4-12
「お、ユウ! 起きたか!」
入り口に近い席でカツカレーを頬張りながら話しかけてきたのはアタエだった。ヨウが飛んできたらしいご飯粒に嫌な顔をしている。
「与一、口」
「お? ああ、すまんすまん」
飲み込んで笑ったアタエに呆れたようにため息をつくヨウ。なんだかお似合いだ。
ふっと笑ってしまっているとミヤビも笑っている。つかの間の平和といったところだろうか。アタエの近くの席に座ってカツカレーを一口もらって、簡単に状況を聞く。
「とりあえず、国軍の反撃はないということですか?」
「ああ。ユイ、ああ、諜報班の話だと、それどころじゃないらしい。なんかちっちゃい小競り合いがそこらであるらしくてな。禁止写真ばらまいては逃げる新手のレジスタンスが出てるらしい」
「禁止写真て……」
首をかしげるとアタエはにっと悪戯っぽい顔をして写真を取り出した。
「これ、見覚えないか?」
そういって差しだされたのは一枚の新聞。見開き一杯に印刷されていたのは、朝に見るにはいささかショッキングな、朝焼け前の暗い辺りを背景に、銃を正面に構え、にやりと残酷な笑みを浮かべている国軍兵の写真。
「これ……!」
「お前がとったものに違いないな?」
「ええ。あの時に……」
「お前の元仲間、がやっているのかもしれない。まあ、これぐらい大胆なことをするんだ。ヴィアあたりとつながってやってるんだろうな」
「ヴィア……? ああ、ヴィア・ドロローサですね。たしか、ここと一二を争う勢力だとか?」
「ああ。でもいるのは文系の連中だけどな。運動系は俺たち。文化系はあっちっていうすみわけだな。つかず離れずの関係だ」
よく国軍のアナウンスで出てくるレジスタンスの名前の多くがこの『クロートー』と『ヴィア・ドロローサ』だった。
レジスタンスとはいえ、全員が戦っているわけではないのか、と思いながら、腹減ったなとさりげなく腹を押さえるとミヤビがさっと席を離れた。
「ん? 飯か?」
さりげなくしたつもりだった。だが、普通にばれていて勇介は苦笑してうなずいた。
「とってきます」
「いや? ミヤビ嬢が取りに行ってくれてる。とりあえずほれ、もう一口」
アタエが一口スプーンに持って勇介に食べさせる。その様子を見てヨウがぶっと吹き出した。
「どうした?」
「なんか。あんた餌付けしてみるみたい」
笑みを含んだ声に勇介が首を傾げてアタエを見る。アタエも首をかしげている。
「あれだろ? そっちのが鳥のひなで両手ばたばたして飯くれーって巣穴でピーピー泣いてるみたいなんだろ?」
近くにいて見ていたらしい隊員が笑いながら言った。その言葉にアタエは渋い顔をしてその隊員をにらみつける。
「俺は親鳥か」
「オヤジには変わんねーだろ、ヨイっさん?」
「じゃあてめえもオヤジだろ。年あんまり変わんないくせに」
「俺はちゃんと親父臭くならないように頑張ってますからねー」
げらげらと笑ってアタエとそう年が変わらないらしい、彼は勇介に笑いかけた。
「んで? こっちの子は? ああ、俺はケイ。潜入工作員で、年は四十三。そこのは四十五」
「え? アタエさんそんな?」
「ああ。一応これでも年下には見られるんだがな」
「普通にユイさんと同じぐらいだと思ってました」
ケイの話を無視してアタエを振り返ると、ヨウがケイをみて肩をすくめた。
「アタエとユイのお気に入り。怪我が多くて大変なのよ」
「ふーん。珍しいじゃないか」
「あたしもそう思う」
「ユイは三十五で十個違うんで、あと、なんだ? 五島が俺の二つ上だったか。ミヤビ嬢は二十二になるかどうかで、ヨウは……」
「あたしのは言わんでいい」
近くに置いてあったパイプいすをアタエに投げつけたヨウはため息をついて、両手にトレーをもってきょとんとしているミヤビを見やった。




