第28話 村に潜む人狼を狩れ! 三級への道!
さて、楽しい夜の酒場イベントを終え、しばらく夜の営業が取りやめになった。
ここで看板娘が帰ってきたそうである。
彼女、好き好んでバニーになっておじさんたちとキャッキャしてたというツワモノらしいではないか。
恐ろしい恐ろしい。
「あー、未知の体験でした……。あんなにたくさんの男の人達の前で、肌を露出するなんて……」
「うんうん、正直ヤバいって思ったー。だけど、そしたらジョナサンが全部持ってちゃったからねえ。ほんと頼りになる男だよキミ!」
「脇腹をつんつんするんじゃない」
こんな俺たちのやり取りを、マズールがグギギギギ、と歯噛みしながら睨んでいるのだった。
目当ての二人を相手に、全くポイントを稼ぐこともできず、日常NTRイベントも全て不発。
さぞやフラストレーションが溜まっているだろう!
この男、ダイオンと比べるとスケールの小さい間男なのだが、とにかく頻繁にNTRイベントを発生させてくる。
この圧倒的行動力だけは素直に凄いと思う。
さて、そんな四人で今回向かうのは……。
獣による謎の殺傷事件が起こっている近隣の村だ。
帝国による進行が迫り、裏では不死者の王国が蠢いており、さらにさらに影では超越者が様々な争いの糸を引いているこの世界にあってはごくごく小さな事件なのだが……。
「四級冒険者ならば妥当なシナリオだと言えよう」
『相変わらず俯瞰した目で見ていますねえ、勇者よ。そしてここでも、あなたの言うフラグが起こるのですか?』
「叡智なゲームにおいて、イベントとはストーリーを進ませるか、叡智であるかの二択だ。このシナリオがストーリーの本筋には関係ない以上、叡智でないわけがないんだ」
『妙な説得力!』
セレスが呆れ半分、感心半分。
そんなことをしていたら、該当の村に到着した。
片道、馬車で二時間。
近い!
馬車がおよそ時速7kmくらいだから、14kmくらいのところにある村だ。
まだ昼間だと言うのに、村の空気はお通夜状態。
村長夫人が獣によって噛み殺されており、彼女はとても人望があったのだと言う。
さっそく俺たちは事件解決の依頼を受けてきた冒険者である旨を話し、調査を開始した。
シティ・アドベンチャーみたいだなあ。
このゲーム、ちょこちょこ、こういうミニシナリオが入ってて毛色が変わるんだよな。
今回のシナリオは、デザイナーが人狼ゲームみたいなマーダーミステリーにハマってた時期に書いたのだろう。
なお、俺は犯人が誰かも分かっているし、事件の真相も分かっている!
仲間たちが聞き込みを行う様を横目に、俺は真犯人を探した。
今回ばかりは、マズールも真面目に働いているな。
ここはあいつが準備した場所ではないので、上手いことセクハラに持ち込む算段がつかないのだろう。
原作でもここではマズールは突然個性を失い、普通の登場人物になる。
制作者がここにマズールのNTRイベントを挟み込むのは無理だと判断したのだろう。
この村……仮に人狼村と呼ぼう……での間男は、ズバリ人狼!
村人の中に溶け込んでいる人狼が、宿泊中のヒロインたちを襲い、汚してしまうというわけだ!
おっと、あそこでナルに聞き込みされている、大人しそうな男の子が人狼だぞ。
真犯人な。
『勇者よ!』
「うわっ、なんだセレス! いきなり叫んで」
『あんまりと言えばあんまりではありませんか! いきなり犯人が分かってしまっては、この仕事をする意味はないのではありませんか!?』
「それはそうなんだが、俺は今回、仕事を日帰りで終わらせる予定なんで……。夜になるとNTRイベントが発生するからな。ほら、ナルとチエリが男の子に優しくしてるだろ。男の子はちょっと赤くなって俯いてたり、純真な感じの少年っていうふうに見えるだろうが」
『うんうん、微笑ましいものです。ですが実りを与えるには少し若すぎますね。もっと成長してから出直してほしいものです』
「別方向の見方してる! いいかセレス。あの少年は実は不死者の王国から派遣されたスパイで、少年に食い殺された村長婦人は今夜リビングデッドになって蘇るのだ。言うなれば、五将軍の一人が地上侵略作戦をスタートさせたというその皮切りみたいなイベントでだな」
『なんて身も蓋もないのですか、勇者よ』
俺とセレスは今、少年とともに移動する、チエリとナルを追跡している。
物陰に入った途端、叡智になった少年に、チエリとナルがセクハラされてしまうのである。
年端もいかない少年のやることなので、怒るに怒れず……しかし実は、人狼によって烙印を与えられ、二人は今夜の叡智な意味での獲物になる。
そういうイベントだ。
そら、二人の間にいる少年の影が長く伸び、大きな人狼のそれに……。
「ツアーッ!」
そこに遠当て発勁!
「ウグワーッ!?」
吹っ飛ぶ人狼!
戦闘開始だ!!
「えええ!? ジョ、ジョナサンさん!? どうして!?」
「何やってるのジョナサーン!!」
「さあ来い!!」
俺はスサーッと高速で前進し、チエリとナルを守るように立ちふさがった。
眼の前で倒れている少年は、しばらく「痛いよー痛いよー」とか演技をしようとしたのだが、俺が遠当てで追撃してきたので、「うっそだろお前!?」とか言いながら慌てて跳ね起きた。
小さな体が膨れ上がり、一瞬で巨大な人狼に変わる。
「うわー!!」
「ひやー!!」
女子たちが悲鳴をあげた。
自分たちがさっきまで一緒にいた、シャイな少年が恐るべき人狼だったのである!
いやあ、人間、見た目じゃわからないね。
『ええい、あのババアはガキに化けた俺に手を出してきたショタコンだったから、思わず殺してしまったが……! そのせいで俺の正体を見抜くお前を呼び寄せたというわけか!! 何者だお前は!!』
「俺は全ての間男を倒す者だ!! ネトラレブレイカーとでも呼んでもらおう!!」
『たわけたことを! ウオオオオーンッ!!』
飛びかかってくる人狼!
その速度は軽気功に匹敵する!
つまり常時ダッシュと併用した軽気功のほうが速い。
「ハエが止まるぜ」
『なにいっ!? 俺が迫る速度と同じ速さでバック走を!? 何者だ貴様ーっ!』
チエリとナルからは十分に距離を取ったであろう。
俺は相手の攻撃を受けることにした。
『観念したか! 死ねえっ!! うおおおおおーんっ!』
「ツアーッ!! 硬気功!!」
鋼のようになった肉体で、人狼の爪攻撃を跳ね返すのだ!
『な、なにぃーっ!? 人間が! たかが人間がこの俺にぃーっ!!』
「貴様が冷静になる前に仕留めるぞ! オアアーッ!!」
ドロップキック+浸透勁!!
『馬鹿め! 俺の肉体に魔法ではない攻撃が効くことなどウグワーッ!!』
完璧な姿勢で放たれたドロップキックが、俺よりも大きな人狼の肉体を軽々と宙に吹き飛ばす。
人狼の五孔から青い血が吹き出し、受け身も取れずに落下した。
『ば、馬鹿な……! ただの格闘で、このワーウルフの肉体を……破壊するなど……』
「舐められている段階で最大火力の一撃を急所に叩き込んで致命傷を与える……! この世界が原作とは違い、ターン制バトルじゃなくて本当に良かった……。原作より簡単だ……」
『な、何を言って……お前……』
「ツアーッ!!」
『ウグワーッ!!』
とどめのチョップで頭を叩き割ったので、人狼は死!!
浸透勁入りなので、魔法防御で防いだりできないのである。
ただ、人狼は再生能力持ちだからなあ。
叩き割った頭の中の脳みそをそっと拾って、川に流しておこう。
これで復活はできない。
「ジョナサンさーん!」
「ジョナサーン! 何やってるのー! ボクたち全然ついていけないんだけどー!!」
「なんだ……!? 一体何が起こっているって言うんだ……!!」
チエリ、ナル、マズールを前に、俺は笑いかけた。
「事件は解決だ! 良かったな!」
初手で人狼を吊るし、人狼事件は日帰りで解決するのだった。
☆
下流に流れ着いた人狼の脳を拾い上げた者がいる。
白銀の甲冑に身を包み、生身が一切露出していないその人物は……。
『ネトラレブレイカー……? 人間の身でありながら、初見で人狼の変身を見破りそのまま撃破し、しかも人狼の再生能力を知って対策を打つ……。恐るべき手腕だ』
白銀の人物に拾われた脳が、みるまに腐り溶けていく。
そこに宿っていた記憶を、生命力ごと吸い尽くされたのだ。
『私のもとまでたどり着くことができるかな? ネトラレブレイカーとやら。不死なる命を持て余していたが、どうやら面白くなりそうだ。しかし……ネトラレってあのNTRのことなのか……? どうしてネトラレブレイカー……?』
白銀の甲冑は首を傾げながら立ち去っていく。
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