第211話 祭りの会議に参加する
幻聴が聞こえない隙に……。
午前中から祭りの会議が行われるということで、美春さんに連れて行ってもらうことにしたのだ。
「私も行きます!」
「えっ、夏乃ちゃんも!?」
「先輩、私も行きますよ。秋奈ちゃんも一緒です」
「全員一緒じゃないか!」
「うふふ、じゃあみんなで行こうね。どういう訳か、お祭りを担当した人が減っているらしくって。人はたくさん欲しいらしいから問題ないと思うわ」
「ああ、そうですか……」
美春さんに連れられて到着したのは、村の公民館。
開け放たれた扉から入ると、煙草のにおいがした。
煙草かあ……。
俺はあまり吸わないタイプだが、編集部の連中と付き合いで一服することはある。
だが、収入がさほど多くない記者にとって、タバコ代はバカにならないんだよな。
一箱で安い蕎麦が食えるじゃないか。
「それなりにヘビースモーカーが多い感じですか?」
「吸いますけど、雑貨屋に仕入れられるタバコの量も限りがありますから。みんなちびちびと大事に吸ってるみたいです」
「そうなのか……。秘境の村は世知辛いんだなあ……」
公民館に入る途中、秋奈ちゃんが「あれっ?」と振り返った。
「今、白い髪の女の人があっちの屋根の上にいたような……」
なんだそりゃ……?
公民館の中央には、いくつもの折りたたみ式座卓が置かれている。
畳敷きだな。
そして座布団が大量にあって、その半分ほどが埋まっていた。
煙草の煙の中、車座になっていた男たちがじろりとこちらを見る。
「美春ちゃんに、夏乃ちゃんと秋奈ちゃん、それと……この村に来たという女の子か」
太ったハゲ頭の男が、女子陣を見回し、最後に俺に目を留めた。
「余計なのが一人いるなあ……。他所の男が入り込める祭りじゃないんだが……。おい、こいつをつまみ出せ」
「村長、そうは言ってもですね」「そうそう。雑貨屋と木こりのが外の病院に入院したでしょ。それに糸巻が行方不明なんで」「糸巻のところの神様も消えちまってて」「男手は一人でも欲しいところなんだよ」
「ぬぐぐぐぐ……。どうしてこんなことに……」
何やら葛藤しているな……。
「譲二さんが来てから、男の人が立て続けにお祭りに参加できなくなって……。村の人はそこまで数がいませんから、みんな困っているんです」
「うむ……」
太ったハゲ頭の村長が頷いた。
なんという苦々しい顔をしているのだ。
「俺は邪魔しませんから、隅で聞かせてもらえれば……」
「ふん、まあいい。なんなら、少し祭りを手伝ってもらいたいくらいだ。記者さんなんだろう?」
「ええ、そうです」
「記事に書いていいから、準備をちょっと手伝ってくれ。それくらいなら、ミクダリ様もお許しくださるだろう……」
こうして祭りの準備は和やかに進んでいった。
思っていたよりも健全だな……。
お茶とお茶菓子が出て、俺もいただくことが出来た。
どういうわけか、祐天寺がチヤホヤされている。
村長も男たちも嬉しそうで、
「神子様が増えるのは嬉しい誤算だったなあ……」「都会からこんなかわいい子が」「いやあ、ありがたいありがたい」
「ええーっ。私、こんなにモテたの短大の合コン以来です」
「合コンでモテてたのか……」
確かに祐天寺、顔立ちは悪くないしな。
美人と呼べる側だし、体つきだって男好きのする方だ。
これが洒落にならない状況の仕事じゃなければ、俺だって酒を飲ませて口説くくらいはしたいからなあ……。
会議の途中途中で、女の子たちが身じろぎしたり、もじもじしたりしている。
だが、概ね怪しいこともなく会議は終わったようだ。
「ウグワーッ!?」
「あっ、済みません! お尻のポケットに守り神様に言われて入れてたカミソリが……」
祐天寺は何をやってるんだ……!?
とにかく、何事も無かった。
隅で聞いている分には、祭りもおかしなところはないようだ。
テキ屋の親分が明日挨拶に来るとかで、出店の場所はその日に続けるらしい。
さらに、初日の祭りは御降村の十人ばかりではなく、近隣の村からも訪れる者たちがいるらしい。
「場合によっては、近場の村の男衆に協力を頼んだほうがいいかも知れん」「そうだな……。うちの息子もその時には村に帰って来るから」「全くなあ。家業を継がずにみんな東京に出ていっちまう」
世知辛い話になってきたなあ。
俺達はここで失礼することにした。
「あっ、屋根の上の人がいなくなってる」
「やっぱり誰かいたの? 秋奈の見間違いじゃないの?」
「いたってば! ねえ譲二さん!」
「譲二さん、秋奈はまだ子供だから相手にしなくていいんですよ」
「お姉ちゃんあたしと二つしか違わないじゃん!」
姉妹のやり取りが微笑ましい。
つい笑顔になってしまった。
「あらあら。夏乃も秋奈もすっかり譲二さんに懐いて……」
「先輩、何気に宿の女の人全員から名前で呼ばれてません?」
「そ、そうかな……」
俺はそっぽを向いた。
そこで、見てしまう。
白い髪に濃い褐色の肌をした、明らかに外国人の女が物陰にいる。
そして誰かと会話していた。
「ええ、男たちは女性たちのお尻や胸を触っていたようですわ。明らかにセクハラですわね。あの男はそれに気付かずにいましたの。あなたの言うラレ男というやつですわね。ええ、ええ。やはりあなたがいないと彼はダメですわね」
日本語上手いな……。
それに、凄い美人だ。
ちょっと見惚れていたら、彼女もこちらを向いた。
褐色の肌の中、そこだけ色素が薄い唇に人差し指を立てて、彼女はシーッというジェスチャーをした。
「えっ」
思わず瞬きをしたら、次の瞬間には消えている。
そして……。
『かーっ、やっぱり俺がいないとお前はダメダメだな!』
幻聴が戻ってきた!
こ、こいつーっ!
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