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45 そして再び開かずの間へ

 トモエは私の事をお慕い申し上げますと言っていた。

 彼女は鬼族、ヤマトクニと呼ばれる地域の魔族で肉体能力に特化している。

 だがどちらかというとリオーネのようなパワータイプではなくもっとテクニックに秀でたスピード重視の戦い方をする一族だ。

 彼女の持っているカタナと呼ばれる剣もそれに特化していると言えるだろう。


「拙者、まだ貴方様の正式なお名前を存じ上げておりませんでした、是非お名前をお教えくださいませ」

「えー、私は『テンタクルス・ネジレジアス』と申します」

「テンタクルス様、素敵なお名前です。拙者、『トモエ・カンナギ』と申します」

「い、いやね。さっきそれは聞いたよ」

「はっ! 拙者としたことが、テンタクルス様に無礼な事をしてしまいました。このうえは深くお詫びを……」

「わーやめてやめて!」


 彼女は一体何なのだ? 何かミスがあるたびに腹を切ろうと刀を構えるんだが、自殺願望でもあるのか??


「やっぱ死にたくなるよねェ。妾も何かあるたびに死にたいと思うしィ。でも不死身のバンパイアロードだから死ねないのォ。あー死にたい」

「貴女は話をややこしくしないでください!!」


 エリザベータがいらない同調をしているので話がますますややこしくなる。

 というか、掃除の話に来たのに仕事の話が全く進んでいなんだが。


「あのー。今は仕事の話の方が重要なんですが、聞いてもらえますか?」

「ああ、それはすまなかった。開かずの間の掃除の件だな」


 さっきまで死んでお詫びをすると言っていたトモエがさっと態度を変えた。

 私は彼女の性格がワケ分からない。

 まあとにかく掃除道具一式を借りていかないと。


「では、ここの書類に署名をお願い申しあげる、書き間違えた場合は二重線で訂正すればいい」

「えーっと、箒、雑巾、モップにその他……で、名前はテンタクルス・ネジレジアス……と」


 私はトモエについてきてもらい、開かずの間だったエリザベータの引き籠り部屋を掃除する事になった。


「テンテネンクルスー、ワシも手伝うのだー」


 パラケルススも大きな箒を持ってドヤ顔で立っていた。

 さてみんなでこの部屋を掃除しなくては。


 トモエはモップをくるっと回転させ、床を掃除する準備に入った。

 その動作の一つ一つが美しく完璧ではあったのだが……まだ床の見えるとこなんてほとんどないぞ。


「あのー、トモエさん。モップよりも先にこの部屋のいらない物を整理する方が先じゃないですか?」

「しまった! 拙者とした事がやるべき事の順番を考えずにテンタクルス様にご不便をおかけしてしまった」

「だからって毎回カタナで腹切ろうとしないでください!!」


 仕方なく私はトモエのカタナを触手を使って奪い取る事にした。


「キャアア、テンタクルス様―、お戯れをー」

「え??」


 トモエが顔を紅潮させて何やら興奮している、あのー、私今あなたに触れてなくて単にカタナを取り上げただけなんですが。


「あー、テンタンタクスー。エロいのだー」

「妾の閉じ込められていた部屋でまぐわうのかァ。羨ましい……妾も楽しみたいのに……相手してもらえない……やっぱり死にたい」


 こっちはこっちで変なスイッチ入ってるし、私の周りにはまともな奴は誰もいないのか。


「だから手を出しませんし、こんなとこで変な事するわけないでしょっ!!」


 だがここにいる三人が全員ジトーっとした目で私を見ていた。

 確かに触手のせいで全員に誤解される事はあったけど、信用無いにも程があるだろ。

 とにかく大掃除をしなくては……と思ってたら、また来たー! アブソリュート様の呪いだ。


 今度の呪いは腹を縦横縦横に何度も切られるような痛みだった。

 この痛さは尋常ではない、トモエはこんな事を自らやろうとしていたのか!?


「ギャアアアーーー痛い、痛いーーー!!」


 そして私が痛くて転がっていたのでしばらく掃除は全く進まなかった。

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