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84 鍋 リベンジ

 地獄に救世主とはまさにこの事だ。

 ウー・マイは食材を一通り調べて、どういう物をどう使うかを考えていた。


「ブブカ、それを床一杯に広げるアル」

「姐さん了解っす!」

「広げたらその肉を粉々になるまで叩くアル」

「わかったっす」


 ウー・マイはリオーネの持ってきた肉を広げると、その肉をブブカに粉々になるまで叩き潰させた。


「あー!! なんだよー、このいい肉がメチャクチャじゃんかよー」

「黙ってるアル。美味しいの食べたかったら黙って待ってるアル」


 料理を始めた後のウー・マイの迫力は、大悪魔でもたじろぐほどだ。

 迫力に押されたリオーネは猫のようにおとなしくなっていた。


「アイヤー! 次はこの具材アルね!! これは先に細かく切ってから先に湯通しするアル」


 やはり料理人の料理は一味も二味も違う。

 素材を焼くか煮るだけだったのを彼女は湯通しや灰汁抜き、皮むきに蒸し等いろいろな方法で美味しくする工夫を考えている。


「そこのトカゲ、その肉も寄こすアル!!」

「は……はひ」


 ファーフニルまでウー・マイの迫力の前に怖気づいていた。

 ウー・マイはファーフニルの尻尾肉を受け取ると、素早く剣で鱗をはぎ落した。


「わ……我の鋼鉄よりも固いという鱗が、一瞬で!?」

「これは伝説の厨具、流星包丁アル。この包丁で切れない食材は存在しないアル」


 それって凄くないのか!?

 竜の鱗を断ち切れる剣なんて、普通はエクスカリバーやグラム、クサナギにムラクモくらいしか聞いた事が無いぞ。


 ウー・マイは手慣れた手つきでドラゴンの尻尾をスライスし、お湯の中に沈めると謎の草を刻んだものを入れた。


「これはウー家伝来の毒抜きの草アル。これを使う事で毒のある素材も美味しくいただけるようになるアル」


 彼女はドラゴンの尻尾に毒がある可能性まで考えていた。

 確かにあのままファーフニルの尻尾を入れたら、毒で数日はみんな死んでいた可能性もある。


 尻尾のスライスを少し茹でると緑色の毒が浮き上がってきた。


「これはそのまま舐めたりするとマジであの世行きなので、捨てるアル」


 ウー・マイは尻尾肉のゆで汁を台所に直接流した。


「後は……おい、そこのあんた。それ寄こすアル」

「え? これは後で、てんたくるす様と飲もうと思ってたショーユなのに」


 いや、そんなもん飲みたくありませんから。


 ウー・マイはトモエから取り上げたショーユを鍋に入れた。


「ブブカ、さっきの肉寄こすアル」

「姐さん、了解っす」


 ウー・マイはブブカから受け取った砕いた肉を素早い手つきでいくつもの団子にした。


「アイヤー! これはそのまま焼いても硬くて不味い肉アル。それならひき肉にしてから肉団子にした方がスープがよく出るアル!」


 確かにリオーネの持ってくるあの肉は硬くて不味い。

 ウー・マイはその肉すら美味しく食べる方法を知っているというのか。


「後はしっかり火を通して具材が煮えるまで待つアル」


 辺りに今までに感じた事の無いような、とてもいい匂いがただよっていた。

 これが前のカオス闇鍋と同じ具材だとはとても思えない。


「もうすぐ完成アル」


 匂いを嗅いだリオーネが獣人化していた。

 ファーフニルは鱗と翼が生えていた。

 エリザベータは目を光らせて舌なめずりをしていた。

 トモエは頭の角が伸びていた。

 パラケルススは匂いの成分を錬金術的に分析していた。

 オクタヴィアは何故か泣いていた。

 ブブカはずっと鼻を鳴らしていた。


 ウー・マイの料理は既に匂いだけで、ここにいる全員の胃袋を完全に支配していた。

 そんな私は何故か全身から触手が伸びていた。


「完成! 何やらわからない素材とドラゴンの尻尾肉のウー・マイ風鍋アル」


 完成した鍋に全員があっという間に押し寄せた。


 そして、全員がその味に圧倒された。


「美味い! 美味すぎるッ!!」


 私も胃袋を完全にノックアウトされた。

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