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英雄カメラマンのホロサイト  作者: 霜月美由梨
五章:移ろう時の中で
71/101

5-6

「遅いぞ」

「すまん、銃を探していたら時間がかかってしまってね。この通りだ」

 頭を下げてみせてから車に乗せる。そして後ろの扉を閉めてレイが車の中に入れておいたらしいビルの設計図を広げて見せた。

「四人いるが一人見張りで、三人でビルの爆薬設置をする。十階建てだから、大体一人三階、C4の数にして二十個強、大目にもっていって適宜必要だと思うところに。重要なのは一回のアンテナ近くの側面と、五階のアンテナから反対側の壁。そこを崩して逆くの字型にビルを倒壊させたい。ようは表にアンテナが立てられないようにがれきでつぶしたいというのが本音だ。見張り役はアンテナにC4を設置。いいな」

「了解」

「皆の、特殊作業の経験に期待している。この新人に仕事を教えていただきたい」

 そう締めくくってアイコンタクトをかわす。皆いい目をしている。

「新人か。そういやお前、入っていくつだ?」

「半年もたってませんよ?」

 それから少し雑談タイムになって、そんな質問を受けていた。

「ふーん。にしては落ち着いてられんだな?」

「というと?」

「俺がっていうか、大体、新人て戦犯認定されて気が動転してな、使い物にならないんだよ」

「なんで気が動転するんですか?」

 きょとんとすると、逆にきょとんとし返された。

「だって、お前、家族とか友人とかと会えなくなるんだぞ? 嫌じゃなかったのか?」

「……。たしかに母には悪いとは思いますが、父とは元から折り合いがよくなかったので。……軍人で、仕事熱心過ぎて家庭を顧みない人ですから」

「友人は?」

「みんな軍人です。当然、銃を向けて、一番の親友を……」

「殺したのか?」

「いや、軍人では生きられないようにしてやりました。……右手を切り落として、左手の手を、手首を動かす腱を断ち切って」

「……」

 しん、と静まり返った車内にガタガタと道を行く音が響く。勇介はうつむいて口の端を吊り上げて無理に笑おうとした。

「あいつ、狙撃で、俺を殺そうとしてきた。……復讐するつもりなんてなかったけど……」

 わけもなく、声が震えた。黙り込んだ一人の先輩がぽんと勇介の肩に手を置いた。

「任務終わったらいろいろ話そうや。……このレジスタンスでは、友殺しはご法度になってるんだ」

「え?」

「そうやって気に病む隊員が多くなるからな。……ユイがやばかったというのは聞いたことあるか?」

「一番病んでいたころがあるっていうのは聞いたことありますね」

「そん時、っていうか、入りたての頃、友人殺しをして、全員ぶっ殺したって言ってたかな。それで半年、一年ぐらいまともに動けてなかったな。それから、体壊すまで熱中して、五島さん入ってきてドンパチやらかしてすっきりして」

「五島さんと?」

「一発殴らせろ程度だがな。五島があおって、ぼっこぼこにして、まあ、殺すつもりはないって言わしめたからな。そっから、あのはっちゃけユイだ」

 聞いたことのない話に、勇介が唖然としていると、彼は肩をすくめた。周りも仕方ないだろと言いたげな顔をしている。

「ここは過去不干渉だ。だから、お前のスタンツは正しいものだ」

「……それに俺自身も助けられているところもありますけどね」

「どういうことだ?」

「……まあ、別に俺の過去は大したことない、特務訓練生で辞めて、カメラマンして戦犯認定されてこっち来て、ですけど、まだ、いろいろ話せてないことがあるんですよ。そこ、突っ込まれるとちょっと俺の立場変わっちゃいますから」

「苗字か?」

「あれは突っ込んでもらいたくなかった。アレは絶対に言えません」

「気になるな」

「……そのうち、ですね。いうとしたら。もっと、俺はオレとして動いて行かなければならない」

 そういって、勇介は自分の手のひらを見つめた。

「無理すんなよ」

 思いがけずかけられた言葉にはっと顔を上げると、先輩は立ち上がっていた。

「名前、憶えているかもしれないが、俺はサク。まあ、ふつうに名前も朔だから、別段変わったことはないんだがな」

「よろしくお願いします。サクさん」

「おう、見とけよ、新人。俺らの仕事」

 打ち解けてみれば、普通にいい人たち。これから、兄とミヤビと本部について切り込んでいかなければならない。

「しっかりメモらせてもらいます」

 おどけて返して、止まった車から外に出て素早く展開する。辺りはもう暗い。暗視ゴーグルをつけてビルまで走る。

「待て……」

「……」

 手で止められて目を凝らす。

「やっぱり監視がいるな。もしかしたら、狙撃もいるかもしれない」

「……裏回りますか?」

「そっちがいいかもしれないな。陽動を使うにも人が足りない、か」

「スタン投げるわけにもいかないよな」

「地道につぶしていくしかない、か。サプレッサー装備してるやつ」

「一応装備してます。予備ありますけど使います?」

 取り出して差しだすと、よくやったと言わんばかりに髪をぐしゃぐしゃにされた。全員が装着し終わったのを見て勇介は監視役で一人でいる兵士を見やる。

「二人、後ろからまわれ。おそらく向こう側にもう一人いる。ツーマンセルが基本だからな」

「わかった。キョウ、行くぞ」

「おう」

 二人離れてビルの裏を通って向かい側に移動する。

「……」

 移動して索敵が完了しただろう頃合いを見計らって銃を向ける。

「下狙う」

「了解」

 下は股間。勇介は振り返った瞬間の耳のあたりを狙っている。

「行けるか?」

「振り返ってくれれば」

 その言葉に、相棒役はにやっと笑って左手でグロック19を握って兵士の足元を狙って引き金を引いた。

「……」

 にっと笑って振り返って警戒を始めようとした彼の頭を狙って引き金を引く。見事着弾。

「お見事」

「援護ありがとうございます」

 銃声が聞こえた。どうやらあちらも始末を終えたようだった。銃声を聞かせるためにわざとサプレッサーをとったのかもしれないなと思いながら銃をしまった。

 頭から血をながして死んでいる男を見ながら、向こう側から仲間が二人出てくるのを確認し、後ろにうなずきかけて走り出す。

「俺が見張ってます」

「了解」

 そういってビルに駆け上がっていく男たちを見送って、勇介は周囲に気を付けながらアンテナの下にC4を仕掛けて入り口付近に身を潜ませる。見たところ狙撃手の姿は確認できない。

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