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4-6

 砂交じりの乾いた風が体を打つ。

 もう、戻れないのだと思いつつ、勇介は静かに震える息を漏らした。鎮痛剤のおかげで痛みはとうに薄れている。

 しばらくすれ違う国軍兵と敬礼をかわしながらすれ違って、ようやく見つけた装甲車にスピードを上げて近づいた。

「やべえ、来たぞ! 一匹」

 当たり前の反応に勇介はメットを脱いで運転しながら立ち上がった。一応顔は見えるだろう。

 辺りには国軍の兵士が見えずに、目の前の装甲車に乗っていた仲間は完全に巻いたと思ったのだろう。中の慌てぶりが手に取るように伝わった。

「……くそ、顔面吹き飛ばすぞ、オラァ?」

 拳銃をちらつかされてはひとたまりもない。

 敵意がないことを表すために少しだけ下がって片手で操縦しながら先ほどもらったバンダナを片手に再びスピードを上げて横づけにした。

「また着やがった、飛ばされてえのか?」

 と、半分裏返った声で言われて、勇介は前を確認しつつ、片手に持ったバンダナを掲げた。

「本部で世話になっているユウという。合流させてもらえないか?」

 腹から声を絞り出すと、傷に響いた。顔をしかめて反応がないか、と半分あきらめていると、おとなしく装甲車が止まって、助手席側のドアが開いた。

「それは……?」

「とりあえず、武器を捨てさせてください。あと、これ脱ぎますから」

 国軍の服を脱ぎ捨てて、元の装備に戻った勇介は崩れそうになる足元を立たせながら自分が知っている限りの事情を説明する。そして、バンダナの主が回収を求めていることも合わせると、バンダナをぶんどられた。

「本当に国軍じゃねえんだろうな?」

「国軍なら一匹狩ってきました。……疑うなら、確認を急いでください。回収を急がなければならない人がいますから。ユイ、ミヤビ、アタエ、ヨウ、五島の誰かに聞けば、保証してくれるでしょう」

「は? ユイ? ミヤビにアタエ、ヨウ姉に五島さんだと?」

「はい。本部で世話になっていた方々です。……すいません、座らせてもらえますか?」

「ああ、いや、別にそれは構わないが、なんてメンバー」

「……もしかして、東に運ばれた本部の子じゃねえのかい?」

「は?」

 助手席に乗っていたいかつい顔の男が振り返ると、狐顔のきつい感じを持たせるすらりとした女性が勇介をまっすぐ見ている。その言葉に、運転席の方から出てきた男がはっとしたように目を見開いた。

「ああ、あの? ミヤビ嬢の危機救ったってやつか? ありゃ、本当なのか?」

「ミヤビ嬢の危機? まあ、国軍に囲まれたときにかばいましたけど……」

「やっぱりそうだ。アタエがしゃべってたろ。……捕まえられた後、国軍の施設からユイに助けられて合流して、逃げた後、狙撃されて意識不明だったと聞いたが?」

「さっきユイさんの背中で起きて……」

 自分の知らないところで自分の話をされていて、戸惑っている勇介は首を傾げながらも、重たい息をついた。

「おい、大丈夫かい? 狙撃されたって……」

「ああ、ここです。傷はまだふさがっていないようですね。痛みがまだ……」

 顔をしかめて言うと、狐顔の彼女はゆっくり勇介に歩み寄って襟口を伸ばして勇介の胸を見た。

「きゃーへんたーい」

 どこかから棒読みのそれでいて楽しそうな声が聞こえる。女は黙ってガーゼを見ている。

「傷は開いていないようだな。胸、狙撃。貫通していたということを考えると無理は禁物だ。戦闘行為を行ったか?」

「バイクをぶんどるために、国軍の少佐と交戦。完全無力化、無線も壊してこちらに」

「よろしい。バイクは、ここに置いて行け。新人、立てるか?」

「ええ」

 無理やり体を起こすようにして立ち上がると、さっと彼女が支えてくれた。ほっそりとした腕にはしなやかな筋肉がついている。

「すいません」

「背負えなくて申し訳ない。こっちに」

 後ろのハッチから中に入れてもらって、壁に背中を預けられるように座る。

「あとは私たちに任せろ。私たちは南支部の前線部隊。私はカイ。本名は絵美という」

「初めまして、ユウと言います。見ての通りの新人で、本部でお世話になっていました」

 車は動き出して、カイが面倒を見てくれるように隣に座った。向かい側の席にはにやにやした男たちがいた。

「お世話、ということは仮配属も済んでいない?」

「ええ。仮配属、とかするんですね。とりあえず、保護された後、行きずりで本部の方々に交じって戦闘に加わって、そのあと、五島さんの所にお世話になってました」

「いきなりカフェ送り、か。なにやった?」

「敵兵の胸めがけてRPG。つまりはオーバーキルですね」

 苦笑して言うとカイは、頼もしいと笑い飛ばしている。

「で、適性は見てもらったということだな? 五島の世話になったということは」

「ええ。CQBです。まあ、こんな野戦場じゃCQBも何もありませんがね」

「それはそうだ。だがな、もし、国軍本部を攻めることができれば、その技能は役に立つ。なまらせるなよ」

「はい。……カイさんは?」

「私もCQB。まあ、どっちかといえば、バトルよりはコンバット寄り、CQC寄りの適性だな」

「そうなんですか? 俺も結構そっち好きなんですよ」

「なんだ? 怪我治ったら手合せでもしてみるか?」

「よろしければ」

「大いに結構。南においで」

 そこでようやく笑った彼女に勇介は笑い返してふっと壁に背中を預けた。

「大丈夫か?」

「ええ。大丈夫です。南、か。まだ、いまいち支部がいくつあるとかわからないんですけど教えてもらっていいですか?」

「そこらへんの説明受けてないのか?」

「ええ。本当に行きずりでなってしまったので……。説明の暇もたぶん、本部になかったんじゃないかな」

 呟くとカイは、まあそうかな、とうなずいてため息をついた。

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