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英雄カメラマンのホロサイト  作者: 霜月美由梨
3章:思い偲ぶより思い出して笑って
47/101

3‐14

「ユイさん」

 人がいないことを確認して静かに呼びかけると、ユイは足を止めた。人の往来の音は聞こえるが、階段にいるということはばれていないらしい。

「なんだ?」

「鎮痛剤あります? 思いっきり強いの」

「そりゃ持ち合わせてるがいいのか?」

「どうせ、このヤマ終わったらオレは入院みたいな扱いでしょ? だったら、今だけ荷物になるわけにはいかない」

 そういうとユイは苦笑したようだった。そして、背負ったままポケットを漁ってピルケースを出した。

「一粒でいいはずだ」

「わかりました」

 薬を飲んで効果が表れるまでおろしてもらう。階段に座り込んだ勇介の隣にユイも座り込む。

「足の感覚はおかしくないのか?」

「ええ。純粋に傷の痛みだけです。通電による裂傷と焼き鏝による重度の熱傷、切り傷や擦り傷、打撲などのたくさん。ねん挫など関節がやられていることはありません」

「なら痛み抑えれば動けるか」

「ええ。……即効性ですか?」

「まあな。五島の特別調合の奴だから。あと、俺に合わせてあるからお前にはちときついかもしれない」

「きついぐらいがちょうどいい感じですね。よし、行きましょう」

 手の感覚を確かめてうなずいた勇介に、ユイは頼もしげに笑ってうなずき返して階段を駆け下りていく。大体ユイが見える敵を始末して勇介はそのあとを追うだけにとどまっていた。

そして、窓から外に出て制圧された正門を出て、旧市街地区の留置所に置かれていたらしい、しばらく荒野に向かって走ると指揮統制車が見えた。

「あれだからな」

「はい」

 笑ってふと視界の端に横切った気配に飛び退る。すぐにユイもならう。先ほどまで二人がいた場所にはスローイングナイフが刺さっていた。

「ユイさん、ナイフ」

 ユイが腰に装備した大ぶりのナイフを勇介に渡して自分はベストに装備したナイフを取り出す。

「ほう? 拷問に耐えきるだけの精神力と、すり減ったにもかかわらず、これを見抜いたのか……」

 そんな声が聞こえて正面から二人やってきた。一人は、国軍の制服にごてごてと勲章やバッチをつけた男。そして、もう一人は――。

道化ジェスター

 呆然とつぶやいたユイの言葉に勇介は目を見開いた。

「じゃあ、そっちは元帥」

 この国軍の首領たる元帥。三十代半ばぐらいだろうか。思ったより若いテレビの中の人物は嬉しそうに笑った。その傍らには護衛のピエロの仮面をかぶった男。道化と呼ばれる彼の正体は誰も知らない。

「ご明察」

 笑った細身の男は傍らに立つ奇妙な、ピエロの面を顔にした男の肩を叩く。

「どちらか一人を狩れ」

「ユウ、行け!」

「後ろ向いた途端襲い掛かってくるでしょ」

 自分が道化の立場だったら自分を狙うと腰を落とすと、案の定、襲い掛かってきた。フェイントをかけながらも二刀流で襲い掛かってくる。

 痛みをこらえて初波を身をかがめてよけると、二波をナイフで受け止めてそのまま飛び退って長い足の攻撃をよける。

 立ち上がってとびかかってナイフをふるうと、簡単にいなされた。

 いなされた反動を利用して体をひねり、ナイフを持った手でその顎にこぶしを叩きこむと見事に入った。

 道化は飛び退って体勢を整えてとびかかり猛烈な斬撃を勇介に浴びせてくる。

 やってやられての攻防を繰り返すと、パンと銃声が響いた。同時に飛び退って互いに距離を取って音を発した元帥を見る。

「なかなかな手練れじゃないか。気に入った。ここでは殺さずにおこう。道化、城に戻るぞ」

 道化を伴っていまだ混乱が続く建物に入っていく。

「勇介、無事か?」

「ええ。……」

 勇介は消えていった方向を見やって口をつぐむ。

 道化も同じようにこちらを見てふっと視界から消えた。

「どうした?」

 ユイの言葉に首を横に振って、ユイに近寄る。ふと見えた指揮統制車が混乱しているようだった。

 ちらりと見えたのは後ろから動きを封じられ首にナイフを突きつけられているミヤビの姿だった。

「ユイさん」

「あ?」

「指揮統制車でミヤビさんが襲われています。首にナイフを突きつけられて今、統制車の中に」

「……ん? ああ、動いた」

「……足は?」

 冷えた声音にユイが勇介を見ると完全に戦闘モードに入っているようだった。追いつめられたような顔をしながらも目の光だけは力強い。

「今に来る。どうせ、ああいうときは俺がいないとだめだ」

 彼方から土煙を上げてくる車を見据えながら、ユイはすっと表情を引き締めていた。

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