56 天才料理人ウー・マイ
「女、もしご主人様に変なものを食べさせたら命はない物と思え」
「女じゃないアル、ワタシの名前は『ウー・マイ』アル」
ファーフニルはウー・マイに強く当たっている。
まあ自身の玉子を知らずに食べさせられた恨みがあるから仕方あるまい。
「姐さん、そこに落ちてたこれ使えそうっすか?」
「アイヤー、太いのと細いのと色々あるアルね、これなら使えるかもしれないアル」
ウー・マイはそう言うと持っていた変わった形の剣で触手を切った。
この触手は自らの意思を与えていなかったので私には痛みはない、しかし複雑な心境ではある。
ウー・マイは触手を少し削って口に含んでみた。
「ウゲェ、ペッペッペ、ゲロみたいな味するアルね! これ食べ物じゃなくて汚物アルね」
酷い言われようである、まあ私の下半身から出来ている触手ならそれも仕方ない。
「では、こっちのを食べてみるアルね」
今度は太い触手の一部を削った。
「うん、これは生肉みたいな味アルね。でも生臭くてそのままじゃ食えないアルね」
どうやら手から出した太い触手は肉に近いようだ。
「でもこれはこれで皮をむかないと中身は良くても皮が臭くて固いアル」
彼女は料理人としての判断で触手を見比べていた。
「姐さん、オレっちが手伝う事は何っすか?」
「ブブカ、火をつけてくれルと助かるアルね」
「でも姐さん、ここには枯れ木も草もないっすよ」
ウー・マイとブブカが困っていた。
私のインフェルノブレイズは強すぎるので炎としては使えない。
「仕方ないな、我の炎を使うがよい」
「ドラゴントカゲ、助かったアル!」
「ドラゴントカゲではない、我はファーフニルだ」
「わかったアル、ファブリーズ」
このやり取りには見覚えがある、相手の名前をきちんと覚えないのはあのポンコツホムンクルスと同じではないか。
この娘もやはりポンコツか、何故私の周りにはこういったポンコツ女しかいないのだ?
「名前を間違えるではない! 我はファーフニル、最強のドラゴンだ!」
「でも、てんたくるすに負けてたアル」
「……それは、ご主人様が凄いテクニックの持ち主だったからでぇー……」
ファーフニルが顔を真っ赤にして尻尾を振りながら下半身をもじもじさせていた。
「まあどうでもいいアル、そこで料理できるまで待ってるアル」
彼女は皮をむいた太い赤い触手を慣れた手つきで全く同じサイズに素早く斬り分けていた。
そしてその次に緑の触手を空中に放り投げたかと思えば小さい剣で何十回と空中に切りつけた。
「ホイッ! ホイッ! ホイィッ!!」
緑の触手は粉みじんになるまで切り裂かれ、下で皿を持ったブブカが受け止めていた。
「ファーフニル、火を頼むアル。少し弱火でしんなりなるまで焼くアル」
「キサマ、馴れ馴れしいぞ。様くらいつけんか」
「わかったアル、次からそうするアル」
「弱火だな、ではこれで良かろう!」
ファーフニルは口から火炎を吐いた。
「全然ダメダメアル! これじゃ強火過ぎて真っ黒こげになるアル!」
「注文の多い奴じゃの」
ファーフニルは口から炎の息を口笛を吹くように吹き出した。
「これでちょうどいい火加減アル」
ウー・マイは丸い鍋を使い、油で赤い触手を炒めて何か不思議な粉をかけた。
「これぞ我がウー家に伝わる伝説の調味料、虞流侘民散アル!」
赤かった触手が少し赤茶色の色になっていた。
「これで仕上げアル! 秘技、流星の舞っ!!」
ウー・マイは鍋を高く持つと空に炒めた触手をぶん投げた。
そして落ちてきた触手を更にぶん投げる。
これを何十回と凄いスピードで繰り返していた。
こんな動きを人間が出来るのか!? 私は人間をあなどっていたようだ。
「ヨシ、完成アル! よくわからん触手の虞流侘民散炒め、ウー・マイ風!」
ブブカが最後に空中に放り投げられた完成した料理を皿で受けとめた。
「姐さん、完成っすね! メチャ美味そうっす!!」
そして、私の触手を使った料理が完成してしまった。




