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英雄カメラマンのホロサイト  作者: 霜月美由梨
3章:思い偲ぶより思い出して笑って
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3-17

『ミヤビを始末したらオレも殺されるのかな?』

『当たり前だ。組織もダメになる』

『オレの要求はのんでもらえない?』

『ミヤビを殺しても殺さなくてもお前の要求はのまない。どちらにせよ、ミヤビを殺して首を奴らにさらしてから俺たちをあっちに組み込むんだろう? 俺たちの楔はミヤビだ。楔をなくしたら、組織がどうなるか知っているだろう』

『イサムのことかい?』

『ああ』

 スコープを覗きながら勇介は、なんとか手の震えを鎮めようと深呼吸を繰り返していた。

 そのために痛む胸と腹に眉を寄せて目を細める。

 額から脂汗がにじみ出ている。

『あれがあったからこそ、より強い楔を求めて走ったんだが?』

『国軍という時点で楔にはなりえない。今更あのくそがきを上と思えない。前の元帥もひどかったが、あれももっとひどい。本当に軍をおもちゃとしてしか認識していない』

『そうかな? 道化の方は?』

『あの得体の知らないような奴の言うことは聞けない』

『そうか。残念だ』

 ナイフを持った手が順手から逆手に持ち替えられた。

 今しかなかった。

 薄暗い中、音を立てずに車から出てまっすぐと立って狙いを定め一息に引き金を引く。

 一条夕暮れの赤い光が、まるで勇介の姿を隠すように差し込む。

 銃声とともにごっそりなくなった腕に、良哉が信じられないようにこちらを見る。

 すかさずボルトを引いて排莢するとそのあいた胸めがけて引き金を絞った。

 あろうことか良哉はミヤビを突き飛ばして、それから小さく笑って胸に、銃弾を受けた。

『オレは、早まっただけなのかな……』

 ポツリとした声が耳元に聞こえた。

 イヤホンをはずして、痛む体に鞭打ちながら走ると、首筋から一筋血を流し、良哉の血まみれになったミヤビがアタエに支えられて、ユイは良哉の胸ぐらをつかんでいる。

「お前がこんなことしなければひっそり殺すつもりだった。最後まで組織引っ掻き回しやがって、この畜生が」

 虫の息の良哉に呟いて地面に放り投げたユイは、勇介に近づいてぽんと頭に手をやった。

「よくやった。ミヤビもかすり傷で済んだ」

「……ええ。……」

「お前は気にするな。……ああ、そいつに聞きたいことあんだったら今の内だ。まだ死んでねえからな」

 ごほごほとせき込んで死相を宿した良哉の顔を見やって、ユイが目を細めた。勇介は倒れこんだままの良哉を見下ろして、口を開いた。

 雲の切れ間から差し込んでいる夕暮れの赤い光がまぶしく照らしている。

「早まったってどういうことですか?」

 静かな口調に、良哉が目を見開いて、そして、泣きそうに顔をゆがめた。

「いいか。……国軍は今、動き始めている。この腐りきった体制をあらためようとする連中と、便乗して新たな支配体制を築こうとする連中の二つがだ。自由を求めるのであれば、つく相手は選べ。革命を起こすには、どの道共闘体制を築くしかないんだからな」

「……」

 苦しそうに息をしながらそういった良哉に、勇介は何も言えずにユイを見た。ユイはまるで汚物を見るような目をして、目を細めて、小声でやっていい、ねえ、やっていい、とつぶやいて手に銃を握っている。とどめを刺したいようだ。

「今更、俺たちを裏切っておいて何を言っているんですか?」

 ユイを手で制しながら見下ろしたままそういうと、良哉はにいと笑った。

「その顔、……似ているよ。やっぱり」

「……勝手に言ってください」

「……やっぱり、オレは……、焦りすぎたなあ…………」

 そのあとの言葉は、ユイの放った銃弾でかき消された。眉間にぽっかりと穴をあけて笑ったままの顔で逝った良哉に、ユイは怒っているようで、がん、と顔を蹴り上げると、まだ温かい体をまさぐってバンダナと銃弾と銃本体などの装備を取ってため息をついた。

「とりあえず、これらは捨てるぞ。アタエ、運転」

「おう」

 ショックを受けているらしいミヤビを背負ってアタエが車へ急ぐ。

「お前も、このことは誰にも言うなよ」

 呆然としている運転手だった隊員にユイが言って、それから勇介の肩を叩いた。

「……行くぞ」

「……はい」

 うなずきながら、足を踏み出し、二、三歩歩いたところで地面を踏み抜いた。

 そんな感覚を覚えながら迫りくる地面に、今まさに自分が倒れこんでいるのを感じた。

「え?」

 そして、背中を突き抜ける衝撃に、首をかしげていた。

「ユウ!」

 ユイの悲鳴じみた叫び声が聞こえた。体は地面に投げ出される。

 一発の銃声が背後から聞こえた。なにが起こったのだろうか。

 徐々に狭まってくる視界の中で、自分をうけとめて焦ったように何かを叫んでいるユイがいた。

「ユイ……さ……」

「しゃべるなバカ!」

 片腕で抱き上げて、ユイが走る。

 ユイの肩越しに見た、夕暮れ時の荒野の先には、立射で狙撃銃を構えている、見慣れた顔の国軍兵がポツリと、いた――。

「ユウっ!」

 そんな叫び声を最後に、勇介の意識は完全に閉じられた。

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