第121話 やはりこの世界も狂っている!
足元でモチョモチョと動くものがいるので、なんだなんだと思ったら。
「ミノリー!」
「あっ、このチンチラみたいな不思議な生物、鳴き声からしてセレスだな?」
「はっ! 私の存在に気付かないと喋ることができない呪いをかけられていたのですが一瞬で解けましたミノリー」
何をRTAされたヒロインみたいなことを言ってるんだ。
「セレスの侵入に気付いて呪いを掛けたやつがいたのか?」
「私が見るに、この世界は様々な場所で暮らしている人々を取り込み、退廃と不貞の世界へと誘うもののようですね。誰もが認識を歪められているようで、それが私たちも例外ではなかったのですミノリー」
確かに、俺がここに来る前に遊んでいたゲームが、学園ものだった。
俺はパルメディアのように、この世界に呼び込まれたというわけか。
「では俺は一体どのような認識の歪みを……?」
「そうですね。恐らくは……。勇者よ! ここにあるスマホを見るのです! 男子限定学園裏SNSというのがあるでしょう」
「あるな。この肉体の持ち主が楽しんでいた、アングラなネットの世界であろう」
「大変な実りの気配がします。見てみて下さい」
「セレスが実りというということは、叡智だということだな? どれどれ……? ははーん、これはNTRした女の痴態を目元に黒い線だけ入れてアップするオカズの共有場所だな。……むむっ! 俺がピクリともしない! こ……これは賢者モード!! そうか、俺に起きた認識の歪みは、賢者モードの固定か!!」
ここまで言ってから、俺は首を傾げた。
すごいデジャヴを感じる。
「しかし、賢者モードが固定されているとNTRを仕掛けてくる間男どもへの怒りが燃え上がるな。賢者モードでない時は、いいぞもっとやれって思うんだが。そうだ。まずはこの裏SNSの主催者を爆砕するのはどうだ」
「落ち着きましょう勇者よ。今の私たちは、状況を把握していません。ここは新たなる敵の懐の中ではないでしょうか? 情報を集めて、敵の実在を探っていく必要があると思うのですミノリー」
「なるほど、言われてみれば確かに。マスコットモードの方が理知的だなセレス……。さて、俺は一体誰なんだ……? 生徒手帳があるな。どうやら制服姿のまま寝転んでいたようだ。城之内雪之丞……? それが俺か。そしてセレスは……城之内が飼っていたチンチラのピギー……」
情報が集まってくるぞ。
とりあえず、俺がどこの誰なのかは分かった。
私立ときめき学園高等学校。
その一年生である城之内雪之丞だ。
ごく目立たない、いわばモブ生徒だったようだが……。
スマホの中には週刊少年誌購読サブスクや、叡智なソシャゲが入っている。
そして彼はタブレットも持っており、そのストレージの中には……。
「プロレスの動画だ! こいつ、強さに憧れているぞ! だから俺がこいつの中に入り込んだというわけか。そして壁にはマスクが掛かっている……セレス」
「なんですかミノリー」
ペレットをかりかり齧っていたセレスが体ごとこっちを向いた。
身も心もチンチラになってしまって!
「この世界はどうやら、俺のいた現実に非常に近い。つまり、法が機能しているということだ。下手な動きをすれば、俺がこの世界によって捕縛されてしまうかも知れない」
「なるほど……。では勇者はどうやって戦うのですかミノリー」
「こうだ!!」
俺は覆面をかぶった!
これで俺は謎のマスクマンであり、城之内雪之丞ではない。
「これで完璧だ。後は間男を見つけ、倒せばいい……」
「なるほど! なかなかこの世界もシンプルなのですねミノリー」
「突き詰めれば何もかもシンプルな結論に落ち着くものだ。では行くぞセレス! パトロールだ! ついてこい!」
「では私の定位置に、ミノリー」
俺の背中を駆け上がったセレスが、肩の上にくっついた。
そして透明になる。
なるほど、特別な力があるようだ。
俺も、パルメディアにいた頃とは比べるべくもないとは言え、全身に剛拳と柔拳、そしてプロレスの教えがみなぎっている。
超人ではなく、あくまで人間という領域に留まっているだけで、俺は俺なのだ。
敵が常識的な間男ならば、これで十分であろう。
この世界はNTRれ青春! ときめき学園!的な世界であるとするならば、学園NTRもの。
戦闘が存在せず、お使いクエストやNTR現場発見、フラグ構築によるNTR進行を裏SNSで知るなどするのが醍醐味のゲーム世界なのだ。
こうして俺はセレスとともに窓から外へと飛び出し……。
今まさに、間男によって関係を引き裂かれんとする響と赤佐を見つけたのだった。
カッとなって間男を瞬殺してしまったが、使徒だった。
何の問題もあるまい。
こうして時間軸は現代に戻る……。
※
「ということだ。俺はこの世界の人間ではない。全てのNTRを爆砕するためにここにいる……」
「そうだったのか……。だけど城之内くん、それは無茶ってものだよ。この学園全体が変なんだ。いつもどこかで、誰かが女の子を狙っている気がする。一瞬たりとも気が抜けない。あそこの空っぽの席があるだろ? 正義感の強い、瀧尾くんという生徒がいたんだけど……。不良どもにボコボコにされて今は入院してしまったんだ。それ以来、この学園の秘密を嗅ぎ回る生徒はいないんだ」
「なるほどな……。つまり、ときめき学園を探る者をサーチし、痛めつけるためのガーディアンのようなものだろうな」
俺は得心する。
「では、まずその不良どもとやらを片付け、この学園に宣戦布告してやろうではないか……!!」
鞄の中に、覆面も用意してある。
準備は万端だ!
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