがこみあげていたのだろう。肩が震えている。

「お前は、ふんぞり返ってるだけでいいの。参謀は優秀なのがいんだろ? 東が使えるようになるまでもう少しだろうから、それまで本部と南が踏ん張るんだぞ」

「りょーかーい」

 ちゃっかりまとめたアタエに勇介は内心拍手をしながら、味噌汁をすすっていた。

「お前は食うのやめないな?」

「腹減ってたんですよ。……本当にいいんですね?」

 食べ終わった食器をトレーに置いて立ち上がる。

「ああ。いいんだよ。これ以上ひどい状況なんて作れない。派手にぶちかましてやれ。ユウ」

 その言葉に、ふっと力が抜けたように笑って、アタエとこぶしを突き合わせて、力強い笑みを浮かべた。そして、勇介は切り替えるようにため息をついてアタエにトレーを押しつけた。

「んじゃ、よろしくお願いしまーす」

 おいまて、という声がかかる前に顎で使えって言ってたのは誰だーという野次が飛んできた。それに笑いながらミヤビに会釈してから食堂を出ていった。

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