5-9
「……なぜだ?」
「……このまま東と本部の間に大きな溝があったら、来る革命の時に協力体制ができないだろ? なにも、俺たちが集まっているのは、国軍相手に戦争をやる為じゃないだろ?」
「……」
「俺たちが集まっているのは、失われてしまった自由を取り戻して、まっとうな世界に帰る為。その運命の糸を手繰るためにここに集まっている。……ちがうか?」
ユイから教えてもらったクロートーの基礎となる行動理念。東支部はこれを忘れてしまっているだけなんだ。目標が違うのであれば動く方向性は違うが、目標が同じならば、きっと同じ方向を向ける。
「クサいことを言うな」
「それぐらいの理想論で集まった連中でしょう? ここにいるのは」
首をかしげて見せると、顔をしかめて肩をすくめたシュンがいた。
「忘れてたよ、その言葉」
「だろうから言ったんだ。思い出してもらえたな?」
「……俺たちはな。奴らはしらんぞ」
「その時はその時だ」
肩をすくめて笑った勇介に全員呆れ笑いを浮かべた。
「それで大丈夫か?」
「大丈夫だろ? いざとなったら一人に見せしめで、とも考えているし、イサムが絶対的だったら、化ければいい」
「化ける?」
「……こんな感じに」
低めの声に変わると驚いた顔をしている。チイやミヤビに似ていると言われたのだ。相当のものだろう。
「お前、なんで……」
「ま、いろいろあってね。無線越しならだませるだろ」
「……まあな」
あきれているらしい三人に勇介は笑って立ち上がった。
「大丈夫か?」
「ええ。もう大丈夫です。さ、着いたことだ、どこかから酒でももってきて飲むか?」
「飲めるのか?」
「結構飲める口だと思うが? 規則で飲めないとかないよな?」
「大丈夫だろ。少人数ならたまに飲んでいた」
「大人数になるとダメなんだな」
「暴れはじめるバカがいるからな」
「軍でもいたな」
車を降りて装備をレイに預けて、酒のある場所を聞き出して勇介の部屋で飲むことになった。もしかしたらユイがいるかもしれないと思いながら勇介はあえて黙って部屋に戻り、軽く片付けてシャワーを浴びた。
十四畳ほどの部屋に二つベッドが置かれているだけの部屋に勉強机が一つ。隊員同士が集まった時用に置かれている収納机を出して、人を待つ。
「新人」
「いるぞー」
扉を開けて入れてやると両手にいっぱいの酒を持ってきたキョウがいた。
「シュウがグラス、サクが氷と割り材持ってくるわ」
「わかった。酒はそれだけか?」
「もっと飲むか?」
「あるのか?」
「つーか、ここユイの部屋だろ?」
「勝手に飲むなよバカ」
後ろから声が聞こえてびくと体を震わせたキョウにユイはにやっと笑った。
「いきなり飲みか。いいじゃねえか」
「シュウとサクが来る」
「ほう? じゃあ、俺もいていいな。俺も飲むわ」
「わあった」
キョウが酒を勇介に渡して部屋から出ていく。
「ユイさん?」
「ちょっと待ってろ、確か、酒はここらに隠したはずって、あった」
渡された酒を机の上に置いてユイのベッドの下に置かれたケースの中をのぞき込むと、たくさんの酒瓶と、隣のケースにはぎっしりとたばこが詰まっていた。
「酒タバコのユイって言われてるぐらいなんだ。これぐらいもってるさ」
「酒タバコって……」
「久しぶりだな、ユイ」
「おう、抗争前に一回飲んだきりだから二年ぶりぐらいか。ほんと久しぶりだ」
サクが皮肉気な顔をして鼻で笑っている。その手には氷と割り材、水が入ったピッチャーやレモン汁などがある。
「ほかの特務の連中は拒否ったか?」
「ああ。ガキに手を貸す余裕はねえっつってた。まあ、でも、これから一緒にやるようになって認識を改めるだろう。いいタマだ」
「だろう? 俺の弟子だ」
「変なこと身に着けるなよ」
「大丈夫です。エロ本は見てません」
キリと断言した勇介にユイはこけてサクと後ろにいたシュンが吹き出した。
「まったく。ずれてんだか何だか……」
「元からだ。あきらめろ」
ため息をついたサクたちに首を傾げた勇介は、とりあえずと、サクの手にある水などをテーブルの上に置いていく。そして、サクが部屋に入り、シュンがグラスを、そして最後に入ったキョウがつまみを手に入ってきた。
「お前らはこいつを認めた感じ?」
ユイが手馴れた手つきで酒を造っていく。思えば、五島の店でこき使われていた気がした。そのせいだろうか。
「まあな」
手渡されたハイボールを手にサクが肩をすくめる。シュンは甘く作った酒を手に、キョウは焼酎をロック、そして勇介はウイスキーの水割りを手にしていた。
「つーことで、新人の快気祝いと就任祝いってことでいいのか?」
「まあ、そうだな」
グラスを軽く突きあって一口含み飲み込む。一気飲みをしたのはキョウ。
「……あいつよく飲む割にはすぐ吐くからな」
「……弱いんですか?」
「そこそこ強いのに飲み方が豪快すぎるんだ」
耳打ちしてきたのはシュン。彼は弱いらしく、もう赤くなっている。
「うわばみなのはユイとサクだ。お前も吐くまで飲まされるから覚悟しとけ」
「……」
ちびちび飲んでいるシュンに勇介は頬を掻いてもうグラスを開けているユイとサクを見た。ユイが飲んでいるのはおそらくウォッカだろう。
「おい、新人、まだ空いてねえぞ、どんどんのめや?」
早くも絡み酒になっているらしい。サクにうっとおしさを感じながら、ため息をついて、そのペースに付き合うことにした。
「わかったよ、今開けっから」
「おい、新人、あんま無理すんな」
「大丈夫ですよ」
水割りを飲み干してたんとテーブルに叩き付ける。
「なんでも飲むぞ。入れてくれれば」
そうかそうかと、ユイが悪乗りしてウイスキーをロックで入れる。彼の目はまだ逝ってない。ちゃんと様子を見ている。
「おいしいですね」
シュンを置いて勇介も中に入っていく。キョウはニコニコとしている。彼は笑い上戸らしい。
「だろう? 一応これ、輸入もんのちょっと高い奴だ。俺も味気に入っててね」
黒いラベルのウイスキーを見ながら勇介は、のどが焼けるような、強い酒独特の飲み口ににやりと笑った。鼻に抜けるふくよかな香りに機嫌もよくなる。
「いい飲みっぷりだ。ほら、ユイ、もっと注げよ」
もったいねえと言いながらもユイも注いでくる。今度はウォッカだ。ウイスキーとウォッカのチャンポンはまずいんじゃないかと思いながら、自分の体を信じてみる。
と、いろんな酒のチャンポンを試されたが、特に吐くということもなく、逆に酒瓶をとり、注ぎに回って周りを吐かせにかかった勇介は、翌日には一緒に飲んだメンバーにザルと言わしめたのだった。




