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英雄カメラマンのホロサイト  作者: 霜月美由梨
五章:移ろう時の中で
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5-5

「……」

 机に投げ出しっぱなしになったファイルと兄の教科書。

「兄さん」

 そっと名前をなでて勇介は目を閉じてため息をついた。自分は今試されているのだ。彼らをまとめる才能があるかどうかでこの組織での扱いが変わる。

 兄の姿を思い出す。彼ならどうする。この状態。

 ミヤビが追いつめられて、組織は瓦解寸前。どちらを優先させる。

 考えて行動しろ。誰も動く人はいない。

 少し緩んだ心を引き締めなおして、ファイルを手に取って机に向かう。紙とペンを手にして、ファイルを手繰って分析を開始する。情報こそ組織の武器。気になった点は洗って行け。

「おい、ユウ!」

 声をかけられて手を止め、振り向く。

「すいません、気づかなくて」

「大丈夫か? 熱中してたみたいだが」

「情報の整理と分析を」

 呼びに来たのはレイだった。東支部の人間を組織するのに必要だろうとあてがわれた人間だ。使わせてもらおうと改めて思いなおして立ち上がった。

「んで? 何か?」

 静かな声だと自分で思った。人格が変わったようだった。どこか自分の意識が浮ついているようで不思議だった。

「ああ、五島さんが呼んでいる。早速だが、任務だと」

「……わかった」

 結成して一日もないのにか、と思いながらため息をついて五島がいるだろうモニタリングルームに入る。

「五島さん?」

「いきなりごめんなさいね。暇なのはキミたちしかいないので。全員は必要ありません。適当に君と合わせて六名でこれを」

 差し出されたのは一枚の紙。衛星写真だろう。赤丸がつけられているのはアンテナだった。

「そろそろ、ここらへんの地域の区画整備に乗り出すようで、アンテナが立ってしまいました。これを壊してください。土台から、そうですね、隣のこのビルも一緒に倒してください。このアンテナを中心にして十平米ぐらいがこの地域の電波通信をカバーできる電波を流せる位置です。意外にここらは高度が高いですから、ここさえ死守できれば大丈夫です」

「……五島さん」

「なんです?」

「ここは俺たちは使ってませんか?」

「地下を使ってます。上で騒いでも大丈夫ですよ」

 にっこりと笑った彼に勇介はうなずいて、じっと写真を見つめて一つ頷いた。

「C4をもらいます」

「わかりましたか?」

「詳しい数値は計算できませんがイメージはできました。さすがにそこまでは……」

「まあいいでしょう。まあ、たくさん持ちなさい。とりあえず、側面に多めに、二段階に折れるように五階部分の反対側にまた大目に。そこの二つは同時に、むしろ上を先に」

「了解しました」

 うなずいた勇介はレイを引っ張っていくと武器庫で?4を車に積ませて六人を選出して呼び出す。

「なんだよ」

「指令。旧市街地区におっ立てられたアンテナぶっ壊せ」

「……めんどくせ」

「文句なら五島に言ってくれ。アンテナとその周囲十平米ほどをまたアンテナ立てられないように近くのビルをぶっ壊す。一人十四個ほどC4もってビルに入り、設置後、撤退。爆破の流れで行こうと思う」

 無作為に選ばれたと思っている六人それぞれが嫌な顔をしている。

「ここにいる連中はみな、特務の特殊作業経験だと聞いた。だから選んだ。その経験を活かしてくれ」

「お前は?」

「……教えを乞いたい。俺は、特務の訓練生で辞めた」

「なぜ?」

「身内に戦犯者が出た。やめたというよりは辞めさせられたというのが本当だな」

「……」

 いぶかしげな視線にため息をついて、頭を下げた。

「頼む。力を貸してくれ。アンテナの設置された場所。ここらの無線を掌握できる位置らしい。奴らにそこをのさばらせておきたくない」

 一人、二人と立ち去る。残ったのは三人。

「力を貸してくれるか?」

「ああ。そんな場所に置いておくわけにもいかないだろう。お前を認めたわけじゃない」

「……それぐらいわかっている。重要度をかんがみてもらいたかった。ありがとう」

 完了時間に遅れが生じるな、と心の中で呟く。補修しようとは思わない。そんな時間があるのならば、とっとと終わらせるまでだ。

「準備は?」

「できている。装備を整えておいてくれ。C4を多く持っていくことになる。その分軽めに」

「軽めかつ、制圧力は抑えないように」

「ああ。銃弾もそれ相応に持っておいてくれ。もしかしたら一戦交えるかもしれない」

「わかった」

 それだけを指示して、自分も装備を整えるために部屋に戻り、ナイフを数か所に差して拳銃を取りに武器庫に入る。

「……」

 おそらく国軍兵からとってきたのだろう。さまざまな種類の銃が置かれている。通常配給される銃は特に多くなっているが、中には好みで差してあった銃があるらしく、古いものから新しいものがそろっている。

「……」

 ふと目についたのはコルト。そっとため息をついて、それを手に取って不思議と手になじむ、と感じながらサプレッサーを探して取り付ける。そして、弾薬とサプレッサーの替えと予備の銃、SP2022を差してC4を入れるバッグを持っておく。

「ユウ」

「今行く」

 火薬のにおいをかいで気持ちを切り替えると、勇介は外に出て控えていたレイにバッグを渡す。

「メンバーは?」

「お前待ちだ。C4はもう詰めてある」

「……そうか。レイ」

「なんだ?」

「お前はここで待ってろ」

 連れていくとは言っていないよな。と目で言うと、レイはじっと勇介の目を見てため息をついた。

「わかった」

「ありがとう」

 バッグを預けて走り出す。

「ほんと兄貴そっくりだわ。あいつ」

 ぼそという言葉を背中で聞きながら、勇介は一人で苦笑していた。

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