2-10
「……」
本部のもどったのち、勇介はミヤビに呼ばれていた。
ミヤビの執務室の外は、帰ってきて後片付けをしている面々で騒がしい。
「どうしたの?」
「……なにがですか?」
傷の手当てをしてもらい左腕をつっている勇介が、首を傾げる。
その表情にもどこか空虚な、芯の通っていない雰囲気がまとわりついている。
ミヤビは指揮官らしく椅子に座って立っている勇介を見ている。
「戦果としてはよくやったわ。でも、榴弾で人を狙うなんてオーバーキルよ?」
「……戦場にオーバーキルってあるんですか」
平坦にも聞こえる最低限の抑揚の声に、ミヤビが、すっと目を細めて眉を寄せた。
「戦場は何をやってもいいってわけじゃない。節制を持たなければ、報復が来る」
「……」
厳しい言葉に勇介の表情も冷えていく。
どこか凍っていくような表情に、幼さが残っていた顔が違うものになっていく。
「でも、やらなければ誰かが死にます」
「それはそうだけどね。あなた、けが人なんだよ」
「関係ありません。できるから、やっただけです」
つっていた手を外して三角巾をとって捨てる。
そして、鋭い目つきで睨むようにミヤビをみた勇介に、ミヤビは深くため息をついた。
「アタエのいった通りか」
「は?」
首をかしげると、ミヤビはすっと息をすって腹から言葉を切り出した。
「療養を兼ねて五島の所に行きなさい。ユウ」
「五島、さん?」
「そう。外部操作を主に担当して町に溶け込んでる人で、戦犯の保護や、戦場に遠ざけておかないと戦場に走って行っちゃうバカを引き留めてくれる人。たぶん、最初に連絡先を教えていたと思うけどな?」
首を傾げたミヤビに、勇介はああとうなずいた。
栄吉と鉢合う直前に電話をした、あの穏やかな声の持ち主かと納得する。
「ということで、そうね、明日に行ってもらおうか」
突然だ、と思いながら反論することもできずに、勇介は。うなずいてミヤビの部屋を出ていった。
「よう、派手にやらかしたみたいだな、勇介」
楽しげなユイ。
また小言か、と仏頂面になっているとぽん、と頭を軽くたたかれた。
「よくやった。あれぐらいやったらしばらく国軍も俺たちには近づかない」
「でも、ミヤビさんに五島さんの所に行けって言われましたよ」
「ありゃりゃ。やっちまったな。傷が治るまで、だろうから、二週間程か」
「ですね療養を兼ねてってことで、明日から」
「そりゃ、大変だな。ま、大丈夫だ、五島も無茶振りに慣れてるし、それに結構、イサムのこと気に入ってたからな。お前も気に入ると思うよ」
そういって勇介の肩を叩いたユイは、ミヤビの部屋へ入っていく。
それを見送り、ため息をつくと勇介は、ヨウの所に行って鎮痛剤を打ってもらってから部屋に入り、ベッドに倒れこみ、早めの休息をとった。




