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英雄カメラマンのホロサイト  作者: 霜月美由梨
二章:中と半端
32/101

2-15

「卑屈すぎるのもダメだぞ。お前は自己評価が極端に低い。国軍時代からずっと兄貴に比較されてぼこぼこにされてきたんだろうが、一般市民からすれば、全然すごい成績なんだぞ?」

「……そりゃ、射撃だけですよ」

「天は二物を与えないっていうだろ? 射撃だけでも飛びぬけていいんだからそれでいいんだよ。そこをね、卑屈にならずに自信をもって伸ばすんだ。適度な自信は適度なプライドになって、技術にいい影響を与える。いい加減なことをしたら自分自身が許せなくなるから、だな。今、そんなことないだろ? やらかしたら、やらかしちまったー、以上。だろ?」

 思い出したのは、ミヤビと衝突した、数週間前の出来事。

 悔しさも、反抗心も抱かないといや、そこから目をそらすために卑屈という道を進んだのだろう。

 人とぶつかり合うことは疲れることだから。

「もっとさ、お前、他人に対する感情を表に出せよ。怒ってる、とか、不愉快だとか。年下とか、新人とか、あんまかんけーねえのよ。ここ。つか、他人から見てこりゃねえよっていう扱いだったらぼこっても何も言わねえよ。言わなかっただろ?」

 それは、あの、集団リンチを見事に返り討ちにしたことを言っているのだろう。

 あの時の感情を思い出してすっと目を細めた勇介を見て、ユイがふっと表情を緩ませた。

「だんだん怒りの感情を思い出してきたんじゃないか? その激しさも」

「……あれは、さすがに来ましたね」

「だろ? 若いんだからあれぐらいやったってなんともねえよ。そのための俺たちがいるんだからよ。ああだから、こうだから、だから自分は、とか考えなくていいから、思ったことぽんと言っちまうぐらい脳みそ軽く生きてな。そうだな、アタエあたり見習えよ」

 完全にバカにしているユイに勇介はふっと吹き出して苦笑をする。

「オレは脳筋担当じゃないんで」

「筋肉バカじゃないな、確かに」

 一緒にグラスを傾けてそういい合って、二人は顔を見合わせて吹き出して笑い始めた。

「楽しそうですねえ、お二方」

 すっかり楽な格好に、Ⅴネックの長そでカットソーにチノパンを合わせた姿で出てきた五島がカウンターに入る。

「なんか作ってくれんのか?」

「お金取りますよ?」

「えー」

「ならこれで我慢してください」

 今朝仕込んだトマトなどの残りだろう。

 それらを合わせて適当にドレッシングをかけたサラダとトーストしたフランスパンが出てきた。

「やるじゃん、お前も飲むのか?」

「今日は、ですね」

 笑った五島が持ってきたのは瓶に入った輸入ビール。

「お、デュポン」

「デュポン?」

「ベルギービールだよ。どこに隠してたんだよ」

「指紋認証付きの金庫です。いずれありかがしれるので、私しか飲めないようにね」

 そういって栓を開けて一口あおった五島はうるさいユイに一口飲ませて黙らせてから勇介の隣に座った。

「今日は確かに晩酌にはいい月ですね」

 そういって窓から見えた月は細い月。すっと目を細めた五島はちらりとユイを見た。

「今日はここに泊まりに?」

「酒飲んでるからな」

「くそ忙しくなかったんですか?」

「明日早朝にいろいろやるんだよ。早朝出ていこうとすると本部面倒だろ?」

 車庫のシャッター明けたりなんだりってていったユイが口直しの水を含んでからアイリッシュコーヒーをのむ。

「早朝というと盗り物?」

「ああ。ちょっと国軍の資料がほしくなったらしくてミヤビに」

「ふむ。どんな内容で?」

「こいつの国軍時代の評価書と、これから奪う予定の施設の見取り図と総員数を調べてこいって言われたんだけど、やっといてくれるかい?」

「そのためにここにきて店を手伝うなんてご機嫌取りをしたんでしょう?」

「前払いで体で払ったわけだ」

「……仕方ありませんね。やっておきましょう。上がったらあなたに?」

「いや、直接ミヤビによろしく。あとは……」

 ユイが勇介に視線を向けた時だった。上からけたたましい足音が聞こえて五島が席を立ってビールを机に置いた。

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