第203話 かくして夜は明け
ミクダリ神社。
ミクダリ様を祀る、巨大な岩石の麓にある神社だ。
この岩石を見たものは誰もが、それを空から降ってきた隕石だと認識している。
そして神社の御本尊はこの隕石だ。
こんな巨大な御本尊があるか……!?
『ふむ、やはりここはまだ侵入できないようだな。フラグが立っていない。まだ序盤だからか? それとも……』
「序盤とか中盤とかあるんですか?」
『あるのだぞ祐天寺遥。昼間の神社が解放されるのが中盤だ。この夜が開ければ、序盤が終わるだろう。俺とセレスが素早くフラグを立てながら、情報を集めて回っているからな。ま、ゲーム通りならの話だが』
『勇者が全ての流れを熟知しているので、最小限の動きで物語が進むフラグは立てているんですよ』
「なんだか分からないですけど、凄いんですねえ。先輩の二重人格って」
「おいおいおい、俺の二重人格ってなんだ!? この、なんか守り神みたいな連中のことか!?」
「守り神? この人は先輩の二重人格のネトラレブレイカーだって言ってましたけど」
「横文字の名前を名乗る趣味はねえよ!?」
『ケースバイケースというやつだ。気にするな。では触ってみるがいい』
「触る……神社の入口に? 色褪せた鳥居があるだけだが……。……!? 入れない……!!」
『だろう? 不思議な力で弾かれてしまうんだ。これがフラグというやつだ。オカルト的な言い方をすると結界が張られていて、結界を構成する陣地を崩していかないと神社には入り込めないというわけだ』
「なるほどな……。理由のわからない存在だというのに、言っていることは理に適っているように聞こえる……」
『中条が大人しく肉体を明け渡せば話が早くなるぞ』
「やらんやらん!!」
割と大きな声でやり取りしていたが、誰も近づいてくる気配がない。
それどころか、不気味な雰囲気を感じないのだ。
まるで目に見えない何者かは、俺に話しかける妙な存在を恐れているかのようだ。
「神社にはまだ入れない……と。朝になったら何か変わるんでしょうかね?」
「さあな……。俺にはもう、何が何なのかさっぱり分からん」
とりあえず今は宿に戻り、朝まで寝てから情報を整理するべきだろう。
俺も祐天寺も、特にこれと言って何もしていない気がするのだが、状況がどんどん動いていっている気がする。
もうわけが分からん。
俺と祐天寺は帰宅し、気疲れからかすぐに寝てしまったのだった。
■
「というわけで、中条が寝ている間にこの体を使うぞ。セレスもいけるか?」
「もちろん。非実体で暴れたので、ちょっと暴れ足りないところもあります」
「非実体の身でセレスのパンクラチオンに挑むとは、山の怪は身の程知らずだったな……」
部屋で喋っていると、俺達の眼の前の空間がぱかっと開いた。
そこから超越者がニュッと顔を出す。
『よくやった。世界法則を構成する強大な使徒を二体倒したな。……随分あっさり倒したな』
「奴らめ、異能にかまけて肉体を鍛えていなかったんだ」
「素人相手みたいなものなのでサクッとやりましたよ」
『己の土俵に引きずり込んだら瞬殺するとは、さらに強くなっているな貴様ら。まあいい。俺様の介入がある程度可能になった。明日の朝、弟子を送り込む。雑貨屋があっただろう。あそこにいる使徒はネトラレブレイカー、お前を恐れて寝返っている状態だ。あれを拠点とし、弟子たちを住まわせる。活用し、さらにこの村の中で領域を広げていくようにな』
「いいだろう。あ、地図があるの? 分かりやすい」
『貴様らが使徒を倒す度に、この領域が広がる。今はこの三箇所……村の入口と、民宿前の通りと、雑貨屋だ。この三点が俺様、超越者の領域となる。この場所ならば、お前達二人は実体を得ることができるぞ』
「ほうほう、つまり超越者の領域を増やすほど俺とセレスが有利になると」
『そうだ。弟子はそのための情報収集や、使徒どもの妨害に使うがいい』
「よし分かった」
その弟子とやらが何者かは分からないが、頼りにさせてもらうとしよう。
こうして翌日になった。
■
明らかに、村に漂う空気が変わっている。
昨夜、祐天寺が謎の化け物に取り憑かれた……と思ったら守り神を名乗る何者かが化け物をぎたぎたに叩き潰し、俺達に接触してきた。
ネトラレブレイカー?
なんだそれは?
だが、そんな訳のわからないものだとしても、本物の妖怪やオカルトが跋扈するらしきこの村においては頼れる存在だ。
「ネトラレブレイカー、いるのか?」
……返事がない。
寝ているのだろうか?
夜にしか出てこない存在なのか?
そう言えば、幻聴は主に夜に聞こえていた気がする。
祐天寺の方も、何も聞こえないようだ。
「まあいい。朝食が終わったら、昨日集めたメモをまとめて行くぞ。午前中はこのまとめをやって、午後は雑貨屋に電話を借りに行こう。どうせ編集部の連中は徹夜で仕事をして酒を飲んで、昼になるまで起きてこないだろうからな」
「聞きしに勝る修羅場なんですねえ。いや、修羅場っていうか、生活が壊れてるっていうか」
「出版関係なんかそんなもんだ。だけど、付き合う必要はないからな。大体十年もやってりゃ、みんな体ガタガタになるんだから」
「楽しい仕事なんだから、健康的にやってほしいですよねえ……」
さて、メモを並べて……。
祭りの内容は、生贄を用いる原始的なもののようだな。
神子とされた女性を、殺してしまうのか?
それとも……。
参加できるのは成人した男だけ。
それだけでも、祭りの中でいかがわしいことが行われているのではないかと疑ってしまう。
女は、神社が指定した者だけが参加を許され、それが即ち神子だ。
この位置には、外から来た女が収まることもあるらしい。
その場合、祭りの時期に偶然その女はやって来る。
そして祭りの後、女は消える。
これがミクダリ祭だ。
地域の奇祭と呼ぶには、あまりにも不気味な祭り。
「たった一日でこれだけの情報が集まったか。雑貨屋からこれをファクシミリで送れたらいいが……ないだろうなあ……。とにかく、電話で連絡だ。行くぞ!」
「はい先輩!」
編集部に連絡し、向こうでもメモを取ってもらう。
万一俺達が行方不明になっても、この取材が無駄にならないようにするためだ。
もちろん、俺は守り神とやらの力を使い倒してでも、祐天寺とともに生きて帰るつもりなのだが……!
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