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英雄カメラマンのホロサイト  作者: 霜月美由梨
五章:移ろう時の中で
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5-2

「今から、名を呼ぶので、その通りに隊を形成してください。第一班、エン、コウ、レツ、ギョウ、リン」

 五人一チームとして六つの小班を作る。ユイに渡されたファイルを参考して作ったのだった。

「これから、この小班で活動をしてもらいます。前線で破壊活動をしてもらうとともに、空いた班で敵へ妨害活動をしていただきます」

「妨害活動?」

「車ぶっ壊したり、チャフを焚いたり、非殺傷系の活動です。まあ、車を壊したりするときは非殺傷的とはいいがたいですが。……戦車に近づいてC4を取り付けてもらったり。特攻してくださいとは言いませんが、全員C4とグレネード、チャフの装備を通常としてもらいます」

「それ以外は?」

「自由で。まぎれるのを防止のため、腕に腕章のようにバンダナを、任務中はつけてください」

 次々に飛ぶ指示に全員が怪訝そうな顔をする。

「どこまで考えてるんだ?」

「意識を取り戻して三週間、暇だったのでいろいろ指示することを考えていたんです」

 だから考えついたことを指示として出したというと、何人かが感心したような顔をした。

「各班班長を決めて、そして、無線兵を決めてください。一から一まで俺が決めてちゃ意味がないですから。同じ支部ですからそれなりにコミュニケーションはとったことがあるでしょう?」

 名簿をどこからともなく出して、班長と無線兵が決まった順に赤を入れていく。

「覚えられんのか?」

「基、もう全員の情報は頭に入れておきましたからそれに加える形になりますね。特務訓練生やってる時はこれ以上でしたから」

 そして、入稿のスケジュールもこれの比じゃなかったと加えると、案の定聞いていた男たちの顔が不思議そうなものに変わる。

「にゅうこう?」

「国軍からこっちに移ったのではなくて、国軍をやめて父のつてを使ってカメラマンをしていたんです。報道関係者、まあ、いわゆるマスゴミの片棒を担いでいたんですけど、ブラック中のブラックでね。毎日が入稿、つまり、写真をブンヤに下したり、時に自分で文章を書かなきゃならなくて大変だったんです」

 それに比べてこっちはゆるくてやりやすいと呟いて勇介は笑った。

「お前、なにができないんだ?」

「え? ああ、できないことって言ったら料理とか、そういう日常的な生活ですね。一人暮らししてたんですけど汚屋敷状態です。帰ったら片づけないとな」

 ぼやきながら赤を入れ続けて、続いて無線の周波数を合わせておく。

「あ、俺の部屋に来たら、写真とかいろいろ見せられますから、興味ある人は来てくださいね」

「おい、新人」

「なんです?」

「本名名乗らないのはどういう了見だ?」

 一班に指定した一人が声を上げた。その言葉に勇介はため息をついて肩をすくめた。

「別にあなた方が知らなくていい情報だからです。下の名前は勇介、と申します。上の苗字は勘弁してください。このレジスタンスで明かすつもりは一切ありません」

 きっぱりとした拒否にいぶかしげに眉が顰められる。東支部にイサムがいた、という情報から、極力これは表に出さない方がいいだろうと判断した結果だった。じっさい、どんな色眼鏡で見られるかわからない。もっと実力を見せて侮られないと確信して、なおかつ機会があれば、公開してもいいだろう。

 最初はユイに言われて隠していた苗字だったが、ここにいるうちにそう思っていた。イサムの弟、長澤大佐の息子というのはこのレジスタンスには大きな存在過ぎる。

「ハッキリ言わせてもらう。軍のスパイじゃねえだろうな?」

「真っ向から聞いてどうするんですか? もし本当でもはいそうです、なんて答えますか? 自分に置き換えて考えてくださいよ。まあ、違いますけどね。スパイだったら五島さんが始末しているんじゃないですか? たとえば、昨今の混乱した戦場の中、頭を打ち抜く、とかいろいろ方法を使ってね」

 裏返せば勇介ならばそうする、という宣言でもあった。卑怯な手だが、勝つための手段である。目的を勝つことに置いていない思考では当然のこと。

「見た目より冷酷な判断をするかもしれません。お手柔らかに」

 それからお開きになり、五島に報告に行く。大したことないと言っておいて、これからの命令指揮系統を確認しておく。

「キミには私が直接指示を出します。キミは極力動かずにそっちの指揮のトップに居られるようにしてください」

「わかりました」

 退屈な戦場になるな、と思いながら勇介はため息をついた。

「最初は暴れ馬ですが、徐々に落ち着いてくるでしょう。暴れ馬に鞭打って調教しなおしてくださいね」

「了解です」

 危ないのは一、二班だな、と目星はつけてある。

「あ、あと、絶対イサムの弟だと明かさないように」

「わかってますよ。色眼鏡使われるのはもうこりごりだ。切り札に取っておきます」

「それでよろしい。軍でも色眼鏡を?」

「ええ。それはもうたくさん。軍だと大佐の息子っていうレッテルもありますから、出来損ない呼ばわりでしたよ」

 いまや認めてくれる大人がいる環境に身を置けたからか、徐々に自信というものを取り戻してきていて、自分がいた環境がいかにダメな環境だったのかがわかった。

「ここは人の過去に不干渉が常ですから。なにがあろうともしゃべることは強制されない」

「……ええ」

「私も、ここにいる前、つまり、軍にいた時、開発班の医療部に居ました」

「え?」

「そこで、毎日人を五人は殺してましたね。そういう私も、こうやって表に立っていられるんです」

「……ああ、実験体とかそういう関係で?」

「ええ。ユイがここに身を落とすきっかけを作ったのも、私が開発していた薬のせいでした。まあ、彼曰く自分で決着はついているから穿り返すことはしないと言ってくれましたがね」

「……?」

 なぜ、五島がこういう話をするのか読めずに首を傾げた。

「本人さえ乗り越える気があれば、その出来事に決着をつけることができる、というわけですよ」

「……ああ、東支部と本部の?」

 ようやくつかめた本意にうなずくと彼は満足げに笑った。

「そう。あの部隊はわざと、本部と対立している人間を集めました。レイ、東支部長の人選でね」

「レイ、さん、ああ、あの時の後ろに立った?」

「そうです。彼にあなたの話をしたらうまいこと事が運んだのでね」

「……何を話したんです?」

「イサムを弔う気があるんだったら望むことをしてやれって。言ってましたよね?」

「……ああ、あの時」

 だいぶ長く時間が経っているように思えるが、そうでもない。ほんの一か月と数週間前の話だ。

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