第29話 異世界海水浴警備だと!?
一瞬で人狼村の殺人事件を解決し、俺たちはポンドールへと帰還した。
あまりにも仕事が早すぎて、ギルドの受付嬢が目を見開いていたほどだ。
「早すぎません!? あ、でもこの提示された証拠は人狼の耳ですねえ……。人狼が黒幕だったんです? えっ? 二級以上の冒険者が戦う魔族ですよ? マズールさんが倒したとか……いやいや、あの人実力は三級レベルだって言うし、えっ!? ジョナサンさんがタイマンで粉砕した!? 四級冒険者が!? 素手で!? ひえーっ」
「全部語ってくれてありがとう。そういうことなので」
『ギルドの冒険者たちからの注目を浴びていますねー。これは気持ちいいですねえ』
「セレスも目立つの好きなの?」
『神ですから。人々から崇められると力が増すのです。おお、ちょっとだけ力が湧いてきましたよ。今なら指だけ顕現できます』
俺の肩口から、セレスの指がにゅっと出てきて俺のほっぺたをつんつんした。
ちょっと日焼けした感じの褐色の指じゃん。
なるほど豊穣の女神は畑仕事とかで日焼けしているらしい。
俺がセレスとやり合っている間に、マズールが勝手に報酬を受け取っている。
こいつ何もしてなかったくせに。
あ、一応山分けしてくれるんだな。
なんか俺を見る目に恐怖みたいな色が浮かんでいるぞ。
「ジョナサンさん大活躍でしたからね……! 私、見とれちゃいました!」
「えーっ、チエリもボクと一緒でびっくりして何もできなかったじゃん!」
「違いますー! 私はジョナサンさんが凄いこと知ってるんですー!」
「ジョナサンの凄さならボクだって分かってるよー! それに、男女の愛に早いもの勝ちとかそういうのは無いと思うな!」
「あ、あ、愛!? なんてこと!」
紛糾しだした。
とりあえず俺は二人の間にすっと入り込む。
喧嘩してばらばらになったら、同時にカバーできなくなるからな。
「喧嘩は良くないぞ! 仲良くしよう。同じパーティじゃないか!」
「言われてみればそうでした! 私もジョナサンさんも、王国の時間凍結を解くために情報を集めているのでした」
ハッとするチエリ。
ナルも毒気を抜かれたようで、
「ごめん。なんかボクもひどいこと言っちゃったよ。仲直りしようチエリ」
「はい。次の依頼も一緒に頑張りましょう!」
仲良きことは美しきかな。
己が入り込む隙間が無いと見たマズール。
舌打ちしてから、去っていった。
きっとまた、ろくでもない仕事を持ってきてくれることだろう。
全て叩き潰してやるからな!
そして多分、三級冒険者になった頃合いで、マズールと戦うことになると読んだ。
原作ではここで負けるとNTRイベント、勝っても復讐からのNTRみたいなのがあるのだが……。
なあに、そこでマズールを再起不能にすればいいだけである!!
いつでもやってやるからな!!
だが、その翌日は何も起こらなかった。
ショッピングに行くというチエリとナルに、俺が付き合わされただけだ。
「見てくださいジョナサンさん! 水着ショップですよ!」
「水着いいよねー! お金も入ったことだし、ボクも水着欲しいなー」
「なにっ!? ファンタジー世界なのに現代風の水着ショップがあるのか!? いや、ゲーム中にもあったが、見下ろし型の2Dドット絵だったし、チエリとナルはイベントの立ち絵が水着になっただけだったから気にしなかったが……!!」
制作者、ファンタジーというものを分かっているのだろうか……?
「ジョナサンさん! これなんかどうですか?」
ああ、チエリはちょっと清楚なワンピースが似合うね。
「ジョナサン! ボクはこれかなって」
Tバックのビキニタイプ!? ナルは己のお尻の破壊力に自覚的であったほうがいいのではないか?
『勇者よ。これは自覚的だからこそ、勇者と実りの時間を得るためにこの水着を選んだのでしょう。女神は分かります。強い実りの気配がします』
「セレスが野生の勘を働かせてやがる……!! いや、だが、無意味に水着ショップで水着を買う展開になるはずがない。これは恐らく……」
その日の夜は、買った水着をどこで使おう?
という話で二人が大いに盛り上がった。
清楚さかセクシーさか、どっちがジョナサンに効果的かを勝負するつもりらしい。
ふう、俺が賢者モードでなければ危なかった。
セレスの思う壺だったぞ。
だが……。
水着を買ってしまったということは、そういうフラグが立ったことを意味していた。
「海水浴場で行方不明者が出てるらしい! こいつの警備の仕事を持ってきたぞ!」
マズールが鼻息も荒く宣言した。
こいつめ、合法的にチエリとナルの水着姿が見られると考えたんだな。
策士め!
それはそうと、海水浴場ってなんだよ!?
覇権主義の帝国が侵略戦争を繰り返し、不死者の王国による地上への攻撃が始まろうとしているダークファンタジーっぽい世界なんだぞ!
なんで呑気に海水浴してる暇があるの!!
内心で大いに突っ込んだ俺だったが……。
マズールに先導されて向かったのは、まさに海水浴場だった。
気持ちいいくらいに晴れた空!
陽光に照らされて白く輝く砂浜!
透き通る真っ青な海!
立ち並ぶパラソルに、海の家!
海の家!?
「ジョナサンさん、何をびっくりしているんですか? ポンドールの観光といえば海水浴ですよ」
「そうそう! 水着がないといけないから、お金持ちの娯楽だと思ってたけど……へへへ、ボクたち、お金を稼いじゃったもんね。今回は遊びじゃなくて、仕事なのが残念だけど……」
二人が疑問を感じていないということは、おかしくはないのか……。
この制作者の趣味みたいなものであろう。
やたら味の濃い和食が出てくる食事と同じだ。
そして、水着姿で並ぶチエリとナルに、海水浴場にいる男たちの視線が注がれたのが分かった。
新たなイベントがスタートしたようだ。
海水浴場警備は結構だが、同時にヒロイン二人の警備も行わねばな……!
俺は買っておいたイエローのブーメランパンツを身につけると、新たな戦いに身を投じるのだった。
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