第17話 その手は読んでいた!
砦を上に行くか、下に行くか?
上である!
砦の上にはラグーン帝国の旗が立てられているので、これを膝を使ってポキっと折るだめだ。
なぜか?
これをやられたら死ぬほど悔しいだろうし、おめおめと帰ることもできないからだ!
つまり嫌がらせである。
駆け上がりながら、出会う敵兵を次々にファルコンスラッシュで片付けていく。
こちらは常に敵が現れる想定で、技をぶっ放し続けているのだ。
ここで!
今まで死ぬほどやって来た、経験点稼ぎの素振りが生きてくる!
ファルコンスラッシュとは即ち、素振りの極致である。
完璧な姿勢で、最速で放たれる素振りが真空の刃を作り出して敵を攻撃する。
反復練習はファルコンスラッシュの使用可能回数を生み、空振り上等でひたすらにぶっ放すことができるわけだ。
「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」
『ウワーッ!! 勇者が剣を使っています!!』
「この状況だと、剣と格闘の併用が一番強いからな! こう言うふうに!!」
ファルコンスラッシュを抜けてきた敵兵を、浸透勁で鎧をぶち抜いて打ち倒す。
「ウグワーッ!」
「さっきからファルコンスラッシュが効きすぎてる。これ……浸透勁がファルコンスラッシュに乗ってるな。一割くらいの強さだけど」
『ほえー! 無駄だと思っていた格闘術、実は他の攻撃に関係が出てくるんですねえ』
「体の動かし方を担当するスキルだからな。これを極めていくと色々なものに関係してくる……おっと、最上階だ!」
幾つもの攻撃を受けているが、防御スキルを上げていたお陰でダメージがとても少ない。
旗がはためく真下に、その男がいる。
漆黒のローブを纏った男だ。
その下には黒い甲冑と、投げナイフが大量に。
担いでいる禍々しい形状の槍。
「超越せしお方よりの天命の通りか……」
「中ボスの黒い騎士? おかしいな。こんな序盤には出てこないはずだが」
『超越者の使徒です!! あんにゃろめ、勇者の召喚を感じ取り、あなたを倒すために虎の子の騎士を送り込んだのです!』
「なるほど。ここも原作とは違ってるわけか。俺がいること自体が原作から外れてるもんな」
俺は剣を担ぎ、身構えた。
黒い騎士も身構える。
「チエリ!! 合図しろ!!」
ここで、俺は腹の底から声を張り上げた。
夜の砦に響き渡る声に、ちょっと離れた岩山の上で、ビクッとチエリが反応したのが分かった。
目の端で捉えるのがギリギリだ。
黒い騎士は視界から外れると、すぐに仕掛けてきそうだもんな。
じりじりと、互いに攻撃のタイミングを伺う。
『勇者よ、勝ち目はあるのですか?』
「無いぞ」
『ええーっ!? どうするのですか!?』
「ダイオンの馬鹿が突っ込んでくるまで時間を稼ぐ。引き分けに持ち込めばドバっと経験点が入るぞ! 嬉しいよなあ!」
『命の危険なのにどうして嬉しいのですかー!』
俺は叡智なゲームを愛しているが、首筋がヒリヒリするような死にゲーも好きなんでな!
「貴様の技量は見切った。弱兵が……!」
黒い騎士が動いた。
と思ったら、俺の眼の前にいる。
遅れて、槍が突き出されてくる……!
だが、俺は既に常時ダッシュに切り替えていた。
これと軽気功を合わせることで、カクカクっと奇怪な動きが可能になるのだ!
「なにっ!? 我が槍を躱すとは……! 我が目には、大した強さもない育ちかけの騎士にしか見えぬのに……」
その見立ては正しい。
だが、俺はスキルツリーでへんてこな成長の仕方をしている。
全て、この世界にメタを張るRTA的なやり方だ。
次々に繰り出される槍。
これをカクカク移動で回避し、時に鉄の手で弾く。
「ファルコンスラッシュ!」
「甘い!」
俺の攻撃は攻撃で、こいつはローブを翻すだけで受け止めてしまう。
地力が違うな!
こっちの攻撃は通用しないと思っていい。
だが、黒い騎士の攻撃も当たらない。
俺はひたすら回避し、回避し、回避する。
これぞ軽気功の真髄!
「おのれ、ちょこまかと……。信じられない身の軽さだな。ならばこれでどうだ。貴様が呼びかけた、岩山にいるあの女に……ふっ!」
黒い騎士は片手だけの動きで、投げナイフを抜き放った。
普通ならこれはチエリのところに届かないはずだが……。
中ボスのこいつとの戦いだと、投げナイフの遠距離攻撃を回避するイベントがあるんだよな。
異世界NTRパルメディア、異常なくらいゲーム部分が凝っており、ストーリーも設定も凝っている。
制作者が仲間たちと一緒に五年掛けて作ったらしく、さっくりとNTRに到達できない辺りで不評を買っていた記憶がある。
それはともかく!
この投げナイフの効果を俺は知っている。
こいつは……当てた女を意のままに操るという、叡智なイベント特化の武器だ!
なぜそんな物があるのかと言われると、この世界が叡智なゲームの世界だからとしか言えない。
そして俺は……。
「その手は読んでいたぞ!! ここで真に軽気功が……生きる!」
超高速で俺は後退した。
さらにバックジャンプ!
これがゲームなら処理落ちしかねないほどの速度で後退したので、俺は投げられたナイフに追いつく。
そしてこれを素手で掴んで投げ捨てた!
いってー!!
防御スキルがあってもダメージ食らうなこれ!
黒い騎士の攻撃は受けたらダメだぞ!
「なん……だと……!? 我が誘惑の刃に追いつくなど……人の業ではない……!! なんだ! なんなのだ貴様……!?」
黒い騎士が混乱する。
その時には、俺は旗の下まで移動している。
折るぞ折るぞ!!
「旗から離れろ、貴様っ!!」
再び、黒い騎士がこちらに近づこうとし……。
その時、砦の下の方にダイオンが到着した。
砦の扉が半壊し、あのパワー馬鹿が侵入する。
攻略ルートによってはラスボスを務めるダイオンは、不意を打って俺が勝ったことはあるが、そもそもジョナサンが足元にも及ばない天才騎士なのだ。
「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」
「オラオラオラオラオラ!! どけどけどけどけどけーっ!!」
ダイオンの叫び声が響く。
これを聞いて、黒い騎士が顔をしかめた。
「計算外の相手ばかりだ……! お前もどれだけやるのか、こちらには見当もつかん」
黒い騎士は俺に槍を突きつけたまま後退した。
「今の貴様はともかく、下から来る敵が強いことは分かる。万一貴様に手傷でも負わせられれば、こちらが敗れる可能性もある。それは避けねばならん。超越せしお方のご意思のために。首を洗って待て。次は……殺す」
そう告げつつ、黒い騎士は闇の中に消えた。
『退いてくれましたか……? ふぃーっ!! 危うく勇者を失い、私は終わってしまうところでした……!』
セレスが俺の肩で、汗を拭う動作をしたのが分かった。
光しか無いのに器用だなあ。
かくして俺は旗を引っこ抜き……。
「ツアーッ!」
膝を支点に真っ二つに折った!
そこに駆けつけたダイオンが……。
「燃やそうぜ!!」
火をつけて、ガーデン帝国の軍旗は明け方には灰になってしまったのだった。
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