第155話 密着! ときめき学園野球部!!
野球場にやって来た。
青少年の家近所のおじさんおばさんが、練習風景の見学にやって来ているではないか。
少年たちが熱き血潮を燃やし、野球に懸けるひと夏の青春!
大人には最高のエンターテイメントだもんな。
昨日まではここにイワザルが混じってたわけか。
「おう、イワザルくん!」
「どもっす!」
顔見知りのおじさんまで出来てるじゃん!
そのおじさんは定年退職してから、夏は高校野球の追っかけをやってるらしい。
趣味に生きる余生だなあ。
「おや? もしかしてイワザルくんのお友達と彼女さん?」
「友人です」
「彼女じゃないでーす」
「彼女じゃ……ないです……」
「そうかー、青春だなあ!」
おじさんがいい笑顔になった。
答えがどうあれ、青春であることに代わりは無いもんな。
だが、俺は俺で仕事がある。
「すみません。野球部は誰が女性が所属していたりしますか?」
「ああ、そうだねえ。見たところ、マネージャーさんが女の子かな?」
「なるほど……。ということは、そこ以外はNTRの気配が無いわけだ……。いや、男が男にNTRされる……いやいやいや、ときめき学園はそういう要素は存在しないゲームだったから、それは無い」
「城之内くんが何かブツブツ言い始めました……」
「あれじゃない? これは彼の中で、何か推理が進んでるやつ!」
鋭いな、黄瀬。
俺は独り言をやりながら考えをまとめていくのだ。
普段はここから、先の展開に関する予想や現れる間男タイプの予測を行うのだが……。
「どう考えても何も出てこない。野球部……シロなのでは……?」
「そ、そんなことはない……気がするぜえ」
やはりイワザル……。
お前、ただただ野球を見ていただけだな……!?
「おっと、今日は試合形式で見せてくれるのか! こいつは嬉しいなあ!」
「マジっすか! いやー、得したなあ! 昨日までの練習の成果をバッチリ見れるなんて! 本当に野球っていいものだなあ!」
イワザルゥ~!
まあ、好意で協力してくれているわけだし、文句を言うのも違うだろう。
今日は俺も骨休めだと思って、のんびりと練習試合を眺める……。
おや?
なんだかホーム側の観客席が賑やかになってきた。
あれは……吹奏楽部とチアリーダー部!!
なるほど、応援も実戦形式で行くのか。
……うちの応援団は?
いや、まだ発足したばかりで、どう応援するかというスタイルが確立されていない。
合宿後半戦で、厚木先生は俺達に本番をやらせるつもりだろう。
今回はともに応援するみんなのお手並みを拝見だ……。
「オ、オカルトの気配は無さそうですね……」
吹奏楽部とチアリーダー部の放つ陽のオーラが眩しいらしく、黒須は俺の影に隠れて移動している。
こんなんで学園女子最強の持久力を持っていると言うから、人間は分からないものだ。
黄瀬は陽の者なので、全然平気で俺の横を歩いている。
俺達がいるのは、観客席に向かう階段だ。
「城之内くんは、ネトラレ……? っていうのを憎んでるんだよね?」
「ああ、そいつを倒すのが俺のライフワークだ」
「だったら、イワザルくんに連れられてこっちに来たの、アリかも」
「なんだって!? 何を知っているんだ黄瀬!」
「あのね……。チアリーダー部は女子だけなんだけど、今ドロドロしてるの。我が放送部でもそのニュースを配信しようとしたら、公序良俗に反してるって顧問からアウト扱いされてさ」
「どういうことなんだ……?」
「転校生の女子がいるんだけど、彼女が次々に恋人持ちの女子を食ってるってウワサ」
「な、なにぃーっ!!」
間男ならぬ、間女!!
前に聞いた気もしたが、変化球でやって来たな。
ただの生徒だとも思いたいが、ほとんどの使徒の条件は、学外から来た存在であること。
間女が転校生なら、条件に合致する。
「私、彼女と顔見知りなんだけど……」
「な、なにぃーっ!?」
「協力して欲しい? 欲しい~?」
「よ、よろしく頼む!!」
「城之内くんが……下手に出ています……!」
黄瀬翔子、恐ろしい女だ!
チアリーダー部は、吹奏楽部の演奏に合わせてチアリーディングをしていたのだが、一通り終わるとスンッとなった。
なんだなんだ?
盛り上がりが無いぞ。
「あれが問題なのよね。この共学の学園においてチアリーダー部って女の園なわけ。そしてその中で、カップリングが成立してたりしてたんだよね。だけど、そこに彼女がやって来て全てが変わってしまった……!」
黄瀬の視線の先……。
ちょっとギスギスしているチアリーダーたちの中に立つ、スラリと長身の日焼けした女がいる。
彼女はちらりとこちらを見ると、ニヤッと笑った。
「あら、翔子じゃない。どうしたの? 私のモノになりにきた?」
「残念ながら私は異性愛者でーす。風吹さんは部活の中に何人も恋人がいるんだから、そちらで満足して下さいな」
「あらー。それは私のペットよぉ? 本当のきらめく獲物は……翔子。あなたみたいなキラキラした女の子じゃないといけないんだから!」
「遠慮しまーす」
笑いながらその場を離れる黄瀬なのだ。
一瞬前まで彼女がいた場所を、つむじ風が駆け抜けたように見えた。
風吹と呼ばれた女が、俺をじっと見る。
「もしかしてあんたが、翔子の彼氏だったり……? その覇気、そして私を見る鋭い視線……。あり得るわねえ……。邪魔者は排除しないと……」
風吹の表情が、猛禽を思わせるそれに変わった。
……と思ったら、俺の影から黒須がひょこっと覗いたので、毒が抜けたようだ。
「なーんてね、冗談冗談! 誰だか知らないけれど、チアも吹奏楽部も練習してるんだから邪魔はしないでね?」
そう告げて、風吹が去っていく。
「使徒ですねミノリー。しかも……昨日の熱波師と同じ上位の使徒です」
「奴が炎なら、こいつは風というわけか」
思わぬ場で、戦いの機会を得られたようだな。
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