第208話 三日目の夜
小瀬家の三人は無事だった。
みんな記憶がないようだ。
これは降臨者め、焦りを見せてきたな。
ゲームで言えば、主人公の拠点という一番安全な場所に使徒を送り込むことで、油断したところを狙う算段だったのだろう。
だが、俺はこういうケースも想定していたのだ!
そしてこのケースを完膚なきまでに粉砕してしまえば、向こうが二の足を踏んで拠点に手出ししてこないであろうことも分かる。
「見たところ、降臨者はかなり慎重なようだ。そして臆病でもある。俺達が入り込めないよう、多重に世界の守りを固めていたこと。世界の守りの要を、多くの使徒に分散していること。そして異常事態が発生すれば、その解決に全力を注ぐこと」
対策が失敗したら、これの分析に力を使うであろう。
そのため、また降臨者からの攻撃が来るのは先と見ていい。
「ネトラレブレイカーさんが難しいことを言ってるけど……。なんかメモが進んでいく……。ま、祭りのウラガワにいるミクダリ様が、こっちを認識していて取材の妨害をしてくるって……」
「そういうことだ。中条が意識を取り戻したら、この件についてまた話し合っておいてくれ。出かける際は俺がいない限り、あまり遠出をするな。お前らがやられるとループがやり直しになる。ループを繰り返すうちに、恐らく降臨者が完成してしまうぞ」
「な、なんだか分からないけど、つまり第二人格の声が聞こえない時は動くなってことね。分かった」
物わかりがいい!
なるほど、物語序盤でこのサブヒロインが排除されるわけだ。
祐天寺遥が物語を進めるポジションにいると、話の進みが変わってしまうのだ。
「う……ううん……。あら、譲二さんに遥さん……?」
美春が起きたな。
続いて、二人の姉妹も起きてくる。
「本来ならばこの日取りでは、この三人のうちの誰かのルートなのかでいない人物が決まる……。三人ともいるということは、全てのルートから外れてしまっているということだ。降臨者め、焦ったな……?」
おっと、ここで中条の意識が戻りそうだ。
俺はすっと奴の中から抜けた。
一瞬だけよろけた中条の体が体勢を立て直す。
完全に入れ替わったな。
■
俺は周囲を見回して、状況を即座に把握した。
また、守り神のやつがやったらしい。
解決してくれるのはいいのだが、お前がこの体で動いてるから、写真の一枚も撮れてないじゃないか。
ため息をつきそうになるが、眼の前では美春さんも、夏乃ちゃんと秋奈ちゃんも元気そうだ。
彼女たちを守ってくれたという意味では、感謝してもいいかも知れない。
しかし、民宿の中にまで怪異は侵食してくるのか……。
安心できる場所がないな。
「先輩、また新しいメモが……」
「ああ、助かる。なになに……? ミクダリ様は当分ここに手出ししてこない、だぁ!? い、いや、それは助かるが……」
何から何まで、守り神の手のひらの中で泳がされている気分だ。
「ごめんなさいね。なんだか私達、夕方からの記憶がなくて……これから食事をご用意しますから、少し遅くなってしまいます」
「ああ、いえ、いいんですいいんです! 我々はその間、今日の取材の内容をまとめていますから」
恐縮している美春さんにそう告げて、俺達は部屋の中に引っ込む。
さて、本日の内容のまとめだ。
「とは言っても、守り神に色々手出しをされてめちゃくちゃだったな……。日々、状況が混迷度合いを増して行っているように思える……」
「ネトラレブレイカーさんですよね?」
「そうそう、そんな横文字の名前だった。プロレスラーかよ……」
『技の系統は近い』
「答えるなよ!? まあいい。神社は夜は入ることが出来ないが、昼は入れると。そしてそこにいる巫女はこちらに協力的ということだったな。あの双子は不気味だが……守り神がいれば、おかしな動きはしてこなくなるようだ」
「そうですねえ。あと、雑貨屋とか。メガネの女の子が店番してましたけど、彼女も味方みたいですね」
「ああ。どこから現れたんだか分からないが、明らかに都会の人間の雰囲気を持っていた。多摩地区の高校生より垢抜けてないか?」
「あー、確かに!」
『未来の世界の陰キャは過去の世界の陽キャよりイケてるのか……。新発見だな。メガネ先輩は嫌がるだろうが』
記事にするため、メモのまとめ作業を続けていく。
祭りは七日後。
その準備は着々と進められてはいるようだ。
神社の中央にあったあの舞台が、祭りの中心となるのだろう。
そして俺の頭の中に一瞬浮かんだ、経験したはずのない記憶。
俺はもしかして、この村に何か関係があるのか……?
『おい口に出して話せ。頭の中で考えてるだけだと祐天寺に伝わらないだろうが』
俺の脳内に直接……!?
『まだそのミームは生まれてない時代だな……。いいか、悩むのはいいが、それが行動の足かせになるようなら考えるのをやめろ。ひたすら取材だ。足を使うんだ。それが事態を進展させていくぞ。今回は俺と仲間たちがいるから、話の進みが猛烈に早いからな』
「何をやろうとしてるんだお前……!!」
不安を覚える……!!
だが、それを追求する暇はなかった。
ちょうどそこで、夕食に呼ばれたからである。
「うひょー、私、美春さんの作るご飯大好きなんですよねえー! 楽しみー! 飲むぞー!」
「昨夜飲まなかったからな……。今夜は出歩く予定もないし、飲むか」
こうして、三日目の夜は過ぎていくのだった。
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