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ため息をついて手持ちの布で顔をぬぐって、足元に置いたAKS-74Uを手に配置に戻る。
「おい、新人、けがは」
「平気です。処置してもらいました」
返事とむき出しの肩と腕を見て複雑そうに顔をしかめた隊員は頷いて、ただ、無理をするなよ、と言って警護に戻る。
今更麻酔が効いてきたらしく、じんとしびれるような感覚が傷口を覆う。
違和感に顔をしかめていると、別の男が寄ってきた。
「動くか?」
「はい。骨と筋には異常がないようです。痛みも、表面麻酔でどうにかしびれてます」
「うー、そりゃ、麻酔切れたら相当痛むぞ。帰ったらヨウ姉に鎮痛薬もらっとけ」
「了解しました」
うなずいて指揮をしているミヤビを見やった。風が彼女の髪をなびかせている。
「ああ、ミヤビ嬢荒れてたか?」
「荒れる? まあ、処置の時容赦なかったんですけど」
「……そりゃそうだ。イサムのこと、思い出したんだろうな」
「イサムさんのことを?」
「お? 知ってるのか?」
「ぼちぼちユイさんとかアタエさんに。ミヤビさんの地雷だから踏むなよって」
「まあ、地雷っちゃ地雷だな。追加すると、お前がやったあのかばうような行為も地雷だぞ」
「え?」
思わず彼を見ると、ちらりとミヤビの方向を見やって、歩きながら口を開いた。ミヤビは無線にどなりつけている。無線の向こうはユイだろうか。
「イサムがさ、ミヤビ嬢をかばって死んだからさ。イサムを思い出すとそれ思い出すし、かばわれても、それを思い出すんだよ」
困ったもんだと言いながら頬をかいた彼に、曖昧に笑ってちらりとミヤビのいる方向を見やった。
「ま。あとはここの警護と回収だけだろ。車ん中で休んでな。左手、強くは握れてないだろ」
見抜かれていたその症状に、苦笑を返して、失礼しますと言い残して勇介は車の中に戻ると壁際によって座り込んだ。
ライフルを置いて、きつく締めたベストのひもを緩めて目を閉じる。
しばらく痛みが散るまでうつむいていた。
「おい新人、なにサボってんだ」
そんな声とともに、いきなり、怪我をしている方の腕をつかまれ、引かれて立たされる。
振り払って肩を抑えてうめき声を殺すと、驚いたような視線が突き刺さる。
「おま、……すまん」
壁に背中を預けて声を殺している勇介に、そういって右肩に手を当てた。
それをばっと払いのけてにらんだ勇介は、息を荒いまま、ライフルを手にして逃げるように車を出ていった。
そのまま、警護活動に入って重機関銃担当と変わる。
そして、そのまま撤退の運びとなり、追いかけてくる国軍の車両とやりあうことになった。
「新人、けがしてんだったら下がれ。無茶だ!」
そんな声を聴かないふりをして血を流しっぱなしの肩で操作をして、車両を足止めしていく。
「聞けって」
肩をつかまれて引きはがされて、おとなしく下がる。
ちらりと、目につくところにグレネードランチャーが置いてあることに気付いて、先輩の目を盗んで弾を込めて担いだ。
「こら、おまっ」
先輩隊員を押しのけてグレネードランチャーを構えると、厄介そうな装甲車の上、同じように重機関銃を構えている兵士に向かって放つ。
砲声と煙とともに衝撃が強く体を揺さぶる。
「お前なあ」
「これぐらいやっても別に大丈夫でしょう」
立ち上がって、見事に上がひしゃげて動けなくなった装甲車を確認する。
おそらく上にいた人間は焦げているかミンチになっているかのどちらか、どちらもだろう。
鼻で笑って小さく口の端を上げて、次の弾を込め、今度は、車のフロントガラスめがけて放つ。
跳弾防弾加工がされていようと、榴弾には敵うまい。
運転手の胸に突き刺さり、防弾のために仕込んであるチタン合金のプレートに当たって、爆発するのがよくわかった。
「ひでえ」
呆然とした声に、勇介は淡々とした表情を崩さずに立ち上がって先輩を押しのけて機関銃を取り返すと、車のエンジン部分を狙って乱射を続け、ついには壊滅に追い込んだ。




