第19話 三人の師匠
ダイオンとチエリを連れて、王国の様子を見るために戻った。
王都周辺は巨大な水晶の中に取り込まれており、侵入が叶わない状況だ。
ここに至り、チエリはなんか絶望して崩れ落ち、ダイオンは雄叫びをあげながら水晶を攻撃し続けた。
水晶は時間そのものの概念を固めたものだから、物理攻撃で破壊することは叶わない。
不死王が持つという禁呪、ディスペル・マジックが必要になるのだ。
ちなみに俺は……。
「これでマリーナをNTRされる危険を回避しながら、次の帝国との本番イベントに挑む強さを手に入れることができるな……」
どこで不死王と出会えるかまで頭に入っている。
俺はこのアクシデントを、自分の成長のために使わせてもらう気満々だった。
『ですが勇者よ、ちょっとは絶望しているような演技をしたほうがいいのではないですか?』
「言われてみればそうだ」
ハッとする俺。
アーアー、マーマーマー、と声を整えたあと……。
「うおおおおおマリーナーっ!! どうして! どうしてこうなってしまったんだー!! うおおおおおお!! おろろろろろろろろろろーん!!」
絶叫しながら水晶をガンガン殴り、号泣して見せた。
これにはダイオンがちょっとドン引きする。
「ジョナサン、そのな、気持ちは分かる。分かるからな」
冷静になっちゃったよ。
あまりの状況に、ダイオンもいつものいじめっ子ぶりが引っ込んでしまったのだった。
「俺は必ずマリーナを助け出すと誓う! ダイオンも誓え!」
「お、おう! ああ! もちろんだ!! マリーナ姫と王国を救う!!」
「わっ、私もですー!!」
三人で誓い合うのだった。
なお、救う方法は分かっているのだが。
ここで、ダイオンは俺達と別れる事となった。
「お前らがいると足手まといだ。俺は俺にできる方法で、この結晶化を解く方法を探す」
「ああ。俺達も強くなって合流するよ」
「ふん、期待しちゃいないがな。チエリは来てもいいんだぜ? お前にしかできない仕事があるからな?」
おっと、ダイオンがエッチな視線を送ってきたぞ。
チエリがもじもじした。
……ので、視線の間にスサーッとスライドして俺が割り込んだ。
「てめえ! またキモい動きしやがって……! まあいいか。せいぜい頑張れよ。俺はこれから努力をする。お前をどんどん突き放すからな、ジョナサン!!」
「ああ! だが俺だって強くなる!!」
「無駄だよ。てめえじゃたかが知れてる。強いやつに任せておけよ」
そう吐き捨てると、ダイオンは去っていった。
「んもーっ!! なんなんですかあの人!! ジョナサンさんだって必死なのに!!」
怒るチエリ。
『いやー、いい演技しましたねえ。あなたの心の声が聞こえているから、私もう笑いそうで笑いそうで』
「えっ!? 笑いそうで!? 一体何が!?」
セレスの声が聞こえるチエリが、大混乱だ。
まあ、説明は全てが終わってからにしよう。
これから俺達が向かうのは、冒険者の都、都市国家ポンドール。
だったのだがその前に。
俺達は妙なところに迷い込んだ。
道の半ばに、大木が生えている。
枝からはロープで棒が吊るされ、さらには人の形をかたどった、あちこちから棒の突き出た人形が設置されている。
それから、三本のロープが四方に張り巡らされた、一辺が5.5mほどの四角い……。
プロレスのリングだこれー!!
『こ、これは!』
「なんだなんだ、知っているのかセレス! ぶっちゃけこんなの、原作のゲームにないぞ! なんだこれは!」
「はわわわわ」
チエリなんか目を回してへたり込んでしまっている。
何が起こっていると言うんだ……!
『これは、権能を失わなかった限定神たちの住処です。限定神というのは、ごく狭い範囲のみを権能とする神々で、かつて偉大な功績を成したり、人の域を超えた者たちが神となったものです。私からするとずーっと下の神なのですが』
『おや、このα波が出ているような声は……。豊穣神セレス様』
『柔拳の神、エリルではありませんか!』
ちょっと低めの女性の声がして、すらっとしたおばさまが登場した。
美熟女だ!
エリルと呼ばれた彼女は、俺を見て目を細めた。
『ふうん……。この時代には珍しい、素手の武技を志す者がやってくるとはね。これもセレス様のお導きかしら』
『ほうほう! 確かにこのα波を感じる声はセレス様! いや、お久しぶりですな!』
ドタドタ走ってきたのは、ランニングシャツにステテコパンツの腹が出たおっさんだ。
明らかに黄色人種で一般人っぽいのだが。
『剛拳の神、ダン・リー!』
『なるほど、これがあんたたちの言うα波のする声の女神様か』
『見知らぬ客人の神……!』
派手な覆面姿にプロレスのタイツ、マントをなびかせた巨漢まで来たぞ!
なんだなんだ!
っていうかお前ら、全員α波こするのかよ!!
『彼らは皆、素手での戦い……格闘術を極めたことで神になった存在です。きっと、勇者が力を求めたことで、彼らの世界と繋がったのでしょう』
「なるほど、章と章の間のインターミッションだからこそ、狭間の世界と繋がったというわけか」
納得!
それに、ちょうど師匠が欲しかったところだ。
ここで格闘術を磨き、固有技を身に着けたい!
エリル、ダン・リー、そして覆面レスラーが俺の前に立った。
『鍛えがいのありそうな顔をしているね』
『まあ、まだ初歩を教えるに過ぎんがな! 久々に鍛錬をつけてやるぞ!』
『元気ですかーっ!!』
パァン!
「ウグワーッ! このレスラーいきなり張り手してきたぞ!!」
だが、張り手を喰らった瞬間、俺のスキルポイントがちょっと増えた。
これは……。
師匠たちに特訓をつけてもらうことで、格闘術の固有技を覚えるためのスキルポイントが溜まるやつだ!
「よし……まずはあんたに……いえ、あなたに特訓をつけてもらいます! 覆面レスラーの神よ、お名前を……」
『プロレスを知る者か。いいだろう。俺は夢の合間にこの地に降り立った幻。マスクド・オクタマと呼ぶがいい』
俺のパワーアップイベント(原作になし)が始まる!
お読みいただきありがとうございます。
面白い、先が気になる、など感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。




