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4‐3

 そして、処置を終えて経過観察をヨウに任せた五島は、ユイ、アタエ、そして、東支部の支部長として任命しているレイ、先ほどのロウを集めて、これからの体制を整えた。

 ミヤビはを外したのは、あの様子では、そして、勇介が捕まっている時からの疲労の度合いから、使い物にはならないと五島が判断したためだった。

 勇介が眠っている間にも、事態はどんどん悪くなっていた。

 良哉が漏らした情報から、国軍が、三つある支部の内、一つを襲っていたのだった。

 早めの対処で、全滅は免れたが、それでも多くの犠牲を出してしまった。そして、その危険は、この東支部にも及んでいる。

「東支部の人間が少ないのに、支部一軒分の物件をポーンとくれてやるわけにはいきません。……本部と合同となる可能性が限りなく高いです」

 冷静に五島が告げた言葉にレイがいやそうに目を細めた。

「いまだに、恨んでいるのですか? ミヤビとユイを」

「……ああ。あいつらがあんなこと言わなければ、あいつは……」

 簡単な会議を終えてお開きになった後、部屋に残った五島とレイが話していた。レイの手にはコーヒーがあり、五島は空のカップをもっている。

「あなた方がそう思うのは勝手ですが、イサムがそれを望んでいるともいますか? それがイサムの弔いになると思いますか?」

「え?」

 畳みかけるような五島の言葉にレイがきょとんとした顔をした。五島はふっとレイから視線をそらして足元を見るように目を伏せた。

「……彼の弟と話すことがありましてね。自分がというよりは故人がどう思うのか、それが大事なんじゃないかって言ってましたよ。弔う気持ちがあるんだったら、イサムが望むことをやってほしいとね。できた子ですよ、まったく」

 苦笑交じりに言った五島は、それ以上何も言わずにレイの前から立ち去り、忙しそうに廊下を移動しはじめた。

「ミヤビ!」

 ユイの鋭い声にはっと廊下を見据えて走り出す。

 そして、ユイとミヤビ、そして、勇介がいる部屋に飛び込むとナイフを持った男が、ベッドの仕切りカーテン前でナイフを取り落して、持っていたと思われる手を抱えてうずくまっていた。

「何事です?」

「ミヤビさんに、ナイフが……」

 切れ切れの声にはっとして半開きだった仕切りのためのカーテンを開けると、体を起こして胸の傷を押さえて顔をしかめている勇介がいた。

「ユウ、あなたは……?」

「殺気に体が反応したみたいです。……傷は、…………、大丈夫そうですね。血は出てません」

 冷静と言ってもおかしくない報告に五島は感心しつつ、うずくまっている男を見やる。

「して、あなたはどうしたと?」

「ナイフのある手をベッドに押し付けて左足でたたき折りました」

 それで、このありさまか、と心の中で呟いた五島はため息をついてうずくまっている男の髪を引っ張って顔を上げさせる。

「私の患者に手を出すとは、いい根性していますね? タツ」

 静かに言って五島はユイの声を聴いて駆けつけてきたらしいロウと、本部とそこそこに仲がいい東支部の人間に彼を引き渡して拷問部屋につないでおくように言っておく。

「とりあえず、雅美をそんなところじゃなくて、ほかの所に寝かせておくように。ユイ」

「りょーかい」

「ユウは眠らないでくださいね? 診察をします」

 五島がため息交じりにそういって部屋を出た。

「今度もお手柄か、ユウ」

 ミヤビを抱えたユイが呟いてた。本当に、殺気に反応して起きただけの勇介は、ぼんやりとユイを見て首を傾げた。

「え?」

「ま、とりあえず、五島がくるまで起きとけ。それからだったらいくら寝てもいい」

「はい」

 壁に体を任せて力を抜くと、いくらか楽になった。

「ユウ」

「はい?」

「横になってろ、顔色悪くなった」

 その言葉にうなずいて、傷をかばうように横たわって目を閉じる。気が遠くなるのをこらえていると、肩を叩かれて目蓋を開く。

「ずいぶん白くなってますね……。手早く診ます。はだけますよ」

 うなずいてぬるい温度を伝える金属が左胸に当てられるのを見ていた。右胸には大きなガーゼが張られている。ガーゼの隙間から黄色いような透明な液体を抜くチューブが覗いているのは見なかったふりをしていいだろう。

「右胸の穴はふさぎました。まだ、息苦しいかもしれませんが、しばらくしたら取れますので心配いりません。あまりに息ができない、とか、空気が漏れているような音がしている場合はすぐに医務班を呼んできてもらってください」

 手馴れたように胸に腹に聴診器を当てて中の音を聞いた五島は、最後にペンライトで勇介の瞼の裏を照らして見て目を細めた。

「仕方ないか。少し、もの食べられますか? それとも眠たいですか?」

「ねむいです……」

「我慢はできない?」

「どれぐらい……?」

 今にも瞼を閉じたいぐらいだと思いながら五島を見上げると、眉を寄せてため息をついていた。

「仕方ありませんね。休んでいて構いません。次に起きた時は食事をとるように。輸血はする気がありませんのでそのつもりで」

 うなずいて勇介は目を閉じていた。落ちる意識が最後、細く冷たく大きな手がそっと髪をなでるのを感じて閉じられた。

「……」

「どうだ? ユウは」

 ミヤビに布団をかけおとなしくしていたユイが五島を見る。

「悪くはないです。まだ、貧血から立ち直ってない状態であんな無理をしたので体が悲鳴を上げたんですね。大丈夫です。こちらに関してはうまくいっています」

「……問題は、か」

「ええ、こればかりは当事者同士でうまくいくはずがないので私がどうにかしておきます。くれぐれもあおらないように。ミヤビにもそう伝えておいてくださいね」

「ああ。……五島」

「なんですか?」

「もし、時をおかず奴らがここを襲ってきたら?」

「南にいる本部の連中をこっちによこして合流させて私の持っている物件にぶっこみます」

「……だが」

「大丈夫です。あんまりうるさいのはごたごたにまぎれてぶっ殺せばどうにかなりましょう。私がやれば万事解決。汚れ役を担うのが私。あなたたちは、組織をまとめることに専念してください」

 その言葉に、わかりはするが納得できない、といった表情をユイが作った。それを見た五島はそっとため息をついて口の端をゆがめるように小さく笑う。

「汚れ役は大人に任せなさい。あなたが手を汚す必要なんてない。あなたはこの新人と甘っちょろいチーフを支える役目がありますからね」

 昔のように言うと、ユイは深くため息をついて、低く声を出してうなずいた。それを見て、五島はうなずき返して、医務の詰所に戻った。

 後は勇介が回復することを待つだけになった。

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