59 女怪獣大戦争
「私はご主人様の忠実な足で踏まれるような下僕ですわ」
「何だって? テンタクルスの子供を産むのはオレなんだよ!」
「何ですってぇー! お前みたいな下品なケモノは地べたを這いつくばってるのだな!」
「アーン? 何言ってんだこのクソトカゲ!」
困った。私は一体どうすれば良いんだ。
どちらのいう事もめちゃくちゃだ、私はファーフニルを踏みつけもしなければ、リオーネに子供を産んでもらうつもりもない。
「テンタクルス! 黙ってないでこのクソトカゲに何か言ってやれ!」
「ご主人様! このような野蛮なケモノ女の相手をする必要はございません!」
私はこいつらを置き去りにしてさっさとどこかに行ってしまいたい。
だが、そんな事をすると今度はこのポンコツ二人が何をしでかすかわからないのだ。
「だれがクソトカゲだ。キサマ、よほど死にたいようだな!」
「ああーん、返り討ちにしてやんよ! この獣王リオーネ様を怒らせて無事だった奴はいない!」
頼むからやめてー、こんなとこで暴れられたらここの修繕費が恐ろしい事になる。
「キサマには勿体ないが死ぬ前に我の本当の姿を見るがよい!」
ファーフニルが正体の巨大ドラゴンに変身した。
「最近肉ばかり切ってたからな、この獣王剣ビーストカイザーでテメエを切り刻んで明日のスープの具材にしてやる!」
やめて、私はそんなスープは飲みたくない。
ドラゴン肉はこの間のパーティーでもううんざりだ。
「行くぞ! クソトカゲ」
「来い、ケモノ女!」
ついに二人の喧嘩という名の死闘が始まってしまった。
双方ともレベル70オーバーの化け物対決だ。
いうならば怪獣大戦争とも言えてしまう激突だった。
「足元がお留守だぜ!」
リオーネが獣王剣ビーストカイザーをファーフニルの前足に切りつけようとした。
「甘いわ!」
だが、ファーフニルは空に舞い上がり、それを躱した。
「今度はこちらが行くぞ! ファーフニルブレス!」
今度はファーフニルが火炎のブレス攻撃をリオーネに仕掛けた。
だがリオーネは素早く獣王剣ビーストカイザーを回転させるとブレスを風圧でかき消した。
「ほう、小手先の技としてはやるではないか」
「テメエこそオレのビーストカイザーの初撃を避けるとはな、今まであれを避けられてた奴はいなかったと褒めてやるよ!」
今度はファーフニルが全体重をかけた踏み付けをリオーネに仕掛けた。
しかしリオーネはその踏み付けを気合でファーフニルの足を持ち上げ、そのまま投げ飛ばした。
「グアアアッ!」
派手に吹っ飛ばされたファーフニルは宿舎の塀の上に落ち、そのまま重みに耐えられなかった石塀は瓦礫になってしまった。
「心地いい痛みだけど、やっぱご主人様以外に傷つけれるとムカムカするのよね!」
……どうやら変態にも流儀があるらしい。
私が痛めつけるのは喜びだがそれ以外の相手に傷つけられるのは苦痛らしい。
だからと私にはファーフニルを痛めつける趣味は全くないのだが。
「さっきからご主人様ご主人様と、テメエ、テンタクルスの何なんだよ!?」
「だから下僕ですわ! 我はご主人様にとても素晴らしい経験をさせていただきましたのよ」
それを聞いたリオーネが顔を真っ赤にしていた。
「なん……だと? オレですらまだテンタクルスと経験がないのに! どういう事だ!?」
あのー。リオーネさん、彼女の言っているのは全く別の意味なんですが。
「あら。未経験のくせにご主人様を呼び捨てにしないでいただけますか? ご主人様の名が汚れます」
「テメエやっぱり気に入らねえ、ボコボコにしてその高慢ちきな顔がグシャグシャになった泣き顔をおがんでやるよ!」
「貴方こそ負け犬ならぬ負け猫にして差し上げますわ! 尻尾を巻いてニャンニャン言いながら逃げ帰るのですね!」
頼むからもうやめてくれ、もうすぐ朝方なんだが、こんなとんでもない喧嘩で巨大な騒音を立てられたら周りから顰蹙者確定だ。
「……お前ら、いい加減にしろー!!!」
私は触手を全部使いファーフニルとリオーネの二人の全身を触手でがんじがらめにした。
「あああーん、ご主人様ー、これが欲しかったのー」
「おい馬鹿テンタクルス、これを解け、動けねーだろうが」
どうにかこの二人の動きを止めた私だったが、そこに最悪のタイミングで起きてきたオクタヴィアさんが様子を見に来て、私達三人を蔑んだ目で見下していた。




