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英雄カメラマンのホロサイト  作者: 霜月美由梨
3章:思い偲ぶより思い出して笑って
38/101

3-5

「オレ、先行きます。いいですね?」

「ええ」

 車が止まって勇介は一気に扉をあけ放って車から降り、暗視ゴーグルをつけあたりを警戒してハンドサインを出す。

 そのまま続けると足音が後ろから聞こえる。

 ぴたりとミヤビがついてくるのを確認してから洞窟を進む。

 光が一切ない中暗視ゴーグルを使って進み、水の中に落ちないように慎重に歩いていく。鍾乳石だろう。足元が極端に滑る。

 言葉もなく道を進み地上から明かりが入るところがあることを確認して振り返ってうなずきかける。

 ミヤビもうなずいたのを見て、そこに入って足を止める。

「ここで?」

「ええ。一回休憩しましょう。まだ、道の三分の一程度でしょう。無線で地上の状況を確認します」

 ミヤビに水を預け、無線機の電源を入れて秘匿回線につなぐ。

「こちらユウ。状況を確認したい。オーバー」

『AFU。警戒せよ』

「了解。三分の一ほど進んだと思われる」

『了解しました……』

 無線の途中で爆音が響いた。地面が揺れるほどの爆音に座り込んだミヤビがはっと立ち上がって銃を手に取って警戒しはじめる。

「……何事だ?」

『そこから少し進んだところを爆破させられ、穴あけられています。おそらく国軍の小隊が入り込んでいます』

「……ミヤビさん、行きましょう」

「うん」

 無線をつないだまま走り出す。五島の指示がちょくちょく入って穴に入り込んでやり過ごすことになった。

「大丈夫かな?」

「ええ」

 緊張を鎮めるために深呼吸をして目を閉じる。味方はない。一人で対処せざるを得ない状況。

「ユウ?」

 押し殺したミヤビの声が耳元をかすめる。

「ミヤビさん、一度オレが表に出ます。遊撃して攪乱して、できれば殲滅します」

「ユウ、それは……」

「死ぬつもりはありません。大丈夫」

 肩に触れてミヤビをまっすぐと見ると、震えているようだった。ぐっと握って笑いかける。

「大丈夫。大丈夫です」

 静かに言って肩をさする。唇をかみしめたミヤビに勇介はそっと目を細めた。

「ミヤビさん。ミヤビさんは、イサムさんを思い出しているんですか?」

「……え?」

「オレはイサムじゃありません。……あの人には到底及びません。でも、あの人より才能があると言われたことが、これ、サイレントキルなんです」

「あなたは……?」

「軍学校にいたら、比較されますよ。……二つ上ぐらいでしたよね? イサムさん」

「なんで、そこまで……」

「……いろいろ聞きましたからね」

 そうはぐらかしておいて勇介はそっとため息をついた。

「人を後ろから殺すなんて、卑怯そのものだと思っていましたが、こんな状態なら仕方ない。必ず、ここに戻ってきます。いいですね?」

 背中に手を回して支えるようにして顔をのぞき込む。ミヤビはつらそうな顔をして勇介を見上げた。

「ユウ……」

「大丈夫です」

 そういって軽く背中を叩いてやると勇介は静かに立ち上がって穴から出ようとする。あと一歩で出ようとしたところで袖口を掴まれて引っ張られた。

「ミヤビさん?」

「……ユウ」

 首をかしげると、ミヤビはうるんだ瞳で勇介を見上げた。

「死なないで……っ」

 小さなつぶやきに勇介は目を見開いて、ミヤビを見た。その目を見て膝をついて目線を合わせて手を取った。

「死なないように祈っていてください。そうしたら大丈夫です」

 そっと掌にキスを落として、髪を梳く。

「絶対?」

「絶対死にません。こんなところで死んでられませんから」

 そのまま引き寄せて抱きしめてしまおうかと考えたが、やめた。

「オレが戻ってくるまで、おとなしくしていてください」

 不安がらないように軽い口調を心がけて言って手を握りしめる。

 細くて小さな手だった。

「ね?」

 念を押すように首をかしげて見せて手を放す。

 食い入るように勇介を見つめているミヤビに、勇介は仕上げと言わんばかりにミヤビの頭を軽くたたいて、今度は一足で穴から外に出て、迎撃に向かう。

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