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英雄カメラマンのホロサイト  作者: 霜月美由梨
六章:動き出す歯車
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6-17

『来た』

「誘い込むぞ」

『らーじゃ』

 足音はだんだん近くなっていき、足が見えてきた。

 不意に強く風が吹いた。砂嵐にも似た埃っぽい風があたりをけぶらせる。幸いなことに、追い風だ。砂に視界を遮られることはない。

「……GO」

 一瞬足が止まったのを見て引き金を引く。襲撃を受けて、周りの確認のためか、止まっていた国軍兵の足が機敏に動く。威嚇射撃をしながらも物陰に隠れる動きはすきがない。

「ほかは?」

『ない。俺もやる』

「じゃあ、裏に回る」

 そういって射撃をやめてふさがりかかった道をかいくぐりながら応戦している国軍兵の背中に銃撃を浴びせる。

「くそ、何人いやがる!」

 悪態をつく、倒れた男の手足にそれぞれ一発ずつ銃弾を浴びせて無力化に努める。完全に始末するのはほかの人間。

 ぱっと、目についたのは一人の女性兵士。国際的には女性兵士の前線起用はあまり認められてはいないが、最近の人員不足からか、ちょくちょく見かけるようになってきた。

「……」

 銃口で彼女を追いながら、だれもいないことを確認して彼女を追う。このまま逃がしても厄介だろう。

「敗残兵を追う。始末し終わったら音響弾で知らせる」

『りょーかい』

 無線の向こうでは気が狂いそうになるほどの排莢音、銃撃音。目の前には敗残兵。適当な物陰に入って応戦しようという魂胆なのだろう。

 一本道にいるうちに方をつけようと、彼女を越えるように手りゅう弾を投げた。

 目の前に転がった手りゅう弾に彼女の動きが一瞬止まり、近くのビルの中に入る。好都合。

 すぐに近くの穴から建物の中に入って、サーマルゴーグルをつける。

 手りゅう弾が爆発する音が響く。

 ふと気配を感じて死角を振り返りつつしゃがみこむと、彼女がナイフを手に袈裟切りに切りかかっていた。危なかったとは思わない。想定範囲内だ。

 続けざまの斬撃をナイフを抜き放ちながらいなして距離を取ろうとするがさらに踏み込んでくる。

 体をひねり、それをよけカウンター気味にこぶしを突き出すと、それをよけて、ようやく彼女の方から距離を取ってくれた。

「お前は、戦犯か?」

 聞き覚えのある声。

 なぜ、同期にしか当たらないのだろうか。げんなりしつつ、勇介は首肯した。

「……ならば、容赦しない」

 低くなった声に勇介はため息をついてそれとなく動いて光を背にする。そうすれば、サーマルゴーグルの誤認も少しは防げるだろう。彼女は赤く見えている。

「……」

 じりじりと詰め寄って、そして、ある程度の間合いに来た時、ほぼ同時に抜いて切りかかっていた。

 喉元につきこまれる彼女の最速の刃。

 メットが守ってくれることを祈りながらしゃがみこみ、顎からメットがナイフに持っていかれるのを感じていた。

「よけた!」

 驚きの声と共に膝をついて、踏み込んだ彼女の膝に掌底を食らわせていた。パキリと音が鳴るが、若干ずれたらしい。折れた感触はしなかった。

「く……」

 くるりと刃を逆手に返して背中につきこまれる。それを横に転がって立ち上がりナイフを構える。

「……何者だ?」

 少し苦痛に震えた声。膝のダメージは大きいようだ。

 相手は顔が見えていない。

 彼女の頭を見ると、同じようにゴーグルがついている。ならば闇討ちはできない。同じ条件にしなければなるまい。

 かといって光を焚けば自分も危ない。しかも、今、自分はゴーグルが取れた直後でほとんど目が見えていない状態だ。

 圧倒的に不利な状態。

 爆発音に気付いて仲間がいずれやってくるだろうが、その前に片をつけたい。無様な自分を見られないため。

 その場から動かずに気配を探る。足音がしないのはさすがだろう。

 よどんだ空気にかすかな動きと殺気を感じて飛び上がる。靴底をナイフの腹がなめる。足を狙われた。

「……っ!」

 着地の瞬間を狙われる。

 次は斜めに顔か胸を狙ってくるだろう。あいた手で胸と顔の近くで銃を放つ。目くらましにしか過ぎないが一瞬つぶせるだろうか。

 意外に大きく反響した音に自分ももちろん彼女の動きが一瞬止まる。そのすきに後ろに跳び退る。

「……」

 彼女はもうなにも言ってこない。闇討ちみたいな真似をしても意味がないと分かったのだろうか。それとも――。

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