第198話 美人母娘の民宿
『ということでこちらの世界に降り立ったのだが、本当に非実体モードなので立ち回りを工夫する必要があるというわけだ』
『勇者よ、何をそっぽを向いて語っているのですか。第三の壁が見えてるのですか?』
「……?」
「どうかされましたか?」
首を傾げる美春さん。
「ああ、いや、実は村に入る前から人の声が聞こえる気がして……」
気のせいか。
あるいは、この村が祀っている神様とやらなのかも知れないな。
「不気味ですよねえ。男の人と女の人の声が聞こえるんですよ」
さっきまで様子がおかしかったが、祐天寺も本調子に戻ったようだ。
二人で首を傾げながら、民宿に入った。
「いらっしゃいませ」
美春さんがそう告げると、奥から足音が聞こえてくる。
現れたのは、年若い二人の女性……いや、少女と言っていい年齢だろう。
「お客様ですね。いらっしゃいませ!」
「いらっしゃーい!」
髪の長い、綺麗な女の子と、短髪の快活そうな少女だ。
二人とも美春さんによく似ているから、娘さんなんだろう。
こんなに大きな娘がいるのに、この人、若作りすぎでは……。
「こちらが夏乃。そして……」
「秋奈でーす! 外の男の人が来るの、久しぶりじゃない? この間の人はお祭りに参加してから、慌てて帰っちゃったけど」
ボーイッシュな娘は秋奈ちゃんと言うらしい。
なるほど、元気だ。
だが、気になったのは彼女の言葉の内容だ。
「この間来た男の人というのは……大学生くらいの?」
「はい、そうです! お客さん知り合いなんですかあ?」
「これ、秋奈! お客様申し訳ございません、失礼をしてしまって。お料理を用意致しますから、部屋でゆっくりなさってて下さい」
「案内しますね。こちらです」
夏乃ちゃんに案内されて、俺と祐天寺は部屋に通された。
……同じ部屋……!?
どうやらこの民宿、泊まれる部屋は一つしか無いようだ。
もう一つある部屋は工事中。
この村に宿泊できる施設はここだけだし……他に選択肢はないか。
「泊まれない部屋はね、前に泊まってた男の人が壊しちゃって」
「なんと! それで秋奈さん。その男の人っていうのは、大学生くらいの……?」
「そうそう! 若い人だった! 村の男の人なんか、おじさんかおじいちゃんばっかりなのにね」
「村には仕事が無いので、農業や林業が嫌な男の人は出ていってしまうんです」
「なるほど……」
「先輩、これは一気に取材が進展しましたね」
俺と同じ部屋だというのに全く気にせず、目を輝かせてメモを取る祐天寺。
将来有望かも知れない……。
「栃子ねえと一緒に来たよね。付き合ってたのかなー」
「かも知れない。栃子さんはお役目があったからそれを果たしたけど……」
編集部に送られてきた手紙の内容だ。
詳しい事情が分かってきたぞ。
栃子というこの村で生まれた女性が、外部の大学へ進学した。
そこで恋人を作り、一緒に里帰りをしてきて……。
村の祭りとやらに参加して、男の方は一人だけ帰っていったのだ。
一体何があったのか。
「先輩、その栃子さんという人にも取材したほうがいいですね」
「ああ。そうなるな。済まないが、栃子さんはどちらに住んでいるか分かるかな? それとも、大学に帰ってしまったとか」
「ああ、それなら」
夏乃ちゃんが当然という顔をして言った。
「お役目を果たしたので、もういません」
「いない? この村にはもういないということ?」
「はい。もうどこにもいません」
「お役目をしたからねー」
秋奈ちゃんも何も疑問を持っていないような口ぶりだ。
どういうことだ……?
もう、どこにもいないだと……?
『つまり生贄にされてしまったという意味だな。祐天寺遥、そういう意味だからちゃんとメモしておくようにな。セレス、これが遥メモで、本来なら彼女を救出するルートで見つかるメモが手がかりになっていくのだが、今回は合同進行の特殊ルートだからこうやって違った出方をしているわけだ』
『なるほどですねえ。世界の方も破綻しかかったルートを、どうにかアドリブで再構築しようとするのですね。そもそも私達の旅は全てこれでは?』
『鋭い』
「くそっ、幻聴が会話を始めやがった」
「ねえ、お客さんって街から来たんですか? 何のお仕事してるんですか?」
秋奈ちゃんが目をキラキラさせて尋ねてくる。
夏乃ちゃんも興味津々なようだ。
「東京で……って言っても、一応ここも東京か。そこで雑誌の記者をやっててね。取材に来たんだ。御降村には、変わったお祭りがあるんだろう?」
「記者さん!? わっ! 大変だよお姉ちゃん! あたし達取材されてる!」
「落ち着いて秋奈。ちゃんとしないと記者さんに失礼でしょ」
そう言いながら、夏乃ちゃんも髪を整えたりしている。
別に写真を撮るとも何とも言ってないんだけどな。
カメラはカバンの中に入ってはいるが、本格的なカメラじゃない。
撮れればいい、程度の、簡単なものだ。
「ええと、それで、お祭りの話なんだけど……」
「はい。御降村のミクダリ祭は、もうすぐですよ。お二人もぜひ参加していって下さい! 今年の主役は✕✕✕なんで」
聞き取れなかった。
誰かの名前を言ったようだが……。
俺には、その名前が美春さんにも、夏乃ちゃんにも、秋奈ちゃんにも……そして祐天寺の名前にも聞こえた。
どういうことだ……?
『全ての可能性が重なり合っているんだ。なお、女子全員が生贄になる乱交ルートもあるぞ。主人公は見てるだけだが』
『ダメじゃないですかそれー』
ええいうるさいぞ、幻聴!
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