3-9
「ユウ……」
「なんですか?」
「本当にあなた、なにものなの?」
心底不思議そうなミヤビの言葉に、曖昧に笑って肩をすくめてはぐらかしてミヤビの隣に座る。
「兄が、何でもできる天才だから、軍にいた時に、お前もそうだろう? と、いろんな訓練を受けさせられたんです。……まあ、なんでも人並みにできただけで、教官の期待を裏切ってしまったけれども、ね。兄さんは、なにをやらせても人並み以上にできた。……オレは、CQBとサイレントキル。……軍人には不向きと判断された」
「それだけの技量があってか?」
不思議そうな先輩の問いに勇介は肩をすくめて自嘲気味な笑みを浮かべた。
「軍人に必要なのは見つかっても対象を殺せる技術。奴らがやっていることは人並みにしかできないから、兄さんと比べられて、役立たずと言われてきたんです。……そんな集団いても意味がないでしょう? だから、やめたっていうのもあります」
「ほかにも理由が?」
「一番の理由は身内に戦犯が出たっていうのですね。何でもできる兄さんは、脱走もうまかった。兄さんが政治犯になって、オレもいづらくなってしまったんです」
「あー、そういうやついるな。身内に政治犯出て上官にいじめられて除隊する奴」
「そのクチですよ」
自嘲気味に笑って、懲罰という憂さ晴らしに付き合っていたあの日々を思い出す。あれがあったからこそ、たいていの格闘戦でばてることはなくなった。
「ま、生きてるんだから別にいいさ。さ。そろそろ合流ポイントだ」
仕切り役らしいチイが手を軽くたたいて、話を切り上げさせると止まった車から出て辺りを見てから隊員を下す。
そして、すぐにミヤビと勇介を回収しに来た車がついた。
「よくやった新人」
「いえ。無事に合流できて何よりです」
「でお前、上に着てたのはどうした?」
「え?」
本部から脱出してきた隊員が勇介の恰好を見て首を傾げる。
「……一度、国軍と交戦して、その時に発信機のたぐいなどつけられていたら取り返しがつかないので洞窟の穴に突っ込んできました。そうしたら軍用犬の鼻の攪乱にもなりますからね」
「交戦したのか? あの狭い中で」
「ええ。天井が薄いところを爆破して中に入って追ってきたのでミヤビさんを隠してね?」
「一人で遊撃に行ってすぐに帰ってきたのよ。何人だったの?」
「え? ああ、七名です。大したことなかったですよ?」
もしかしたら八名かもしれないがと心の中で呟いて、ふっと肩の力を抜いた。
そんな勇介を見て感心したような顔をする。五島の直属部隊の面々もあきれ交じりに顔を見合わせていた。
「そういやサイレントキルがどうのって言っていたな。ほんとユイよりだな」
「んでも、銃の命中率とかは五島っぽいなあ。つーか、敬語で話しながらえげつなく当てるからな……」
「やめた方がいいですか?」
「そうしてもらえると俺たちの精神衛生上とてつもなくうれしいかなー?」
「そうだな。あんときゃオレもひやっとしたぜ?」
「わかった。んじゃそうする」
いきなり口調を変えると、隊員は目をぱちくりさせた。それを見て勇介は苦笑した。
「こっちの方がいいんだろ?」
少し慣れないけどと心の中で呟くと、周りは困惑したような顔をしていた。首をかしげていると一人がポツリとつぶやいた。
「まあ、そうだけど、……なんだ、イサム……」
「?」
首を傾げてミヤビを見るとミヤビも目を見開いている。
「イサムに声そっくり」
「……」
そりゃそうだと言いそうになったが、すんでのところで押さえて苦笑を浮かべた。
「それは光栄ですね。どっちにします? 五島さんっぽい感じだと言われる敬語と、イサムさんっぽいと言われるタメ口」
「うーん。俺たちはイサムっぽくていいんだけどな。本部の連中が微妙な顔をすると思うぞ?」
「なぜ?」
「……ミヤビ、大丈夫か?」
気づかわしげにミヤビを振り返った隊員に、勇介はようやく地雷を踏みかけていることに気付いた。無理して話さなくてもいいと言おうとすると、ミヤビが穏やかな顔をして笑っていた。
「ええ。この際、仕方ないわ。あたしもまだ安定している方だからっていうか、戻ってきてくれたのが結構よかった」
「戻って?」
首をかしげると、ミヤビは穏やかな顔をして気にしないでと首を横に振った。




