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英雄カメラマンのホロサイト  作者: 霜月美由梨
3章:思い偲ぶより思い出して笑って
37/101

3-4

 完全に止まるのを待っているとミヤビがポツリとつぶやいた。

「……みんな大丈夫かな」

「大丈夫です。なんなら確認しますか?」

 そういって笑うと無線を操作する。かすかなノイズと共に起動したのを確認して受話器に語り掛ける。

「こちら、ユウ。現在ミヤビの護衛についています。皆さんどうです? 順にお願いします。ミヤビさんが声を聞きたがってます。オーバー」

 そういって無線のチューニングを合わせていく。

『こちら狙撃。全然平気だぞー。スイカ割りの真っ最中だー!』

 思いのほか無邪気な声がひゃっはーと言いながら狙撃銃の銃声が響く。

「ずいぶん楽しそうで何よりです。次行きますね」

『まてよぅ……』

 ブツと切って次に合わせる。

『ははは、見事にやられたな、シュウ。こちら、ミサイル。お嬢。こちらは心配いりません。ご無事で』

 渋い声がおそらくくわえたばこでもしているのだろう。そんな言葉にミヤビを見ると、小さく笑っていた。

「次行きます」

『はいよー、こちら表の前線。国軍の鼠追い回す猫になってるー。●ムとジ○リーだねー』

『仲良く喧嘩はしてないだろー』

『確かになー』

 気楽な女の声にすかさず突っ込む男の声。チューニングを合わせていた勇介も吹き出してしまった。

「そのまま歌でも歌って楽しんでくださいねー」

『ト○とジェ●ー、仲良くっ喧嘩したっ』

 歌で返事を返されてぶつっと切って次々チューニングを合わせていく。

「なかなか豪胆な人が多いですね。軍じゃここまで行きませんよ」

 最後、と合わせられたのは本部の無線だった。

『こちら本部。お留守番中だおー』

 なんとも間抜けな声に気が抜けてミヤビががくと姿勢を崩した。確か、アキと呼ばれていた隊員だろう。勇介は呆れ笑いを浮かべて語り掛ける。

「そちらはどうですか? みなさん忙しい?」

『そうそう。おれが動くと邪魔になるから無線の前に待機してたー。んーと、みんなに代わるー』

 と、呼び止めてどなられてを繰り返した状況が続いて、ミヤビがため息をついた。

「撤退準備はどうなってる。報告はどうした! アキじゃ話にならない!」

 勇介が声を大にどなるとアキを怒鳴りつけていたらしい男がひっと黙り込む。

『イサムか?』

「誰が。とっとと報告寄越しな。ミヤビが声を聴きたがってる」

 口調すら変えて無線越しに言うと萎縮してしまったように形式ばった報告が返された。

「ケイ。アキいじめるのも大概にしなさいね。アキもおとなしくするんだよ」

『はーい!』

 元気のいい返事を最後に、無線を切って勇介はふっとため息をついた。

「まあ、大丈夫そうですね。いいですか?」

「そう、だね。うん。いこう」

 元気を取り戻したミヤビに笑って無線を切った。ミヤビがRPGを担いで扉近くに待機する。手にはベレッタPX4。

「愛銃ですか?」

「……ええ。イサムの形見」

 にっと笑ったミヤビに勇介もうなずき返して抜く。手に持ったのはSP2022。

「シグ?」

「ええ。昔からこれを使ってたんです。……五島さんの所で見つけちゃったからこれ、使っていいですかって聞こうと思ってたらこんなことが起こって……」

「あとでどやされるわよ? あの人怒る怖いんだから」

「マジですか?」

「ええ。あたしの育ての親なんだから怖いにきまってるでしょ?」

 怒鳴り声は上げないものの懇々と諭すやり方をされてかなりまいったとミヤビが嫌な顔をする。確かに嫌だ。

「腹くくるしかないわね」

「……う」

 渋い顔をした勇介にミヤビは楽しそうに笑ってちらりと運転席の方を見る。

「もうそろそろ?」

 スピードが緩まったのがわかった。うなずいて、勇介はすっと表情を引き締める。背中にRPGの弾薬とアサルトライフル、ベレッタAR70/90があることを確認して一つ頷く。

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