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英雄カメラマンのホロサイト  作者: 霜月美由梨
3章:思い偲ぶより思い出して笑って
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3-15

 向かってくる車に片手を上げて合図すると、車は止まってドアが開かれた。

「乗れよ」

「足手まといにならないように頑張りますよ」

 ユイの手を借りて車に乗り込んで近くにあった銃を手に取る。

「おう、ユウ。思ったより元気そうじゃねえか。サボってたんじゃねえだろうなー?」

 運転手はアタエのようだ。後ろを見ながら笑ってそういった彼に肩をすくめてそっぽを向いた。

「両手足二度以上の熱傷。このヤマが終わったら治療よろしくお願いしますって、医療班に言っといてください」

「了解よ。んで? どうすんだ、ユイ」

「どうするったってなあ? まだ状況つかめてないんだけど? さっきまで元帥と道化と交戦してたんだわ。俺たち」

「まじか? こっちはヨっさん現れてドびっくりよ」

「中の連中には言ったか?」

「ああ。そっちはエリが担当している」

「ああ、エリなら大丈夫だな。アキとか言われたら困ったわ」

「奴は北でお留守番だ。邪魔くせえ」

 アタエの言葉にユイがまあなとつぶやいて眉を寄せる。

「んでなんでヨっさんがミヤビを連れてドライブなんてしてるんだよ?」

「……それがわからないんだ。始末したいのか、引き込みたいのか。そこらは追いついて話を聞いてみないことにはわからない。つーか、どっちにせよヨっさんは殺害対象だからスキを見てさくっとって感じにしたいな」

「んだけどよ、あのヨシだ、スキなんて見せるか?」

「いいや? 俺たちじゃ無理だな。少年兵からやってる歴戦の猛者を相手するなんざ考えたくねえよ」

 そういってユイはフロントガラスの先、土煙を立てながら走っていく車を見つめている。

「で、荷物が一匹、人質になってる。こっちにはけが人一匹」

 皮肉気に言ったアタエに勇介はもう知らねと窓の外を見て傍観者を決め込んだ。すかさずユイの軽い拳がアタエの頭に入った。

「おい、アタエ、言うの忘れたけど道化と交戦したのこいつな」

「おう……、って、ええ?」

 思わず振り返ったアタエに勇介は肩をすくめて返す。本当はこんな動作もつらい。

「ほんとサボってたんじゃねえだろうな」

「いやあ? サボってませんよ。ユイさんがくるまで感覚遮断室にいましたから、それほどじゃないと思いますが?」

 それにしても回復が早いと自分でも思う。本来ならば完全に意識を回復させるのに一週間以上かかってもおかしくないぐらいの拷問だ。なぜ、自分がこんなに元気なのかわからない。

「飯食ったら元気になったってやつだ」

 ユイがひょいっと会話の中に入ってきてにやにやする。そのにやにやに嫌な予感を覚えながらも、勇介は特に言うこともなく前を向いた。フロントガラスには暴走する指揮統制車が映っている。

「さて、話がそれたがどうすんだ?」

「狙撃しかないんじゃないんですか?」

 すかさず入る勇介にアタエがすぐに返す。ユイは二人に任せると言うように大あくびをしてそっぽを向いた。

「狙撃できるポイントないだろ」

「……二手に分かれれば……」

「狙撃犯とアレするか? つーか、あの車が止まらない限りだな。ガソリンは別に平気だが」

「ミヤビとドライブしたい気持ちはわかるんだがなー? こんな非常事態にそんなことしなくとも」

 ひょいっと入るユイの軽口にアタエの裏拳がユイの顔面に入っていた。そのやり取りを見ながら特に何も言うこともなく勇介は目を伏せた。

「指揮統制車って防弾でしたっけ?」

「ああ。防弾と跳弾の加工がされてる」

「止めるしかないのか」

「タイヤはパンクしない仕様だぞ?」

「包囲するったって車たんねえし、無理やりどけながらも行けるぐらい馬力あるやつだし……」

「自爆はミヤビが怒るからダメだろ」

 どうしたものか、とつぶやいた二人に勇介は却下されることを覚悟で呟いた。

「……横っ面からRPGはどうですか?」

「バカ、ぶっ飛ぶだろ」

「いや、横っ面じゃなくて正面ぶち当たる直前に落とせばハンドル切ってこけるんじゃないか?」

「んだかもな。で、だれがやんだよ射手。俺でもできねえぞ?」

「言いだしっぺだろ」

「おいおい、無理だろ。全身、やけどやらなんやらあるんだから。お前がやれ。アタエ」

 ユイが言って、助手席に滑り込むと、アタエが運転席からどいてユイに渡す。そして、後部座席に入るとアタエが後ろの荷台からRPGを探し出して弾を込めた。

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