第7話 爆速でレベルアップするぞ!
食事を終えた。
間近でこれほど長時間マリーナの顔をみたのは初めてだ。
なるほど……。
俺がジョナサンと同化しているせいもあるのだろうが、あまりにも好み過ぎる。
絶対にNTRられることは防いでやるぞと誓うに足る女性であろう。
ぶっちゃけ、このままジョナサンの肉体を乗っ取ってマリーナをあらゆるNTRから守り抜き、よろしくやっていきたい……!
現実世界などくそくらえである。
『これはですね、勇者の働きが素晴らしいものであるならば、この騎士の肉体があなたのものになるのも神々はやぶさかではないのですよ』
「そうだったのか! ではその場合ジョナサンの魂は?」
『この騎士のままでは世界は超越者に奪われ、滅ぼされてしまうことでしょう。何事にも犠牲はつきものです』
「なんたること」
お前は本当に報われない主人公だなあジョナサン……!
NTR作品でNTRされるために造形されたキャラだから、心の中までヘタレだったのが災いしたか……。
どこかでジョナサンの魂をゴーレムとかに降ろし、それなりの生活をさせてやろう。
俺はこっちの方も誓っておくのだった。
『ところで勇者よ。マリーナ姫はあれほど、周囲から誘惑が押し寄せてくる女性なのですか?』
「うむ、そのことだが、実はダイオンとデクストン団長のルートはそれぞれ同時発生しない。だが、この世界では同時発生している」
『……どういうことなのですか?』
「おそらく、マリーナを狙う間男たちのルートが全て、同時進行で発生するナイトメアエクストリームモードがこの世界なのだろう。超越者などついでになるほどの難易度だぞ」
『ついでにしないでください~!?』
「ここは、大きな賭けに出る必要がある。一気に経験点を稼ぎ、爆速でレベルアップを図る」
『経験点……? それはつまり、何をしようというのですか?』
「王国最強の騎士である、デクストン団長に試合を申し込むんだ」
デクストン団長は、ルートによってはラスボスになるキャラクターである。
つまりそれくらい強い。
というか、なぜ王国の騎士団長という立場で落ち着いているのか意味が分からないくらい強い。
そこに、序章でしか無い現段階で勝負を挑むのだ。
詰将棋のような、ミスの許されない戦いが要求されると言えよう。
なお、絶対に勝てないので、こちらが戦闘不能になる前に試合を止め、経験点だけを頂く作戦だ。
『勇者よ、そんなに焦らなくてもいいのでは……? 一度や二度、王女が過ちを犯してもいいではありませんか。にんげんだもの』
「ダメ!!!」
俺は!
茨の道を行くと決めたのだ!!
ということで翌日。
訓練の場で、俺はデクストン団長に試合を申し込んだ。
「昨日、刺客を仕留めはしましたがまだ我が剣は未熟!! デクストン団長、私に剣というものを教えて下さい! 手加減抜きで!!」
「ほう」
団長の眉がピクリと動く。
「これまで線が細いと言うか、覇気というものが弱かったジョナサンが、最近になってようやくやる気になったと思ったら、まさか私に手合わせを願うとはな。良かろう。私の通常モードが全力で相手をしてあげよう!」
どよめく騎士たち。
「おいおいおい、あいつ死ぬわ」
「デクストン団長相手に手加減抜きだと!?」
「しかもモヤシのジョナサンがか!?」
「最近たまたま活躍できてるからって調子に乗り過ぎだぜ」
ダイオンもこの光景を見て、目を見開いている。
「てめえ……! 俺がぶっ殺す前に死にに行くとは何事だ!! 死ぬなよ!!」
なんか一人だけ応援してるみたいになってるな……!
ということで、お互いに練習用の木剣を手に、向かい合う俺とデクストン団長。
通常の訓練では微々たる経験点を獲ることしかできない。
だが、試合形式でデクストンとやりあえば、必然的に命を懸けることになる。
昨日、刺客と死合った時になかなかの経験点が入った。
これはつまり、命の危険と入ってくる経験点量は比例しているという仮説が立てられるのだ!
『勇者よ、彼、通常モードとか言っていましたが』
「デクストン団長は騎士というクラスにおいて頂点の一人だ。普段はその強すぎる力に五段階の封印を掛けている。全開にすると己の肉体すら耐えられなくなるらしいからな。そして余波で周囲に大きな災害をもたらすために、要人がいる場所では封印を解除できない」
『えっ!? 本当に人間なのですか!?』
「その最強全開デクストンですら勝てないのが超越者なのだ! そしてそんな超越者討伐より難しいかも知れないのがNTRフラグ全折りだ! よし、やるぞ! 今のヨワヨワな俺にとって、通常モードの団長ですら圧倒的な強敵! 気を抜けないからな!」
木剣を引き抜き……。
「試合……始め!」
「先制のファルコンスラッシュ!!」
俺は剣を素早く振った。
ファルコンスラッシュとは、一定の構えからの高速スイングで真空刃を発生させて遠距離攻撃する技だ。
剣技の基本中の基本と言える。
今までこれすら使えなかったジョナサンが、ついにファルコンスラッシュを使用したということで、団長は嬉しそうな顔をした。
この人、善人なんだが、完璧超人ぶりで姫を落としてNTRイベントを起こすのだ!!
絶対に王女の前で手柄を立てさせてはならない。
なお、ファルコンスラッシュは団長が掲げた木剣によって切り払われた。
その直後、デクストンが加速する。
「りゃあああああああああっ!!」
気合とともに、剣が振り下ろされる!
圧倒的な速度。
避ければ、異常な速度の切り上げが襲ってくるはずだ。
デクストンの得意技、降竜・昇竜である!
当たれば一撃で意識を持っていかれる!
なので、ここは受けるしか無い。
俺は剣を平にして降竜を受け止める!
無論、何も考えずに受けると剣が折れて一巻の終わり。
なので裏側から格闘術・鉄の手で受け止め……。
「さらに! 昨日のレベルアップで強化した格闘術3の効果で……発勁!!」
木剣を挟み、降竜に発勁を叩き込む!
半分くらいの威力を殺すことに成功しただろう!
木剣は半ばまで亀裂が入りながらも、その一撃を受けきった。
俺は団長の腹めがけて、蹴りを放つ。
団長はこれをあえて腹筋で受け、自ら後方へ跳んだ。
「団長の一撃を凌いだ!?」
「馬鹿な! 手加減なしの攻撃だったぞ!」
「木剣だって当たれば死ぬような一撃だったはずだ!」
「それをジョナサンが!?」
ダイオンがニヤリと笑っている。
「そうだジョナサン! 正攻法で勝てるかよ! てめえは俺を殴ったみたいに、汚え戦法でやるんだろうがよ!」
言われずともそうする!
「ツアーッ!」
俺は宙を蹴って跳んだ。
追撃の飛び蹴り!
つま先は鉄の手の力で、鋼の硬度を持つぞ!
団長はこれを剣の腹で受け、目を見開いた。
「蹴りとは、破れかぶれかと思ったが、どうして! 悪くはない!」
俺の蹴りをいなしながら、団長が回転した。
受け流された!
俺は団長の背後に着地……するのではなく、あえて自ら転倒して横にゴロゴロ転がる。
さっきまでいた場所に、団長の木剣が突き刺さった。
「隙あり!」
俺は木剣を投げつける!
団長はこれを、剣を振り上げて払った。
その時には俺は立ち上がっている。
構えは、右拳を下に、左拳を上に、真ん中に頭を!
漫画で読み、密かに現実世界で練習していた技……。
「山突き!」
三箇所で一気に攻撃するから、どれか当たるだろ!!
という算数的な強さを追求した一撃である。
漢字の山を横倒しにしたような見た目なので山突き。
団長はこの、見たことも聞いたこともない技に驚いたが、冷静に木剣を振り、俺の右手と左手を払って力を受け流し……。
そこが俺の狙いである!
左右の腕を払った木剣目掛けて、頭突きだーっ!!
さっきの飛び蹴りと、左右拳の受け、そして発勁を受けたことでガタが来ていた木剣はこれでバキッと折れた。
「おお!!」
団長が驚きの声を漏らす。
そして、驚きが笑みに変わった。
「私の木剣を折ってみせたか! やるな!」
驚きにどよめく騎士たち。
頷くダイオン。
俺はと言うと、団長の受けといなしを喰らった両手両足のダメージの蓄積で、その場にぶっ倒れたのだった。
「ウグワーッ! もう限界だ! だけどどうですか団長。これは引き分けくらいには……」
「ふむ。騎士たるもの、武器を投げ捨ててどうする、というのは品性の問題だが」
ちらりと、投げ捨てられた俺の剣を見て、団長はまた笑んだ。
「私の剣は折れ、お前の剣は折れていない。お前は剣を捨て、私は剣の柄を握っている。いいだろう。引き分けということにしておこうじゃないか」
「うおおおおおおおおおおおお」
周囲の騎士たちから驚愕の声が、怒号のように響き渡る。
「よしっ! よしよしよしっ!!」
俺も地面に寝転んだまま大喜びした。
『勇者よ、どうしてそんなに喜んでいるのですか? 大ダメージで今日一日は訓練ができないではありませんか!』
「セレス。実はな……。負けると経験点は入らないが、引き分けなら経験点が半分入るシステムなんだ」
『なんですって!! つまり勇者よ、あなたは口先で引き分けをもぎ取ったということなのですか!?』
「そうなる」
怒涛の如き経験点が流れ込んでくるのが分かる。
とんでもねえ。
序章で得られる量じゃない。
これだけあれば、しばらくはマリーナのフラグをへし折り続けることができるだろう。
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