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95 ウーマイと極上の酒

「テンタクルさーん。お届け物でーす」


 私に届け物?

 一体なんだろうか?


 届けられたものは大きな箱だった。

 その中身を見てみると、瓶に入ったワインが沢山入っていた。


「これって、バッカスさんとこの酒か」


 どうやら魔神バッカスが完成した酒を私の所に送ってきたようだ。


「テンタクルスさん、一体それは何ですか?」


 珍しくオクタヴィアが蔑称ではなくワタシをきちんと名前で呼んでいた。


「どうやら一か月ほど前に様子を見に行った魔神バッカスさんが酒造りを始めて造った酒を送ってくれたようです。どうですか? 一杯試飲でも」

「仕事さぼり触手魔族さん、今は公務中の時間ですよ。冗談は顔だけにしてください」


 やはりオクタヴィアはオクタヴィアだ。


「わかりましたよ、とりあえずこれはここに置いておきます」


 そして私はパラケルススやエリザベータと農水課に向かった。



「おんやー、執政官様じゃないですかブー」

「トンソックさん、様子はいかがですか?」


 私は農水課の担当トンソックに最近の様子を聞いてみた。


「いやー、どんにかあの巨大植物を育ててますブー。でもやっぱりたまに食われそうになりますブー」


 その話だと栽培にはそこそこの強さのやつを連れてこないと、いけなそうな感じだ。

 とりあえずは、元料理長のメシマズサイクロプスをここに配置換えするか。


「それで、野菜はどうにか確保は出来るようになったんですね」

「そうですブー。野菜の栄養はそこら辺の虫とかを勝手に食べるんで、勝手に大きくなる感じなので世話は必要ないですブー」


 まあ食肉植物に食われる虫には悪いが、これはこれでそこそこ成り立っているようなので今のところ問題は無さそうだ。

 食糧問題も少しずつ解決してきたと考えていいのだろう。


「では今のところは問題なさそうですね」

「それがそうとも言えないのですブー。今ある植物だけだとバーレンヘイムの食堂の分だけで精いっぱいなんですブー」


 確かにそう言われればそうだ。

 このバーレンヘイムには魔力やエネルギーが少なすぎて、本来の野菜や穀物が育つ環境が無いので食糧問題はいつまでも解決していない。


「それではこのバーレンヘイム全体に食べ物を確保できる環境を作る事が必要みたいですね」


 とりあえず今後の課題は見えたので、私達はお昼前に庁舎に戻る事にした。



 食堂は相変わらずの大盛況だ。

 今は巨大食肉植物のおかげで野菜も料理のレパートリーに増えていた。


「アイヤー、今日は食肉白菜のクラーケン炒めアルね!!」


 食肉白菜とは巨大化した食肉植物の白菜の事だ。

 その大きさはミノタウロスを一飲みにするほどの大きさだ。

 ウー・マイはその巨大白菜を剣であっという間に食べやすいサイズに斬り裂いた。


「料理は愛情アルねー!!」


 鍋が躍っている。

 ウー・マイはあっという間に巨大白菜とクラーケンの皮をむいた白い足を炒めて二十人前の料理を作った。


「二十人前、完成アル!」

「料理長、オレが運ぶぜー」


 リオーネもすっかりこの忙しさに慣れたようだ。

 食堂では相変わらず鳴いたり飛んだり口から光線を放ったり、料理を食べた連中が面白いリアクションを繰り広げていた。


 私は一息ついたウー・マイに一本の瓶を手渡した。


「どうぞ、コレ差し入れです」

「アイヤー。ありがとうアル、ところでこれって何アルか?」

「バッカスさんの所で作ったブドウの酒です」


 それを聞いたウー・マイが瓶を開け、その中の赤い液体を数滴指に出して舐めた。


「!! これは極上の酒アル!!」


 やはり、一流の料理人には一流の酒がわかるらしい。


「てんたくるすのオッサン。これ、一本使わせてもらっていいアルか?」


 どうやらウー・マイは酒を飲むのではなく、料理に使う事を思いついたようだ。


「明日の料理楽しみにしてろアル。とっておきのモノ作ってやるアル」


 私は明日の料理に期待した。

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