第31話 ナンパの影に魔薬あり!
ナルと一緒に移動を開始したら、ちょっと向こうのチエリがマズールによってどこかに連れて行かれるところではないか!
チエリはチョロインなので、ちょっと押すとグラグラする。
なのでマズールの強引な口説きでもついていく可能性があるのだ!
いかーん!!
「ナル、移動するぞ! お前の速度ならついてこれると信じている! 来い!」
「う、うん!? う、うわーっ!! ジョナサンがすっごい速さで走るー!! 足の回転よりも移動する距離が長いんだけど!? どういう原理!?」
あまりにも高速移動すぎて、足が止まって見えるのだ!
『勇者よ、軽気功の横にうっすらと新しいスキルが出現しています』
「後にしてくれ! 今はチエリの救出が先だ! ツアーっ!!」
マズールとチエリの間にズザーッと入り込む!
「ウグワーッ!」
弾かれてマズールが吹っ飛んだ。
チエリが「あーれー!」とよろたので、俺は彼女をサッとお姫様キャッチ。
軽い!
マズールは俺を見ると、慌てて退却していった。
奴め、チエリをどこに連れて行こうとしていたんだ。
「ジョナサンさん! あっあっ、この体勢は! ああ~、プリンセス気分……」
チエリがポワポワンとし始めた!
俺の首に手を回してぎゅっと抱きついてくるぞ!
いかーん!
行動に制限が掛かる!
「ねえキミかわいいねえ」「俺等と遊びに行こうよ」「これからごきげんなパーティが始まるからさ」
「えー、で、でもボク、一緒に来てる人がいるからー」
「ちょっとだけ! サキッチョだけ!」「そうそう! すぐ終わるから!」「目をつぶってるうちに終わるから!」
背後でナルが何者かに口説かれている!
いかん、軽気功で引き離しすぎたか!
ただの運動スキル勝負なら彼女に軍配が上がるが、俺は格闘と組み合わせた軽気功で、しかも常時ダッシュと同時使用している。
こうなるとナルですら追いつけないようだ。
速すぎるのも考えものだな。
俺はチエリをくっつけたまま、バックダッシュした。
ナンパ男たちの間にズザーッと入り込み、
「残念ながら先に俺が約束を取り付けている! 帰った帰った!!」
「うわーっ!?」「なんだこいつ!?」「おいおい、かっこつけてるんじゃね……首から女の子をぶら下げてる!?」
「ど、どうもー」
ぶら下がっているチエリがおしりを向けたまま挨拶をした。
その状態で傲然と立つ俺を見て、ナンパ男たちは何か凄みを感じたらしい。
「こいつやばいぜ……」「こんなやつを呼び込んだら儀式……いやパーティがめちゃくちゃにされちまう」「生贄……参加者は十分集まってるしな。行こうぜ!」
去っていく。
うーん、言葉の端々から隠しきれない陰謀の香り。
「わーっ! ジョナサンありがとう!! なんだかボク、助けられてばっかりだなあ。えいっ」
「あー」
ナルがチエリを俺の首から外して、横に置いた。
そして自分が俺の首にぎゅっと抱きつくのだ。
「な、な、なんて破廉恥なことをしているんですかナル~!」
「チエリだってさっき、自分でやってたじゃん!」
「あれはお姫様抱っこが解除されたので、しがみつかざるを得なかったんです!」
「お、お、お姫様抱っこだってぇーっ!?」
俺にしがみついたまま衝撃にガクガク震えるのはやめなさいナル。
結局、その後二人を交互にお姫様抱っこする羽目になったのだった。
なぜだ。
だが、こうやっている限り彼女たちがNTRされることはない。
安心なのだ。
「それよりもジョナサンさん。海水浴場の人が少なくなっているような……」
「おや……? 時間が夕刻に差し掛かるとはいえ、確かに少なすぎるな。俺達本来の目的は、海水浴場の警備だ。ナンパ男たちが行った方向を探ってみるか」
NTR爆砕を終え、余裕ができた俺。
冒険者としての仕事に精を出すことに決めるのだった。
だが、ここに来て俺にピンチが訪れる。
右手にチエリ!
左手にナル!
二人がしがみついたことで、両手を封じられてしまったのだ!
とんだハンデキャップマッチだ。
いやいや、待つんだ俺よ。
NTRフラグはへし折ったのだから、あとはのんびりと仕事をするだけではないのか。
俺はどうやら、常在戦場の心に呑まれて修羅と化していたらしい。
『冒険者の仕事をするためにも、両手は空いていた方がいいのでは? というか勇者よ、さっきからずっと素手で海パン一丁で走り回っていますが、剣くらいは装備したほうがいいと思いますよ』
「言われてみれば……。セレスに諭されてしまった」
俺は反省しながら、剣を装備した。
ステータス画面を開き、装備に剣を追加するだけである。
突然目の前に、鞘に収まった剣が出現したので、ナルがびっくりした。
「わーっ! なんか剣が出たんだけど!」
「俺が装備したのだ」
「どこから出したの!?」
チエリが訳知り顔で頷く。
「ジョナサンさんはちょいちょい、こういう神秘的なところがあるんですよ。多分パンツの中に隠してあったんです」
「そ、そっかー。謎めいた男は魅力的だし、まあいっか!」
納得してくれたか、ナル。
こうして俺は両手に女の子たちをくっつけたまま、パーティ会場へと向かうのだった。
一見すると何も無い砂浜。
そこから先には不自然なくらい誰もいない。
だが、一歩踏み出した瞬間、景色が変わった。
日が沈み、夜が迫る中……。
無数の松明が焚かれ、ユーロビートめいた怪しい音楽とスポットライトが揺らめく。
ファンタジー世界~っ!!
踊り狂う男女!
壇上には、祭壇と怪しげな司祭。
司祭はつば付き帽子を逆に被り、どう見てもターンテーブルにしか見えないものの上でレコードをキュキュキュっと擦っていた。
DJじゃねえか!!
『あれは邪なる神に生贄を捧げる儀式ですよ! あれが祭壇で、キュキュキュっと音を立てて回したり戻ったりしてるのが教典です』
「ターンテーブル型の祭壇と、レコード型教典かあ……。理に適っているといえば適っている……。制作者がきっと、こういうイベントにハマったんだな」
ともかく!
謎の儀式が行われている状況に遭遇してしまったのだ。
砂浜イベントのラストは、謎の邪教との勝負なのかー!?
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