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英雄カメラマンのホロサイト  作者: 霜月美由梨
3章:思い偲ぶより思い出して笑って
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3-11

 そして、勇介は、そのまま移送されて拘束されることになった。

「君が、あのレジスタンス『クロートー』の副チーフ、か」

「ええ」

 メガネをかけた初老を過ぎたぐらいの男性がしげしげと、拷問台に縛り付けられた勇介を見ている。

「君、どこかで会ったことあるかね?」

「気のせいでしょう? それで? オレはしゃべりませんよ?」

「だからこそ、この拷問台なんだろう? さあ、どうしてくれようか?」

 楽しそうに笑った彼に、勇介はすっと目を細めて深呼吸をした。

「なんなりと」

 一つ頷いて笑い返すと、彼は驚いたように目を見開いて顔を引きつらせる。

「怖くはないのかね?」

「……もといしゃべるほどの情報は与えられていませんから」

 そういって笑ってまっすぐと男を見ると、ひるんだように後退る。

 だが、すぐにナイフを抜いて首に突き付けた。

「とりあえず、目隠しをしよう。それから……」

「首はだめですよ? 何もしゃべってないのにぶっ殺せば、組織の損害でしょう」

 正論で返すと、すっと肩から脇腹にかけて切り付けられた。無駄口を叩くな、ということだろう。

 素直に頭に麻袋をかけられ目を閉じる。

 複数の足音。四、五名だろう。ナイフと鞭とこぶしと言葉攻めとなだめ役。

「さあ、始めようか」

 そして始まる尋問。首を横に振ると、押し当てられる焼き鏝と振るわれる鞭。

 漏れる悲鳴を押し殺して、目を閉じる。

 相手にはどんな表情をしているかは見えない。表情だけは自由だ。

「規模とアジトを」

 もとい、知らない。

 首を横に振って、どうやら、本気で副チーフだと、騙されているらしいと笑ってしまった。

 即座に襲う刃とこぶし。

 今日だけで一通り全身をやられたようだった。おそらく情報を吐くまで命は安全だろうと判断してため息をつく。

「そろそろしまいにするか。あそこに」

「いいんですか?」

「ああ。肉体的な拷問が大したことができない以上、精神的拷問を強化するしかない」

 麻袋をかぶせられたまま拷問台から外されて両腕を持たれて引きずられるように独房に入り、麻袋を取られベッドに放られる。

 動けないでいると、すぐに医者のような人間がやってきてベッドにあおむけに寝かせられて、腕を取られ、点滴の管を入れられた。

「……」

 自白剤か、睡眠薬か、それともただの栄養剤でノーシーボを狙うか。

 じっと見つめていると、医者は痛ましそうな顔をして小さくごめんなさいとつぶやいて部屋から出ていった。

 力を抜いて目を閉じる。痛みはじわじわと体力を削っている。

 助けは来るだろうか。いや、来ない。

 レジスタンスの人数は少ない。

 たかが一人を助けるために大勢を犠牲にすることはできない。たかが新人を。

 自嘲気味に考えて笑うと鎮静剤でも混ぜてあったのか。

 ふっと体の自由が利かなくなり、朦朧としてきた。

 そして、眠ったのか眠っていないのかわからないまま、いつの間にか時が過ぎて、また、次の拷問が始まった。

 掌に電極のようなものが貼り付けられた。同様に足にも。

「まず低刺激で体を慣らしてからだぞ」

 その言葉と共にぴりとした感覚が手から手、足から足に走った。これは電気刺激。

「首を横に振ればその分強くなる。いいか? 規模と人員、そして、主要なメンバーの氏名を教えろ」

 首を横に振る。刺激が強くなる。痛みが出てくる。

「言わなければ死ぬぞ」

 首を横に振る。強まる電気の刺激。ひとりでにびくびくと体がけいれんしはじめ、のどから呻きが漏れる。

「ほら、どうだ?」

 ぐぐぐっとレバーが押し上げられる音がかすかに聞こえた。それに合わせて痛みと痙攣が強くなる。

「ぐあぁ……」

 喉から漏れる悲鳴を無理やり押し殺して歯を食いしばる。顔を背けて体をこわばらせても、けいれんによってこわばらせることができない。

 苦痛を紛らわせるために身をよじり、首を振り、悲鳴だけ上げないようにかみ殺す。

「ここで一度止めろ」

 ふっと、攻めがやみ、荒くなる呼吸を整えようとしても袋が邪魔する。心なしか、首に巻き付けられた縄がきつくなっているように感じられた。

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