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「ユウ、ご飯来たよ」
「え? あ、ありがとうございます!」
勇介は立ってミヤビからトレーを受け取って、テーブルにつくとがっつき始めた。
「ほんと食べるの好きだよな。お前」
「これぐらいしか楽しみないんですもん。ここの食堂おいしいし」
と言いながら、具だくさんのうどんを頬張って表情を緩ませる。その顔を見てアタエがいきなりはたと手を打った。
「……そうか。ユイは下半身が活発だから飯あまり食わないんだ」
「……それは正解かも。性欲と食欲は互いに代替ができるって言うのよ。だから、女が恋をするときれいになるっていうし」
「……性欲が男によって満たされるからやけ食いに走らないってことなのか? ヨウ姐さん」
「ええ。そうよ」
真面目なのかわからない話をし始めた三人を放っておいて勇介は食に走り、ミヤビはいらいらと聞き流していた。
「にしても、次なにしようか?」
「え?」
ポツリとミヤビが言ったのを聞いて、バカ話に花を咲かせていた三人がミヤビを見た。勇介はじっとミヤビを見ている。
「人員補完は五島に任せるとして、今の状態では私たちは動くことができない。移転後は、人の出入りについて警戒したいから、外に出ることも控えたい。基地で個人訓練なんて暇潰しにもならないでしょ? ゲリラをやろうにも人員が足りない」
「外のことより中のことに目を向けてくださいよ。ミヤビさん」
「そうだそうだ。中をどうにかしないとだめよ?」
「どうにかなるようなもんじゃないだろ」
「でもどうにかしないといけないのは間違いないわ。まず、内側の問題を解決、か。一番難しいわね」
「……どうにか東の連中が黙ってくれればいいんだけどな」
「もともとうるさい連中だったわけだし。……」
「ヨシの時は黙ってたのが、ミヤビに代わってうるさくなったんだ」
「……小娘がでしゃばるなってことか」
「奴らから言わせればそうなんだな」
皮肉気に肩をすくめたアタエに勇介はうどんをすすりながらミヤビを見た。ミヤビはどこか思い詰めたような顔をしている。
「とりあえず、立て直しを図るとともに、……副チーフの選任を」
「それが先だな。お前がチーフになるのに異論があるやつはいないと思う」
「……そうだね。ミヤビぐらいしか、チーフのこまごました仕事を今からこなせる人はいない」
「うん、ユイ入ってくれるかな?」
「あいつは拒否るぞ。イサムの前だってユイになる予定だったけど徹底的に逃げ回ってたからな」
「ありゃ猫だよな。脱走試みて大変だった」
「全員にサーモグラフィ支給してユイを見つけろとか、バカみたいな企画もあったな」
かつてのバカ話に笑い合っている彼らに勇介はその様子を見ながら目元を緩ませた。
「さて、どうするべ。でも、ミヤビのことは放っておけないって、奴のことだ、期間限定かなにかでサポートに入ると思うぞ?」
そこらへんの体制もはっきりさせなきゃね、とミヤビが締めてふと勇介を見た。
「なんです?」
「あなたの仮配属も決めないといけないと思ってね。それともここにいる?」
「……」
透明なうどん汁に浮く揚げ玉を見つめて勇介は唇をかんだ。
「特に希望はありませんよ。やれと言われたことをやるまでです」
「……やりたいことないの?」
首を傾げるミヤビに勇介は肩をすくめて小さく笑った。
「何ができるかわからないので」
「何ができるかじゃなくて、自分で何をするのか決めるのよ」
「……」
黙った勇介に、周りは目元を緩ませた。その表情を意味を聞く前に、後ろに気配を感じて振り返った。




