第9話 メタって倒せ、強敵サキュバス!
夜半に目覚めた。
かなり動けるようになっている。
医務室は夜間は無人だ。
つまり、寝ていた俺しかいない。
これならば、抜け出すのも容易というわけだ。
「ちょっとトイレに行ってから作戦行動を行う」
『勇者よ! 枕元に何かありますよ! これは……お菓子でしょうか?』
「焼き菓子だ! マリーナが置いていってくれたんだな? お茶も一緒でありがたい。これでNTRを叩き潰すエネルギーが補給できる」
この世界の食事関係の考証はデタラメになっており、制作者の趣味なのか、焼き菓子は小さくなる前のカン◯リーマァ◯だった。
チョコたっぷりで美味い。
八枚もある。
むしゃむしゃ食べてお茶で流し込む……。
うわあ、このお茶、玄米茶だ!!
いい加減にしろよ制作者!?
世界観が中世風ファンタジーなのに、食事は現代日本じゃねえか!!
だがそのお陰で食事は美味しく、するする入った。
トイレを済ませた後、行動開始である。
『勇者よ、こそこそしなくてもいいのではありませんか?』
「それはな。夜間の警備を担当する兵士と、俺達騎士は担当が違うんだ。警備兵は戦争には出ないが、こうやってローテーションで常に城内の警備を24時間体制で行う。俺達騎士は戦争に出たり、城下町の治安維持のために出動したりする。つまり、俺が夜に城内を練り歩き、マリーナの部屋の近くまで行くのは警備兵の領分を侵しているわけだな」
『ほえー、勇者はなんというか、思った以上に知的なのですねえ』
「NTRを打破するにおいて、警備兵はむしろ味方だ。彼らに余計な心労を味あわせたくはないからな」
警備兵が歩き回っている限り、不逞の輩はマリーナの居室に入り込めないからだ。
なお、この条件をクリアするのが内部犯……。
ダイオンとかデクストン団長だったりするわけだな。
NTRフラグが立っているなら、マリーナから招かれて堂々と入れる。
敵は内側にあり!!
味方も内側にあり!!
「よし、警備兵が後宮前を通過した。あそこは警備兵も入り込めないからな。王族から招かれるか、入口の女性兵士の目を盗む必要がある」
『詳しいですね……』
「原作にそういうイベントがあるんだ。このミニゲームをクリアしないとサキュバスと戦えない」
通常であれば、警備兵と女性兵士が話し込み始めるタイミングがあり、その隙に縄梯子を使って窓から侵入する。
割と警備兵たちはザルなので、然るべき時に縄梯子を使えば侵入できてしまうのだ。
それでいいのか?
ちなみに今回の俺は軽気功を身に着けている。
「はっ!」
警備兵と女性兵士が話し込むタイミングで、壁を駆け上がった。
窓に取り付く。
「うーむ、流石に体が軽い」
『もう騎士というよりも盗賊みたいなスキル構成ではありませんか?』
「盗賊は浸透勁を使わないと思うぞ」
窓から入り込み、音もなく降り立つ。
そろりそろりと、後宮を歩き回る。
マリーナの部屋の位置は、ゲームで把握しているが……。
3次元になるとかなり分かりづらいな。
原作は見下ろし型のドットRPGだったものなあ。
『大丈夫そうですか? いけそうですか?』
「大丈夫。サキュバスは忍ぶということをしない。つまり、絶対に見回りの兵士と戦うことになるし、その場合相手は女性兵士だから誘惑が効かない。戦いになる」
話をした矢先に、「曲者ーっ!!」という叫びが聞こえた。
俺は思わず壁に張り付いて息を殺すが、どうやら俺のことではない。
一安心……いやいや!
この状況の曲者など、サキュバスに決まっているではないか!
『あら、人間風情が私を止めようというの? 御主人様からは、王女以外の人間は好きにして構わないと言われているけれど……残念、あなた女なのね。だったら殺すしかないわ』
「人間ではない!? 悪魔か! おのれ悪魔め、許してはおかぬ! たあーっ!!」
警備兵とサキュバスの戦いが始まった!
俺がそこに到着した時点では、警備兵の女性が放つ連続攻撃はサキュバスに通用していない。
彼女はけっして弱いわけではない。騎士で言うなら中の下くらい。
侵入する賊相手には、これだけの実力があれば十分なのだ。
悪魔サキュバスがやってくることなど想定されてはいない。
それに、サキュバスは魔法によらぬ物理攻撃を無効化する、魔法結界を常時展開しているのだ。
『ほんと、つまらないわ、あなた。死になさい』
サキュバスの、先端がスペード型になった尻尾が伸び、警備兵の剣を破壊した。
「け、剣が!!」
『これで終わりね。私ねえ、早く王女の淫紋をさらに淫らなものに変えて、堕落させなければならないの。それこそが御主人様の望み。地の底まで堕ちた王女を、御主人様が迎えに来るわ。それまで、王女には花嫁修業をしていてもらわないと……』
「おのれ……おのれーっ! 姫様ーっ!」
叫ぶ兵士を、サキュバスの爪が一閃する……というところで、
「俺が、来た!! ツアーッ!!」
女性兵士の頭上を飛び越えながら、両足を揃えてのドロップキック!
『は!?』
振り下ろされたサキュバスの爪が、俺のキックに当たってポキっと折れた。
『ウグワーッ!? 私の爪がーっ!!』
さらに、ドロップキックの勢いは止まらずにヤツの胸元に炸裂し、『ウグワーッ!?』明確にダメージを叩き込みながらふっとばす!
「だ、誰だ!?」
へたり込んだままの女性兵士が俺を見上げている。
「名乗るほどのものではない」
「賊か!?」
「姫の貞操を憂う者とだけ名乗っておく!!」
俺と相対する形でサキュバスが起き上がる。
翼がはためくと、倒れた姿勢のままスーッと直立した。
『なに? なあにあなた!? なんで? なんで私が、人間風情の汚らしい蹴りで傷を受けているの!? 私には、魔力を帯びていない武器は通用しないというのに!』
「浸透勁である!!」
『はあ!?』
『そりゃ訳分かりませんよねー。勇者よ、相手は中位悪魔のサキュバスですよ! 勝機はあるのですか?』
「勝つ!!」
向こうが誘惑攻撃とかやって来る暇がないくらいのバトルで、粉々にしてやるのだ。
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