第35話 戦闘はNTRを気にしなくて済む安らぎタイム!
盗賊ギルドを後にする寸前、バイフンが俺の耳に囁いた。
「お前が連れている長銃を背負った女、気を許すな。あいつは突如現れて一瞬で二級冒険者まで駆け上がった謎の女だ。一級冒険者グーテンの女だと思われるが、ともに恐るべき使い手だ。特に女の方は他の冒険者に気を許したことはない。何か狙いがあってお前と同行しているぞ」
「そいつはご親切にどうも。サービス?」
「お前がこの情報一つで帝国の間諜を潰してくれるなら、これくらいのおまけはお安い御用だ。期待してるぜ、人狼殺し」
期待されてしまった。
『勇者よ、なんだか称号というステータスが付きましたよ! 人狼殺しですって』
「何度も何度も呼ばれてたからそういう称号になってしまったかあ。どれどれ……? 再生能力を持つ、魔性属性の対象に特攻……。強いな」
「お二人共、彼は一人で何をぶつぶつ言っているのですか?」
「あ、ヴェローナには聞こえないんだ」
「ジョナサンさんは肩の上に女神様がいて、相談しながらいっつも難しい話をしてるんですよね」
「お二人共、正気ですの……?」
混乱するリビングドール!
不死王の軍勢ですら耳を疑う話なわけだ。
さて、教えられた場所に向かいつつ、うちのチームの戦力を見ていこう。
まず俺。
騎士団の練習用ブレストプレートに、武器はショートソード。
明らかに弱そうな装備だが、この全身が武器とも言えよう。
チエリ。
白いクロースアーマーにマント。
武器はナイフ。
魔法医だから、主に回復と自衛用の流水の型しか使わないから問題ない。
ナル。
ライトレザーアーマーにボディスーツ。
武器はダガー。
こう見えて戦闘はからっきしだぞ。
うむむむむ!
戦闘の全ては俺に掛かっているではないか。
で、ここに来た助っ人のヴェローナ。
黒いクロースアーマーに黒いフード付きコート。
背負っているのは業物の長銃と、他にも腰に短銃を二丁。
銃は魔力さえあれば使える武器なので、冒険者の間ではそう珍しくはない。
逆に言えば魔力が尽きると無用の長物となるため、銃以外の武器を持っていないというのは普通あり得ない。
それがあり得るかもなのがヴェローナだ。
恐らく、内部に魔力機関を内蔵した無限射撃ができるタイプのリビングドール。
「どうしたんですの? 私の顔をじっと見て」
なるほど、よく見ると精巧なドールアイ!
肌は軟質樹脂かな……。
そのうち触らせてもらおう……。
『ふふふ、勇者よ、耳寄りな情報ですよ』
「なんだなんだ」
『あの娘は魔物たちによる被造物ですが、なんと! 私調べによると実りを得ることができますよ!』
「な、なんだってー!! いや、さすが豊穣の女神だな。そう言う方面の情報をサッと手に入れてくる……。でも今求めてるのはそういうのじゃないから」
『ええーっ。いつになったら勇者は実りを生み出すのですかー』
肩の上の光から、小麦色の指先が伸びてきて俺のほっぺたをつんつんした。
これをヴェローナが目撃しており、ギョッとしているではないか。
彼女はまだうちのパーティに入っていないため、セレスの姿も声も感じ取れないのだ。
虚空から指が生えたように見えていることだろう。
「みんな、ついたよ! 待ち伏せされてる! ギルドの中に向こうの回し者がいたっぽい!」
ナルが警戒の声を発する。
ここは、郊外にほど近いところにある、いわゆるスラム街。
そんなところに、ラグーン帝国の間諜が潜んでいたんだなあ。
帝国がこの都市国家を調べているということは、侵略する気満々という意味でもある。
スラムのあちこちから視線を感じる。
帝国の間諜たちがこちらを見ているのだ。
俺の動きが早すぎたために、原作ゲームでは撤退完了している帝国の連中が、残ったままである。
盗賊ギルドとしては、俺を放り込んで奴らを混乱させ、消耗したところを刈り取るつもりなのだろう。
好きにすればいい。
俺の目的は、間男マズールを仕留めることである。
そして何より……。
戦闘メインのシナリオならばNTRが敗北エロ以外発生しない!
なんて気楽なんだ!!
「やりますの?」
「ああ、戦闘を開始しよう。ヴェローナ、俺達以外の動くものは全部撃っていい」
「あら、分かりやすい指示は大好きですわよ?」
彼女はにこりともせずにそう言うと、二丁拳銃を取り出した。
それと同時に、スラムのあちこちで寝転がったり、建物に寄りかかったり座り込んでいた男たちが起き上がり、剣を、クロスボウを、魔法の杖を構える。
こいつら全員、スラムの住人じゃなくて帝国兵だ!
「レッツパーティ……ですわ」
雄叫びを上げて、あちこちから帝国兵が飛び出してくる。
これを次々に射撃で撃ち落とすヴェローナ。
「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」
さらに背後から撃たれたクロスボウを紙一重で回避すると、振り返らずに背後を短銃で射撃。
「ウグワーッ!!」
さらに短銃を腰に収め、体の回転で背中から引き抜いた長銃を構え、跳躍する。
彼女がいた場所に炎の魔法が炸裂するが、既にヴェローナは上空だ。
ジャンプしながらの射撃が、魔法使いの胸板に大穴を開けた。
「ウグワーッ!!」
「す、すっごー!!」
「強いですー!! 強い強い!」
「はいはい、二人は戦闘力低いんだから移動しようねー。帝国兵をヴェローナが引き受けてくれるから、その間に俺達はマズールを探すわけだ……」
「侵入者めーっ!」
「ひゃーっ!」
「きゃー!」
「ツアーッ!」
「ウグワーッ!!」
奥で待ち構えていた帝国兵をチョップで粉砕しつつ。
俺たちは奥へ奥へ。
あばら家に見えた建物は、幾つかの建物が中身をくり抜いて繋がっており、帝国軍間諜の拠点になっていた。
なるほど、さっきの帝国兵の数や装備を考えると、ギルドが仕掛けたら全面戦争になってしまう。
ずっと機会を伺っていたのも分かる。
「ナル、よろしく!」
「そうだった! えーと……音……奥で人の衣擦れの音……。足跡、ある。光……ちょっと漏れてる。こっち」
ナルはすぐに、隠し扉の場所にたどり着く。
そして指先で扉の形を探り当てると、仕掛けを見抜き……。
「凄い……! 今までに無いくらい、ボク冴えてる! 全部わかるよ。罠はなし。裏側から閉じられてる扉だねこれ。専用の鍵が必要で……扉の向こうで待ち構えてる!」
「それだけ分かれば十分だ!」
スキルの強化で、ナルの盗賊としての能力を引き上げておいて大正解だった。
あとは俺の仕事であろう。
「扉の向こうのやつ! 覚悟しろ! オアアアアアアアーッ!!」
俺は飛び上がり……!!
発勁を乗せたドロップキックを隠し扉に浴びせかける!
扉は一瞬だけきしみ、俺の一撃を耐えたかと思われたが……。
すぐさま決壊した!
爆散しながら、部屋の中へとぶち抜かれていく。
「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」
扉の前で待ち構えていた帝国兵士が三名ばかり、まとめてぶっ飛んだ。
奥には、いかにも偉そうな男が一人と、そしてマズール。
「き、来やがったな、ジョナサン……!!」
「いかにも。間男はここですりつぶしておかねばなあ……!!」
冒険者編最大の寝取り男よ、死ぬがいい!
お読みいただきありがとうございます。
面白い、先が気になる、など感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。




