第213話 前夜祭の準備か
ようやく、社用車を修理する目処がついた。
何せ、雑貨屋にしか電話がないのだ。
そして村の人間は全員、雑貨屋の電話を使う。
正確には村長の家にも電話があるらしいし、なんとファクシミリまであるそうだ。
だが……そこを利用させてもらうというのはなんとも難しそうだ。
俺は歓迎されてなさそうだしなあ。
修理の業者を迎えるために、村を出る。
すれ違ったのは、公民館で顔を合わせた村の男だった。
俺の顔を見るとギョッとして、慌てて距離を取って会釈してくる。
俺も慌てて会釈した。
なんだ、挨拶する関係になれるんじゃないか……。
「先輩は何も知らないほうがいいのかも知れない……」
「おい祐天寺、何を知ってる!? またあいつが俺の体を使って何かやったんだな!?」
結局何も答えてはくれなかった。
さて、立ち木に突っ込んだままエンストしている社用車を前に、業者の到着を待つ。
すると、山の上からレッカー車が来た。
「えっ、山の上から!?」
「ええ、そうですよ。ここの道、ぐるーっと裏側から回るように道路があるんで」
「な、なんだってー!!」
つまり俺はろくに道を調べず、わざわざ舗装されてない山道を走って事故ったというのか!!
修理業者は社用車をレッカーに掛けつつ……。
「でも不思議なんですよね。ちょっと前まで、そこの道は絶対通るなって言われてたんですよ。だけどなんか昨日辺りから通ってもいいことになって」
「なんだそりゃ……? あ、まあ車お願いします」
「ええ、工場に運んでバッチリ直しますんで! 領収証は?」
「会社に出しといて下さい」
名刺を手渡す。
編集部としては大出費だろうが、オカルト取材に出かけた記者が本当に行方不明になり、大騒ぎになったりもしているところだ。
車の一台くらい問題ないだろう。
さらば社用車よ。
村にいる間、ずっと喉に引っかかった小骨のように気になっていたんだ。
これでスッキリした。
あとは編集部に戻ったときにでも謝りゃいい。
最高の記事を書いたら、修理代くらいチャラだろう。
「よし、行くぞ祐天寺! 取材だ! 明日は前夜祭だろ?」
「そうですねえ。思えばあっという間だったような……。何ていうか、すごくギリギリなところを全部ギリギリとか理不尽でくぐり抜けて、ありえないくらい無事に過ごしてる……みたいな気がするんですよねえ」
「何言ってるんだお前?」
幻聴に染まりすぎたんじゃないか?
俺が首を傾げていると、レッカー車が走り去ったと思っていた山の上から、次々に軽トラがやって来る。
なんだなんだ!?
「あ、前夜祭のテキ屋の人たちだと思いますよ」
「そうか、テキ屋の屋台が入るんだったな!」
軽トラの先頭を、黒塗りの車が走っている。
なんだ、この場違いなのは。
車は俺の前を通過するかと思いきや、目の前で止まった。
窓が開き、明らかにカタギではなさそうなサングラスの男が顔を出した。
「よう、記者の兄さん。いよいよだなあ。邪魔をしてくれるなよ?」
「あ、ああ」
俺を知っている……!?
初対面ではないのか?
俺が戸惑っているので、男も妙な顔をした。
「なんだか、この間とは別人みたいだな? あの時に感じたヤバさがねえ……。体も一回り小さいような……」
じろじろと俺の顔を見たあと、男は鼻を鳴らした。
「ふん、まあいいや。祭りを大いに盛り上げるからよ、お二人さんも屋台で色々買ってってくれや」
にやっと笑って、男は窓を閉じた。
車が走り去っていく。
それは村の入口から入って、ミクダリ神社へと向かっていく。
これから、前夜祭の準備を行うのだろう。
「客はどうするんだ? 村の頭数じゃたかが知れてるだろ」
「近くの村からたくさん来るらしいですよ! 案外本格的なお祭りになるかも知れないですねえ」
「なーるほど……。排他的なばかりの村じゃなかったか」
村の入口に差し掛かる。
思えば、一週間ほど前にここで、くねくねと揺れる化け物と出会ったんだった。
あれが始まりだったな。
いや、謎の双子に誘われたのだったか?
あの双子の神秘性も薄れてしまったからな……。
そもそも、くねくねとした奴はどこに行ったんだ?
あれは幻か何かだったんだろうか。
「怪異だ」
突然声を掛けられた。
思わずビクッとする。
そこには、見覚えのない男が立っていた。
体がでかい。
いや、背が高いというのではなく、肉体が分厚い。
プロレスラーか……!?
顔ははっきりと判別できない。
だが、奴の声には覚えがあった。
「お前……あの幻聴か」
「そうだ、中条譲二。俺は村のごく一部でのみ実体化できる。できない時は、お前の体を借りているがな。この間は大層お楽しみで絞り尽くされたようだったな。目覚めないお前の体を使い、情報収集させてもらった」
「うっ、お前……その話を祐天寺の前でするな……!」
「叡智ゲー主人公らしく、肝心な時の自制心が効かない男だ。ちなみに夏乃の好感度は俺が上げておいたから、実は原因が俺であるとも言えるぞ」
「お前かーっ!!」
「先輩とネトラレブレイカーさんが分離して二人に……! ドッペルゲンガー現象!! つまり先輩は死ぬ!!」
祐天寺が興奮しながら、俺と幻聴野郎を写真で撮影するのだった。
やめろやめろ!
どうみたって俺とこいつじゃ違うだろうが!
「話は戻るぞ中条。あのくねくねしたものは怪異だ。あそこでお前が正気を失ったことで、俺との繋がりができた。だからちょっとしたことで、お前は俺に入れ替わる」
「なんだって……!? そういう仕組になってたのか……」
「祭りに突っ込んでくれて構わんぞ。だが、やり過ぎるなよ。俺が取り付いていないお前はただの人間。死ぬ時はあっさりと死ぬ。お前が死んだらすべてやり直しになってしまうんだからな」
意味深な事を言いつつ、幻聴の男は村の中へと入っていった。
その姿がスーッと消える。
「勝手なことを言いやがって……。いいだろう。取材してやる! 前夜祭から本祭まで、密着で行くぞ……!!」
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