3-12
「吐けば、楽になれるぞぉ?」
甘いささやきに首を振って拒否を示すと舌打ちをしてナイフを首筋に当てられた。恐怖もない。なぜだろう。
「大尉。お遊びが過ぎます」
たしなめる声に舌打ちして、彼はナイフをしまったようだった。
「仕方ない。もう一度電気やった後に、そうだな、石抱でもやってみようか。明日は……」
その言葉に勇介は目を閉じてうなだれた。不意に風切り音とともに強い痛みが腕に走った。
「ぐ」
鈍い痛みに角材のようなもので殴られたのだと分かった。冷静に分析できる自分が恨めしい。
「それと、名前など調べておいてよ。この子、それも口割らないから」
ばし、ばしと音を立てて左右に何かが腕に足に振り下ろされる。
「さ、もう一度。問いは同じだよ?」
楽しんでいる口調で言われて勇介は堅く口を閉ざした。また、レバーの上がる音が聞こえる。
「うぅ、ぐ、うぁ……」
強まる電撃に体をよじらせて目を強くつむる。長い攻めにだんだん時間間隔がなくなっていく。
「固いな……」
「大尉。これ以上は命にかかわります。今日の所は」
「……わかっているっ! 俺に指図するなっ!」
朦朧とした意識の中、そんなやり取りを聞いた。
「まったく、長澤の所から生かしておけとオーダーが出なければ、こんなことを……」
「大尉。声がでかいですよ」
あきれたような突っ込みを聞きながら勇介は目を細めた。そのまま腕を掴まれて廊下を引きづられていく。
「お前も知ってるだろ。長澤大佐。あそこから俺たちにお前を殺すなとオーダーが出たんだ。感謝することだな」
「……大佐が?」
「そう。『クロートー』を追うのはあの人の任務だからな。ありがたいと思うなら協力したらどうだ? 吐いたら殺さずに俺が引き取るとまでいっているんだからな?」
「言ってるって、……」
渇いたのどが張り付いてえずいてしまった。
そのまませき込んだ勇介に引きずっている兵士は、ため息交じりに、部屋までおとなしくしろ、と怒鳴りながら、部屋に入って扉を閉めるとサーチライトをつけた。
「なにを?」
「黙ってろよ? ばれたらオレもただじゃすまない」
ベッドに勇介を寝かせて腰につけてある水筒を取ると口移しに飲ませた。
「男とこんなことする趣味はないが、ありがたいと思え」
照れたようにそっぽを向き言った彼に、勇介はひきつり笑いを浮かべながら何も言えなかった。
「敵ながらあっぱれだ。さすが、副チーフというべき精神力だな」
それだけ言い残して彼は部屋から出ていく。
すかさず医者が入って最低限の傷の処置と点滴を施す。
点滴の影響か、はたまた疲れているのか、朦朧した意識のまま、また拷問されていった。そしてどれだけ経ったのかはわからないぐらいに時間が経って、最終的に話すこともままならないところまでおとされていった。
「……」
朝なのか、夜なのか、わからない。これから拷問が始まるのか、それとも終わったのか、判断がつかない。
ぼんやりと暗闇を見上げて目を閉じる。目が乾くことを感じてようやく目を開いていたことに気付くのだ。
あれから飲み物をくれた兵士は、帰りの際にああやって部屋に連れていき一口だけ飲み水、たまにスポーツ飲料のような味の付いたものをめぐんでくれる。
それ以外の兵士も励ましの言葉をくれ、また、人によっては医者の処置の手伝いをして、痛ましそうに目をそらす人もいた。
「……」
しゃべることも動くこともままならない。
腕も足も体も傷だらけだった。これが拷問なのだ。
ミヤビたちはなにをしているだろうか。
思い出していると、部屋に誰かが入ってきた。
サーチライトをつけてまっすぐこっちに向かってくる。軽い足音が聞こえた。
「クロのモグラだ。現在、裏切り者の始末のために、こちらに潜入する計画を立てている」
「……クロのモグラ……?」
ぼんやりとした頭が働かない。眉を寄せるとやってきた女兵士は尊大な口調で続けた。
「時間があればお前も救うというユイの言葉だ。もうしばらくの辛抱だ」
「ユイさんが?」
「ミヤビを救えたことはいいことだが、こんなやり方オレは許さないと怒っていた。あとで説教の腹くくっとけよ」
ふんと鼻で笑って部屋を出ていった彼女を見送ることもできずに勇介は、天井をぼんやりと見上げていた。




