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4-14

「ユウ?」

「……ああ、カイさんか」

 振り返って待っていると、まっすぐカイが歩み寄ってきた。

「久しぶり、新人」

「お久しぶりです」

「カイ? どうしたの?」

「ユイの供回り。ユイは今五島の手伝いしてるけど、終わり次第訪ねるって」

「了解」

 片手を上げたミヤビにカイは勇介の隣の席に座ってケイをパシッてご飯と取ってこさせた。

「見ないうちにずいぶん元気になったのね」

「若いから回復力がすごくてね。五島の手伝いってことはあのバカの始末やってるんでしょ?」

「そうそう。東の先走ったバカども。それ捕まえるのに一役買ったってね?」

「一役どころじゃないわよ。地面とお友達にしたのよ。あの人数」

「ほう? やるじゃん」

 ケイからトレーを受け取って特盛らしい生姜焼き定食を普通に食べているカイに一同微妙な顔をした。ミヤビでさえも少し引いている。

「カイ、それ、全部食べられるの?」

「ああ。普通じゃないの?」

「普通じゃねえよ。俺でももたれるぞ」

「そりゃ、年だからでしょ。やっぱ本部のおばちゃんのが一番ね」

 と言いながらどんぶりいっぱいに盛られたご飯と大きな一枚肉を食べる彼女に誰もがなにも言えなくなっていた。

「相変わらずのようね。カイ。カロリー摂取には気をつけなさいよ」

「大丈夫。これから動く予定だから。ビタミンも果物で取ってる」

「それならいいけど。でも一回の量を少なくして食事の回数を増やした方が体にはいいのよ?」

「でもこれが習慣になったし。あ、新人、もう食べねえんだったら汁ちょうだい」

 机に乗っているものすべて食べそうな勢いに飲まれてうどんの汁の残りをカイのトレーに置いて勇介は救いを求めるようにミヤビに目を向けた。

「とにかく、ユウの仮配属先はどこにしようかしらね。あんまり本部に入り浸ってもダメだから、どっかほかの支部にすると思うんだけど」

「ミヤビ、ユウは東につけな」

 静かな声が聞こえて振り返ると、完璧に気配を殺して待機していたらしいユイが表情なくやってきた。

「久しぶり」

「ええ。そうね。どうしたの? 余裕ない顔して」

「ちょっと腹立ってるだけだ。ユウ、元気そうで何よりだ」

「あ、どうも」

 怒っているらしいユイがため息をついて少しだけ硬い雰囲気を解くと少しだけ雰囲気が緩まった。

「大丈夫? いろいろ任せてるけど」

「ああ。まだキャパ越えはしてない。つーか、仮配属だろ? ユウを東に付けようってことで五島と話がまとまったんだ」

「あんだけ欲しいって言ってたのに?」

「いろんな経験をさせてからだ。東で統率力をつけてもらおうと思った」

「……つけられる?」

「俺はできると信じているよ」

 笑ったユイに勇介は目を見開いてユイを見た。

「実際、レイは東に新人が入ることを容認した」

「させたんじゃなくて?」

「したんだ。レイがうなずけばどうにかなる。あとは奴らに認められるだけの実力があるか。体のなまりは南で取ろう。カイ。興味あるって言ってたな?」

「付き合うよ。この子、面白そうだし」

「面白いぞ。俺が目をかけるってことで分かっと思うけどよ」

 笑って頷く二人には似たような雰囲気があった。目をしばしばさせていると、ミヤビはため息をついてうなずいてアタエは呆れた顔をしていた。

「でも、まだまだ先の話だからね。肺の癒着が済んでないから、あと三週間近く上体を激しく動かす運動は禁止」

「下半身は!」

 嬉々としてふざけるユイにミヤビが思い切り後ろにこぶしを振り上げみぞおちをとらえた。

「ぐお……」

「当然、呼吸が荒くなることも、激しい運動も禁止よ。それでまた気胸なんてなってもシャレにならないからね」

「了解しました。要は三週間近く寝て過ごせってことですね?」

「そういうことになるわね。日常生活程度ならば差支えがないわ。そうね。戦術などを……」

「あ。そうだ、東に行ったら一隊持ってもらうから、これ、諜報班からお前に」

 一冊のファイルが手渡されてパラパラとめくってみると、隊員の細かなデータがのってあった。

「これは……?」

「諜報班特製の隊員のデータまとめだ。出来はいいはずだから、頭に叩き込んどけ。三週間の宿題だ」

「……了解です」

 さっそく目を通し始めた勇介にユイはにっと笑ってミヤビに目くばせをした。

「ユウ。あと」

「なんです?」

「イサムがどうのって言われても気にしないでね」

「ああ、大丈夫ですから。……俺はあの人ほど優しくないと思いますから」

 すっと目を細めた勇介にユイが笑ってミヤビが驚いた顔をした。アタエはなにかわかったように笑って、なにも知らないヨウとケイとカイは首をかしげていた。

「……飯も食い終ったわけで、やることもないんだったら部屋に戻していいか?」

「そうね。まだ、意識取り戻したばかりで疲れたかもしれないわね。ユイ」

「ああ。ちょっと俺的にも話したいこともあるからな。いこうぜ」

 ファイルを片手に周りに会釈をしてから立ち上がって食堂を出る。廊下を行き来する隊員は忙しそうだ。

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