第85話 温泉で師匠の力を見ておく
まだ温泉だぞ。
ナルがやたらとベタベタしてくる。
ヴェローナはもじもじ恥ずかしそうである。
仕方ない。
移動するか。
俺はナルをくっつけたまま、カイとネイアがいる方に向かった。
立ち上がってのしのし歩いていくと、こっちを見たカイが「うーわー」となんか悲鳴をあげた。
「丸見えなんだけどー!! デリカシー!!」
「お前だってジョンをお風呂に連れ込んだだろ」
「ジョンは大人しいし大っぴらに見せないからいいんだよ!」
「ほほー。ほーん」
ナルが、カイとジョンを交互に見て頷いている。
なんだなんだ、何を合点しているんだ。
「ジョナサン気づかない? カイはねー。いや、本人の前では言わないでおこ」
「んもー! なんなのあんた!? 不愉快ー! 男に裸で抱きついちゃってハレンチだし! ジョン、あっち行こ!」
「う、うん」
おっと、ジョンが俺達とすれ違いで、ヴェローナの方に行ってしまった。
なんかヴェローナはホッとした顔をしているな。
「意識してる男の人が近くにいないから、胸をなでおろしてるんだよー」
「ナルはなんか恋愛マスターみたいなこと言っているな?」
「そりゃあもう! 他人のことはよく見えますから……」
俺とナルの様子を見て、ネイアが「わはは」と笑った。
豪快な。
彼女は男らしく、胸元を隠すとかそういうのは全くしていない。
打たせ湯の辺りにいて、腕組みなんかしてのんびりしているではないか。
ははあ、あの立派なものが腕に押されてはみ出しかけているのが、男たちは堪らぬのだろう。
俺も賢者モードでなければよろしくお願いしていたところだ。
「おぬし、わしの裸体を見てもピクリともせぬとは……。不能なのか、それとも呪いにでも掛かっておるのか」
「呪いの方だ。願掛けの一種でな。超越者を倒すまで、俺が女に手を出すことはない」
マリーナ以外。
彼女は俺の賢者モードをぶち抜いてくる天敵だ。
『ほんとにつまらないですよねー。あ、古きエルフよ、まだ生き残っていたとは驚きです』
「おお! そこにおわすちんまいのは豊穣の女神様。遠き過去にお隠れになったと思っておったが、まだ存在していたとは」
『ずっと寝てたんですけど、世界の危機を察して起きてきて全存在を賭けてこの勇者を召喚したのです!』
「ほう、つまりこの御仁が世界を救う鍵であると……そう女神は仰るのじゃな? わしら真エルフですら、手も足も出ずに身を隠すしかなかったあの化け物を、この男ならば倒せると……」
「ゲームの中なら何回か倒したからな」
「倒した!? 幾度か世界をやり直し、その中であやつを倒しているような物言い……。嘘や偽りでは……」
ネイアがじっと俺の目を見る。
「真実じゃな……。何者なのじゃ、この男は……!! これほど底知れぬ者は見たことがない。かの不死王ですら、この男と比べればまだ理解できるというものじゃぞ」
『ふっふっふ、分かりません!!』
幼女セレスが、自信満々に腕組みして言い放った。
そうかー、分からんかー。
俺はこの異世界NTRパルメディアをクリアしただけの、NTR爆砕の義憤に燃えるただの男だぞ。
たまたま超越者の倒し方を知っており、ゲーム中で実際に倒しただけだ。
あっ、ここで気づいたのだが、セレスはダークエルフの見た目。
ネイアはぼんきゅっぼんではあるが、パブリックイメージのエルフに近い外見だ。
光と闇のエルフ……。
いや、セレスは女神だからネイアより上なのか。
つまりこの世界では、ダークエルフがエルフより上なのだなあ。
ネイアの横にセレスが並び、二人で打たせ湯に当たっている。
うーむ。
「うーん、ジョナサンが全然その気にならない……! きょ、強敵過ぎる……! つまりジョナサン、そのあやつとか言うのを倒さない限り、ボクの方を向いてくれないってこと……!?」
お分かりになりましたか、と言いたいが、ここでそれを明らかにしてしまってはナルがよそに行ってしまう可能性がある……!
いや、それはそれでヒロイン脱落なのでNTRではなくなるのではないかと思うのだが、それでもヒロインであるという扱いで、浮気でNTRとなってしまうと俺の目的が瓦解してしまうではないか。
「それほどでもない。呪いのために直接的な行為はできないが、こうやって一緒に風呂に入ることはできるからな。今日はナル専用になろう……」
「えっ、ほんと!? うれしー!!」
よし!!
心が離れるのをガードしたぞ!
ちょっと心に隙ができるとNTRはぬるりと入り込んでくるからな……。
こういうメンタルケアも大切なのだ。
おっ、向こうでは酒を頼んだネイアが、湯船に盆を浮かべて一杯やっている。
打たせ湯に飽きたセレスは湯船で平泳ぎしている。
このわんぱく女神めえ。
向こうでは、なんかジョンとカイがお喋りをしてて微笑ましい。
あれだな。
中学生くらいの恋愛模様であろう。
いいぞいいぞ。
ジョンよ、女性とコミュニケーションする経験値を積んでくれ。
なお、この二人の空気に耐えられなくなったのか、結局ヴェローナはこっちに移動してきたのだった。
「一人でゆっくり温泉に浸かるのも許されませんの……?」
天を仰ぐ彼女以外は、大体温泉でリフレッシュできた模様。
これで不死王編に本格的に臨めるぞ!
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