第199話 君子は豹変しレスラーになる!
小瀬家の厄介になることになった俺と祐天寺。
一般家庭のものと変わらぬ風呂に入らせてもらい、土地で採れた野菜たっぷりの夕食をご馳走になった。
きちんとビールも出るのだ。
『新しい世界に行く度に、食事とかはちゃんと時代考証できてるようになっていくな。やっぱり超越者の世界がおかしかったんだよあれ』
『私も勇者のところに来てから、それを知りました。ファンタジー世界とやらは、もっと侘しい食事なのですねえ』
幻聴を聞き流すのにも慣れてきた。
こいつらが恐らく、この村に存在するミクダリ様とやらの使いなんだろう。
俺と祐天寺を見定めているのか……?
まずは、この村で何が行われていて、祀られているモノがどういう存在なのか、そして消えたとされる女性、栃子はどこに行ったのかを調べねばならない。
儀式の正体を明かし、そのためには祭りが行われる神社に潜入しても……。
「お口に合いませんでしたか?」
「あ、とても美味しいです。滋味深い味わいですね」
いかんいかん、考え事をして顰め面になっていたようだ。
祐天寺はビールが入ってすっかり陽気になり、夏乃ちゃんや秋奈ちゃんと笑い話をしている。
年頃の女と言うやつは、箸が転がってもおかしいらしいからな。
ビールを飲み干す。
空になったコップに、美春さんがまた注いできた。
「あの、私もご相伴に与ってもいいですか?」
「ああ、それはもちろん。この家の主はあなたなんですし」
「うふふ、それじゃあいただいちゃおうかしら」
美春さんはそう言うと、手酌でビールを注ごうとした。
「おっと、ここは俺が……」
「ありがとうございます」
『ここで酒を注ぐ選択肢を取るとな、今夜中条と美春が叡智するフラグになっているんだ』
『実るのは大変いいことですねえ!』
うるさいぞ幻聴!
結局、俺も美春さんも大いに飲み、祐天寺は潰れ、そのまま部屋で寝ることになり……。
「……中条さん、中条さん……」
「はっ……美春さん、こんな夜に……あっ、そんな格好で……」
「少し飲みすぎてしまったみたいで……。体の火照りを収めるのを手伝ってくださいませんか……?」
「それは、その……。まあその姿では風邪を引いてしまいますから」
俺は彼女を部屋に招き入れ。
そして……。
『な?』
『勇者のフラグ管理とやらは完璧ですね。うーん、実っています。これは命中する可能性がありますね! エキサイティング!』
『だが今回は隣で祐天寺遥が寝ているので、最後までやるはずは──やりやがった!! ふむ、これくらいじゃフラグは折れないわけだな。ここからどう状況が変わるが、要観察だ。後は手がかりなんかを俺が囁いて、こいつの行動をコントロールせねばな』
朝になった。
とんでもないことをしてしまった。
酔った勢いとは言え、昨夜会ったばかりの女性を抱いてしまったのだ。
目覚めた祐天寺が鼻をくんくんさせている。
「なんか……変なにおいがするんですけど」
「き、気のせいだろ。そら、顔を洗いに行くぞ。朝飯を食ったら取材だ!」
美春さんと顔を合わせられない朝。
夏乃ちゃんと秋奈ちゃんが、何かを察したのかくすくすと笑った。
なんだ。
なんなんだ……。
朝食をかきこみ、祐天寺を急かし、それではと取材に出る矢先。
『時間がやや早すぎるな。ツアーッ!』
「ウグワーッ!? なんだ!? 突然何も無いところから衝撃が……」
『あと30分待て』
「やけに具体的な幻聴が……!! ええい、そんなものに耳を貸すわけがないだろう!」
『ツアーッ!!』
「ウグワーッ!?」
『実体がないとは言え、俺の勁力が籠もったチョップを食らったのだ、30分は足腰が立つまい』
『いきなり強硬手段に出ましたね。ですが30分すると何があるんですか?』
『まあ見てろ。来たぞ』
幻聴が告げたきっかり30分後。
のっそりと姿を見せる村人が二人。
一人は老人だが体が大きく、手にはナタを持っている。
もう一人は中年で、棍棒を握りしめていた。
なんだこいつらは……!?
『NTRフラグだぞ。あのまま出ていったら、小瀬家へ向かうこの男たちとすれ違っていたところだ』
「邪魔するぜえ」
「あら、お二人揃って……。その……今は困るのですけれど……」
「ああ、余所者が入ってきたんだろう? 構いやしねえよ」「そうそう。祭りは近いんだ。俺達だって盛り上がっていかなくちゃなあ。いつまでも死んだ旦那に操を立ててもしょうがないぜえ奥さん……」「夏乃ちゃんもな。秋奈ちゃんだって、そろそろ男を知っていい頃だ」
なんて事を言いやがる!
俺は激昂して立ち上がった。
「おいお前ら! やめろ! みんなに手を出すな!」
「なんだぁ……お前……」「余所者が口出しするんじゃねえよ!」
棍棒を握った中年が、躊躇無くそれを振り回してきた。
正気か!?
「先輩!!」
「祐天寺、逃げろ! こいつら、正気じゃない!」
「なんだあ、女連れか! へへっ! だったら話が違うぜ! おい、男をのしちまえ! 女は連れて行くぞ! なあ奥さん! 祭りの前にちょっとだけ楽しもうって言うんですよ! へへっ!」「おらっ! 死ね! 男は死ねっ!! おらーっ!!」
「ウグワーッ!」
棍棒の腹で頭を叩かれ、俺の意識が遠ざかる……!
美春さん……!
祐天寺……!!
消えゆく意識の中、俺は「ツアーッ!」という叫びを耳にしていた。
■
「ツアーッ!!」
「ウグワーッ!? こ、棍棒が砕け散ったーっ!? 頭突きでだと!?」
「フウーッ。早めに出るとNTRイベントがあり、窓から覗くことで行為が発覚。残ると襲撃イベントになり強制気絶からのNTRだ! 全く地獄のようなゲームだな!」
「てめえ、何をわけが分からねえ事を……。えっ……!? なんで体が一回りでかく……」
「ただの人間相手だ。手加減してやろう! ツアーッ!!」
「オゴゴーッ!?」
俺の高速地獄突きが中年男に突き刺さる!
喉を抑えて、虹色のものを吐きながらのたうち回る中年!!
この程度の不意打ちをいなせないとは、なんたる軟弱さであろうか!!
「中条さん……!!」
「先輩!」
「大丈夫だ、問題ない」
「なっ、なぁにが問題ないだ、この余所者ーっ!!」
でかい老人が振り回すナタ!
これを俺は、チョップで受け止める!
バキィンッ!!
砕け散るナタ!!
「なっ、なにぃーっ!!」
「鍛え抜かれた肉体に、ナタが通用するわけあるかーっ!! 隙あり! ツアーッ!!」
俺は老人を抱えあげ、地面にボディスラム!!
「ウグワーッ!!」
「受け身を取れ! 死ぬ気かーっ!!」
「ウグワーッ!!」
とりあえず二人とも一瞬で戦闘不能になった。
まだ中条の意識は戻らないようだな。
「よし、では取材に行くぞ祐天寺」
俺はパンプアップした体に合わせて、ワイシャツのボタンを外しながらサブヒロインを促した。
「あ、は、はい!! 先輩って強かったんだなあ……!!」
『勇者よ、どさくさまぎれに主人公に成り代わってストーリーを進める気ですね……!!』
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