第38話 不死王現る!
カパカパとビールを飲むヴェローナ。
リビングドールだから酔わないだろうなあ……。アルコールを飲む意味ある?
「酔いが回ってきましたわね。普段はこの機能を切ってあるのですけれども」
「えっ酔うの!?」
「人を何だと思っていますの?」
リビングドール……!!
あ、でもリビングドールって言うくらいだから、生命活動をしている人形なのか。
なるほど、その気になれば酔えると。
「じゃあなんで酔ってるんだろう?」
『それはもう、勇者に気を許したからですよ! 勇者は女性から気を許されるオーラみたいなのを常に纏っていますからね!』
「なあにそれ!?」
初耳なんだけど!?
セレスはそんなとんでもないものを感じ取っていたのか。
チエリとナルは大いに盛り上がっており、完全にできあがっているとも言えよう。
二人でわいわいと色恋の話をしている。
ともにチョロインだからなあ……。
「ジョナサン。あなたは何をしようとしていますの?」
「何をと言うと? 突然質問してきたな……」
「普通の冒険者であれば、帝国が巡らす陰謀に首を突っ込もうとなどしませんわ。割に合いませんもの。人間は損得で動くものでしょう?」
「確かに。つまり俺が帝国と正面から殴り合うのは、そこに圧倒的な得があるからだということにはならんかね!!」
「なんですって!?」
ちょっと驚くヴェローナ。
それから、やや酔いで赤くなっている頭を傾げ、少し考えた。
「一介の冒険者が帝国とやり合うメリットはありませんわね。あなたは人狼殺しの称号を得て、このまま冒険者として危ない橋を渡らぬようにしていれば、順風満帆でしょう? どうして自らの首を締めることをするのですの? 不死者ならぬ、ただの人間のくせに」
「簡単だ。ラグーン帝国は確かに強大だ。大陸最大の国家だ。だが、奴らを放置していてはマリーナのNTRフラグが解消しないのでな……! ヒロインたち全てのNTRを爆砕すると俺は誓った。その途上に帝国がいるだけだ」
『最終目標は超越者ですからね! 帝国なんて通過点ですよ通過点!!』
セレスは威勢の良いことを言うなあ!
だが、俺の言葉にヴェローナはかなり興味を持ったようなのだった。
「あなた、他の人間とは違いますわね。明らかに質が異なりますわ。なんていうか……狂ってる」
「なんですって失敬な」
『そこで真顔で怒る辺りが本物ですよね勇者よ』
だってシツレイだろう!
俺のどこがおかしいんだ!
プリプリしながらミルクを飲むと、ミルクに含まれる成分によって落ち着いてきた。
と、そこに近づいてくる足音がする。
ガシャリ、ガシャリと重厚な鎧がこすれる音だ。
振り返ると……。
白銀の鎧をまとった男がいた。
顔まで兜で覆われており、肌が一切露出していない。
俺はこいつを知っている。
「君がジョナサン君だね」
「こいつはどうも。一級冒険者のグーテンさん」
向かいで飲んでいたヴェローナの酔いが、スーッと醒めていくのが分かった。
「グ……グーテン様!!」
「ああ、ヴェローナ、立ち上がらなくていい。仕事のついでで近くまで来たものだからね。少し立ち寄っただけだ。ジョナサン君、君の噂はよく聞いている。一度会ってみたかったんだ。聞きたいこともあったしね」
「聞きたいこと? それは一体なんですかね?」
俺の全身に緊張がみなぎる!
相手は不死王。
この世界における、トップクラスの実力者の一人である。
古い時代の大魔道士であり、永遠の命を得て不死者リッチとなった。
だが、長い時を存在し続けることに飽いて、こうして人間世界にちょこちょこ関わってくるわけだ。
不死王の不興を買った者は全て滅ぼされ、歴史上に何度か存在する都市の消滅や大絶滅は、不死王の仕業であると言われている……。
原作者、よくこんな設定も作ったな。
何かのラノベにハマってたんだろうな。
不死王は俺に近づき、囁いた。
「なんでネトラレブレイカーなんだい?」
「えっ!?」
『鋭い! 勇者の本質ではありませんか!』
俺はあまりにも思わぬ質問過ぎて飛び上がり、セレスはなんか謎の基準で不死王を見直したらしかった。
「そんなことが聞きたいのか?」
「ああ。君が素手で人狼を仕留めたのは知っているが、それは実力ある格闘術の使い手ならば可能な者もいるだろう。だが、ネトラレブレイカーだけは分からない……。どうしてなんだ……。知りたくて知りたくて堪らず、ヴェローナを君たちのパーティに参加させた。だが報告だけでは要領を得ず、私がこうやってやって来たというわけだ。教えてくれジョナサン」
真剣な口調で、不死王はトンチキな質問をした。
「ネトラレブレイカーのネトラレって、あのNTRなの? もしかして君は……私の知っている世界と同じところから……」
「和食が故郷の料理って言ってるから怪しいと思ったら、あんたも中身は日本人だったか……!!」
「やはり!」
「やっぱり!!」
異世界転生者同士の、数奇な出会い!!
きっかけはNTRとはなあ。
「グーテンさんはNTR好きなの?」
「絶許」
「なるほど……。ところで、俺がRTAしていることで、多分俺と関わりを持つ女子は誰もがNTRされる可能性のあるサブヒロインになるような気がしてる……」
「なんだって」
不死王が驚愕する。
「君はまさか、世界にNTRを呼び込んでいるというのか? この世界はMMORPG、アライメントオンラインの世界で健全なはずだ。君は世界をR18に改変しているとでも言うのか?」
なんか妙なことをいい出したが、なるほど。
俺がNTRを砕くために動くからこそ、NTRは可視化されるということか。
つまり見えないNTRは存在しないNTR……。
ヒロインが影で浮気してても、知らなければNTRじゃないもんな。
「いいやNTRだね!!」
俺が激昂してテーブルを叩いたら、ヴェローナとチエリとナルがビクッとした。
不死王はクックックッ、と肩を揺らす。
「面白い。君とはいつか、手合わせしたいものだ。まだ、人間の域に留まってはいるようだが……」
「すぐに飛び越える予定だ。そうだ、俺はあんたに聞きたいことがあったんだが」
「いいだろう。私に一太刀でも浴びせられるならば、君の質問に応えようじゃないか。今は忙しい中、時間を作ってやって来たのでね。魔道士が暗躍していて、これの監視に将軍たちを使っていて、彼らが暴走して世の中に危害を加えないように目を配らないと……」
なんか大変そうだぞ。
そして不死王は去っていった。
本当にちょっと通りかかっただけだったらしい。
だが、圧倒的な実力は分かった。
『勝算はあるのですか勇者よ!』
「戦士としての不死王相手に、引き分けに持ち込めばいいんだ。あと何度か依頼をこなしてレベルアップすれば手が届くな」
俺のつぶやきを聞いて、ヴェローナは鋭い目でこちらを見ながらジョッキを傾けるのだった。
またちょっと酔ってきたな?
『勇者はなんかいい感じで終わった雰囲気出していますが、勇者の言う叡智ゲームと、不死王の言うえむえむおーあーるぴーじーとやら、全然違うくないですか? お互い違うフィルターを通して世界が見えてません? ま、いいかー』
お読みいただきありがとうございます。
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