第24話 なにっ、壁尻!?
宿に女子たちを連れ込んだが、幸いにして俺は賢者モードである。
「も、もしかしてボク、ここで……」
「じゃっ! お休み! 他の男が来ても絶対に扉を開けてはいかんぞ……」
「えーっ!! ちょっとちょっとー!」
ナルの声を聞きつつ、隣室に移動である。
隣室というのは大部屋で雑魚寝である。
先客である、商人のおっさんが呆れている。
「兄さん、据え膳を食わなかったのかい!? もったいねえなあ……」
「人間、叡智なことをしているときが一番無防備なんですよ。俺の敵は世界中にいるんでね! うっかり叡智にハマって寝首を掻かれたら、彼女たちのNTRは誰が爆砕するって言うんですか」
「な、なるほど……! どうやら世界そのものを敵に回して戦ってるみたいだなあ……。若さってやつか」
なんか納得されてしまった。
かくして俺は、ボロ布を被ってガーガーと眠り、夢の中でまだうじうじ言っているジョナサンを「元気ですかーっ!」「ウグワーッ!?」と張り手して目覚めた。
いかん。
プロレスの神の影響が出ているな。
本日は新たな依頼を受注する日。
どうやら入るたびに形を変えるダンジョンが目的地らしい。
「異世界に繋がってるらしくてな。潜るたびにお宝も復活する。だが、敵がランダムでな。強いのが出てくることもあって、これに出会うと初心者なんざいちころさ」
あちこちに包帯を巻いたマズールが説明した。
その怪我はどうしたんだ?
まるでけしかけた荒くれ者が返り討ちに遭い、そいつらがふっ飛ばされたら巻き込まれたみたいな怪我をして。
「手分けして進めばどんなダンジョンでもイチコロだぜ!」
「それはそうかも知れないが、卓越した盗賊の技量を持つナルと、全員が常に一緒にいたほうがいいと思う。無論、マズールの単独行動を咎めるものではない……」
「えっ、ボクが卓越した腕……!? ほ、褒められちゃったー」
ニヤニヤするナル。
俺とナルの間の雰囲気を感じ取り、ムムゥッと唸るチエリ。
「いけません! いけませんからね! ジョナサンさんはほら、マリーナ姫様のものですから!」
「お姫様がライバルかあ。そ、それはちょっと手強いなあ」
「私だってライバルですよ!」
「えっ!? チエリがどうして!?」
「そ、それはあ」
甘酸っぱい空気になってきた。
なお、俺は彼女たちがキャッキャしてるのをよそに、マズールに注意を向けていた。
奴め、自分が注目されていないので、めちゃくちゃ怒っているな。
ベテラン冒険者がここまでおざなりに扱われることなんか、まず無いだろう。
「お前ら! 依頼を取ってきた俺に感謝しろよな!!」
激昂して声を張り上げるのだった。
びっくりする女子たちをよそに、マズールが俺を殺しそうな目で睨んでくる。
これは思ったよりも早く、マズールにご退場いただけるかも知れないな。
念の為にスキルポイントを剣に割り振っておこう……。
こうして入ったダンジョンは……。
岩壁に覆われてはいたが、人工物のように天井も足元も平たい。
「みんな、注意して! 足元に罠が仕掛けられてる!」
一見すると平坦な道に見えている通路の、そこここに仕掛けられた罠。
ナルは的確に見抜き、回避していく。
「罠なんかあるのか? 何もないじゃないか。チエリ、行ってみろよ」
とか、罠にわざと掛けようとするマズール。
「よし、俺が行こう。ツアーッ!」
俺は常時ダッシュ+軽気功で、罠の上を移動した。
すると、ついさっきまでいた場所にスライムがドバーッと降ってくる。
こいつっ! 服だけを溶かす催淫スライム!!
叡智ゲーの王道だな。
浸透勁で核をぶちぬいて倒しておいた。
「男が行っても面白くないだろ!! っていうかなんで罠の発動よりも早く移動してスライムを仕留められるんだよ!?」
マズール、それは自分が何もかも仕組んでいると白状しているようなものだぞ。
ちなみにこのダンジョン、ランダムとは言われているが、実は交代制である。
七通りの構造があり、これが毎日入れ替わる。
俺は原作で隅々まで制覇したからな。
詳しいのだ。
最近、どう考えても24時間では把握できないデータを把握してる気がするが気のせいだろう。
きっと俺が叡智ゲームを遊んだ時、時空が歪んで24時間が240日くらいになっていたのだ。
こうして次々に、マズールの仕込んだ罠を回避しつつ……。
不思議とモンスターはあまり出てこないまま、奥まで進んでいった。
そして、眼の前には壁がある。
「行き止まりか……。だがちょっと覚えがあるぞ」
『勇者は過去にこの迷宮に挑んだことがあるのですか? ここは古い時代の魔道士が戯れに作ったもののようですね』
「そうだったのか。やっぱり人為的だったんだな。だからこそ、俺は構造をなんとなく把握できている」
なんとなくなのは、叡智イベントに集中していたので、細部の記憶が曖昧だからだ。
だから、ここで覚えがあるというのは……。
「この穴を抜けるとスイッチがあるんだ。頼むぜナル!」
マズールに言われて、ここまで大活躍だったナルが鼻息を荒くした。
「むふーっ! 任せてよ! いっくぞー!」
ナルが穴に潜り込んでいく。
「あった! スイッチ! そーれ、ポチッと……」
すると、壁の一角がゴゴゴゴゴっと音を立てて動き、通路になった。
「よし、行ってみるか」
「はい! あっ、こっちからナルさんの顔が見えますよ」
ほんとだ。
壁を貫いて、ナルの胸から上がこっちに出ている。
そこにスイッチがあったんだな。
「やほー! じゃ、ボクも体を抜いて……抜いて……ん!? んんんんんん!?」
どうしたどうした。
ま、まさか穴から抜けないのか!?
そう言えば……。
ナルは盗賊だが、チエリと比べるとお尻から太もものラインがむっちりしている。
引っかかったんだな。
ここで俺、完全に記憶が蘇る。
「しまった!!」
その眼の前で、マズールが残った部屋との通路が塞がる。
「ぐへへへへへへ!!」
マズールの笑い声が響き渡った!
「壁尻だーっ!!」
『勇者よ! 壁尻とはなんですか?』
「手短に説明しよう。壁尻は、小さい穴に潜り込んだら女子のお尻がひっかかり、にっちもさっちもいかなくなって動けないところを、前とか後ろからいたずらされる大変叡智な王道イベントなのだ。だが、壁尻ならば対抗策がある! 待ってろナル!」
「ひゃーっ! ぼ、ボクのお尻を触ってる人がいるよー!!」
「そこまでだマズール! ナル、頭を下げろ!」
「う、うんっ!!」
ナルが頭を下げたところで、俺は壁に向かって崩拳を叩き込んだ。
「ツアーッ!! 浸透!!」
壁の向こうに、衝撃を通す!
そこで、「ウグワーッ!?」と悲鳴が聞こえた。
一瞬遅れて、ナルの頭上の壁が砕け、吹っ飛んだ。
奥の部屋で、マズールが鼻血を出してぶっ倒れている。
「うひー! 死ぬかと思ったー!!」
ナルは立ち上がり、お尻をさするのだった。
「ボク、盗賊やるならちょっと痩せないといけないかも……」
「むしろお肉を分けてください!!」
チエリは何を怒っているんだ。
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