96 赤ワインと肉料理
私は次の日、食堂の改善の仕事で朝から料理長のウー・マイに会っていた。
「てんたくるすのオッサン。約束の昨日の料理を見せるアルよ」
ウー・マイは器に付け込んでおいた肉を取り出した。
「これは腐らないように保存しておいた一つ目牛の肉アルね。これを使って最高の肉料理を作るアルね」
そういうとウー・マイはしっかりと煮込んでいた鍋からドロッとしたスープを取り出した。
そのスープからはかなりいい匂いがしていた。
「これは一つ目牛の骨を焼いて作った 『ふぉんどぼー』なる昆とは違ったセイヨウの料理法アル」
「へぇ、これはいい匂いがしますね」
「そしてこのふぉんどぼーを使い、煮込みを作ると格別に美味くなるアル!」
ウー・マイは手慣れた手つきで、一つ目牛の骨を鍋から取り出した。
「この骨の髄に美味いスープがたくさん入ってるアル。捨てるのはもったいないのでこれもまた使うアル」
そういうとウー・マイは牛骨をまた板の上に置いた。
「ブブカ、飛び散らないように細かく砕くアル」
「姐さん、了解っスー!!」
ブブカが袋に入れた牛骨をハンマーで何度も叩いていた。
あたりにはすごい音が響いている。
「ヨシ、これでふぉんどぼーと牛骨髄のスープの下準備ができたアル」
どうやらこの骨も料理になるようだ。
「では今度はこの一つ目牛の肉を薄く切って叩くアル」
「姐さん、了解っスー!!」
どうやら最近ブブカは食材の叩き要員になっているようだ。
ブブカが叩いて叩きまくった肉と骨はウー・マイに手渡された。
「ヨシ、ちょっと待ってろアル。これから本格的に料理開始するアルね!!」
ウー・マイが鍋を手にした。
「アイヤー! 火を使いこなすことこそが料理の道アル」
ウー・マイは先ほどの叩いた肉を鍋に入れて油で両面を焼いた。
そしてそこで取り出されたのが、先日私の渡した魔神バッカスの作ったワインだった。
「この最高級の酒が仕上げに最適アルね。これで『ふらんべ』するアル」
ふらんべ、とはいったい何のことなのだ?
「アイヤー! これで仕上げアル!!」
ウー・マイが赤ワインを焼いた肉の鍋に入れると、鍋からとんでもない火炎が噴き出した。
「ウー・マイさん! 火事ですよ! 火事!!」
「大丈夫だ、問題ないアル」
「へ?」
先ほどの火は一瞬で消えてしまった。
ウー・マイは魔法を使ったのか?
「肉を良質の酒で火をつけて焼くのを『ふらんべ』というアル。これもセイヨウの料理法アルね」
「どうやら本当に火事はおきていないようですね」
まあ今後この食堂を立て直す時は、耐火、防火に優れた素材で建て直す事も考えなくてはいけまい。
「後はこの平焼き肉団子と肉団子入りふぉんどぼースープが残っているアル!」
ウー・マイは同時並行で、別の平鍋に細かく刻んで叩いて丸く平たく伸ばした肉を焼き、別の大鍋にその肉を小さな肉の球にしたものを作っていた。
「完成! これぞウー・マイ特製、一つ目牛のふらんべ焼きと半婆具、それに美畏怖死中アル」
なんだかわけのわからない名前の料理が出来たが、見た目はどれも美味しそうだった。
「これに、昨日のワインを使ったという事ですか」
「そうアル。あの葡萄の酒はセイヨウ風の料理を作るのに最適だったアル」
やはりウー・マイは超一流の料理人なのかもしれない。
見たことのない材料からでもこれだけ美味しそうな料理を作ることができるのが、それを証明している。
「それではいただきます」
私は新作メニューの発表という名目で、一番最初にウー・マイの試作料理を食べてみた。
美味い! なんという美味さだ!!
あの固いカトブレパスの肉が、これだけ最高級の料理になっていた。
しかも、焼いた肉、そしてスープとレパートリーは何種類か存在する。
私はあまりの美味さに放心状態になりかけた。
「どうアル? 美味いアルか?」
「え、ええ。とても美味しいですよ」
「ヨシ、それなら今日の昼からメニューに取り込むアル」
その日の昼、食堂は新作メニューを奪い合い、あちこちで小競り合いが発生していた。




